異世界モンスターブリーダー ~ チートはあるけど、のんびり育成しています ~

柑橘ゆすら

【悲報】俺の正体が魔王だった!



 無事にペンダントをゲットした俺は、そのまま魔王城の最深部《玉座の間》に向かうことにした。

 掌の中のペンダントが熱を持って光を放っている。
 おそらく光の強くなる方向を目指して行けば『玉座の間』に到着するのだろう。


「ここか……!」


 光が最も輝くスポットを発見した俺は壁の部分にペンダントを押し付けてみる。

 その直後。
 先程まで何の変哲もなかった壁にポッカリと洞窟の空間が出現する。


「なんだよ……これ……」


 穴の奥にあったのは、この世のものとは思えない不思議な光景だった。

 あるある!
 こういう外界とは隔たれた雰囲気の謎空間、ロールプレイングゲームの最終決戦ではお馴染みだよなー。

 ぷかぷかと周囲に隕石のような物体が漂っていて、さながら宇宙にいるような気分である。


 キャロライナ・バートン
 性別:女
 年齢:372
 状態:衰弱


 謎空間に挟まれた通路を渡っていくと、目的の人物はそこにいた。


「キャロ!」


 声を大にして叫んだ俺はそのままキャロライナの元に駆け付ける。

 何日もロクにものを食べていないのだろう。
 両手両足を鎖で繋がれたキャロライナは、見るからにボロボロの様子だった。


「ご主人……さま……」


 俺の存在に気付いたキャロライナは今にも消え入りそうな声を上げる。

 届く……!
 もう少しで……!

 キャロライナと俺の距離がボールに戻せる範囲である5メートルに迫ろうとした直後だった。


 イブリーズ
 性別 :男
 年齢 :502


「――やれやれ。このボクが人間ごときに素通りされそうになるとはねぇ」


 1人の男が俺の行く手を塞いだ。

 トクンッ。
 男の姿を目の当たりにした瞬間、俺の心臓は大きく跳ね上がることになる。

 なんだ……こいつ……!?

 初めて会ったはずなのにまるで他人という感覚がしない。


 魔王イブリーズ。


 アーテルハイドの歴史に疎い俺ですら、その名前は幾度となく耳にしたことがあった。

 間違いない。
 今俺の目の前にいる男はかつてこの世界をあまねく支配した魔王である。

 けれども、何故だろう。
 どういうわけか俺は……コイツのことをずっと知っていたような気がするんだよな。


「――カゼハヤ・ソータくん、だよね」


 男らしさを感じるズッシリと響く声。

 声についても同様である。
 俺はコイツの声を初めて聞いたはずなのに、何故だかそんな気が全くしない。


「嬉しいよ。そちらから来ない場合はボクの方から会いに行こうと思っていたんだ。これは手間が省けたよ」


 俺の行く手を塞いだ魔王はニッコリと薄気味の悪い笑みを零していた。


「どけよ。俺はアイツのことを助けるためにここにきたんだ」

「ふふふ。大丈夫。焦る必要はないよ。特別な魔法を使って彼女の体調はギリギリのところで整えてあるからね」


 クソッ! 何が『大丈夫』だよ!
 キャロライナを酷めに合わせている張本人が好き勝手に言いやがって!


「それよりボクはキミと話がしたい。たぶんキミだって久しぶりにボクの体を見て、そう思っているはずだろう?」

「……どういうことだ?」

「ハハッ! やっぱりそうだ。キミにはまだ自覚がなかったみたいだね。魔王イブリーズ、それが前世におけるキミの名前だよ」

「…………!?」


 今明かされる衝撃の新事実――。


【悲報】俺の正体が魔王だった!


 何故だろう。
 ありえないことを言われているはずなのにイブリーズの言葉はスッと俺の胸に落ちていた。

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