異世界モンスターブリーダー ~ チートはあるけど、のんびり育成しています ~

柑橘ゆすら

VS 黒の剣士2



 それから。
 俺はレミスさんと軽く作戦会議をした後、クロウのいる場所に駆けつけることにした。


「ご主人さま。おそらく私の力でクロウを足止めできるのは1分が限度です」

「ああ。1分も時間を稼げれば十分だよ」


 スパイフィッシュ LV 5/5  等級G

 生命力 13
 筋力値 13
 魔力値 13
 精神力 6

 スキル
 水属性魔法(初級)


 今回の作戦の鍵になってくるのは、レミスさんから貸してもらったスパイフィッシュである。

 ステータス的には貧弱極まりないスパイフィッシュだが、透明の体は海では見つかりにくいという利点があった。


 俺の考えた作戦は以下のようなものである。


 まず、キャロライナがクロウの注意を引き付ける。
 そして《変身》のスキルによりスパイフィッシュに姿を変えた俺が背後からクロウに接近。


 カプセルボールを投げてゲットしようという計画である。


「……いた!」


 スパイフィッシュに姿を変えて泳いでいると、ついにはターゲットであるクロウを発見する。

 カラスの羽のようなマントを羽織ったその男は、潜水魔法を用いて人魚城に接近している最中であった


 タツノコファイター LV 25/25  等級C

 生命力 188
 筋力値 293
 魔力値 118
 精神力 230

 スキル
 水属性魔法(中級)


 今現在。
 クロウは5匹のタツノコファイターに取り囲まれている最中であった。


「「「「「プシュウウウウウウウウウウ!」」」」」

「……くだらん」


 クロウに向かって5匹のタツノコファイターたちが、一斉に飛びかかって行く。

 しかし、次の瞬間――。
 信じられないこと起こった。


 嘘……だろ……!?


 青色の中に血の赤色が立ち上る。

 5匹のタツノコファイターたちは、断末魔の叫びを上げる間もなく体をバラバラにされていた。

 最初に断っておくと、タツノコファイターは決して弱いモンスターではない。
 それどころか海中戦においては、クラーケンと肩を並べるほどの戦闘能力を誇っているはずであった。


 許せねぇ……!
 よくもこんな惨いことを……!


 よくよく見るとクロウが通ってきたその道は、レミスさんの眷属たちの亡骸で埋まっていた。


「久しぶりですね。双剣のクロウ」

「ほう……。随分と懐かしい顔だな」


 キャロライナの姿を目の当たりにしたクロウは感心した面持ちで呟いた。


「おかしいな。吸血鬼族の始祖――キャロライナ・バートン。お前の身柄はセイントベルの奴隷商に引き渡したはずだが?」

「貴方に殺された仲間たちの無念――今ここで晴らします!」


 キャロライナの攻撃。
 キャロライナは風魔法を使って海中を縦横無尽に移動する。

 さ、流石はキャロライナ!
 風属性魔法(上級)のスキルを持ったキャロライナであれば、海中においても超スピードの移動を可能にしている。

 いくらクロウと言っても、このスピードに対応することはできないだろう。


「――その程度の魔法でオレを攪乱したつもりか?」


 不敵に笑ったその直後。
 クロウの周囲に無数の渦潮が発生する。


「風属性魔法(超級)――トルネード・ビュフス。光栄に思え。魔族を相手にこの魔法を見せたのは初めてのことだ」


 発生した渦潮は次々に合体――。
 やがては1つの大きな竜巻を作っていく。

 ブウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 竜巻は周囲の生物たちを飲み込んで雪だるま式に巨大化していく。

 風魔法を使いこなすキャロライナですら竜巻の引力から逃れることはできなかった。


「…………ッ!」


 渦の中に閉じ込められたキャロライナは、その身をズタズタに引き裂かれてしまう。

 クソッ……!
 今すぐに変身スキルを解除してクロウのことをぶん殴ってやりたい

 けれども、今は我慢の時である。
 キャロライナが注意を引き付けてくれている間に、少しずつクロウとの距離を縮めていくんだ!


「不可解だ。何を企んでいる?」


 その気になれば何時でも倒すことができるという絶対的な自信があるのだろう。
 クロウは竜巻を解除して、満身創痍になったキャロライナの元に近づいていく。


「貴様は決してバカではない。先の戦闘でオレには勝てないと学習していたはずだろう?」

「…………」


 まずい!
 クロウが俺たちの作戦に気付きかけている。

 チャンスを伺っている余裕はない。
 ここは一気に接近して勝負を付けなければ!

 いっけえええぇぇぇっ!

 俺は全速力でクロウに接近すると、口の先からボールを出してクロウの首筋にボールを押し当てる。


 よしっ! 命中!


 何はともあれ、これで人魚城の平和は守られた。

 余計な仲間が1人増えちまったような気がするが、処遇に関しては追々考えていくことにしよう。

 ククク。
 キャロライナを傷つけてくれた報いは、キッチリと受けてもらうからな!


「む? なんだ? これは?」


 え? どうして? なんで?

 カプセルボールを右手に掴んだクロウは不思議そうに首を傾げていた。

 弾かれたわけでも、服に当たったわけでもない。

 正真正銘、肌に接触しているはずである。

 それなのにクロウを捕まえることができないんだ!?


「そうか。お前はカゼハヤ・ソータというのか」


 はい? 今なんて?
 聞き間違いでなければ俺の名前が聞こえてような気がする。


「興味深いな。お前はオレを倒すことのできる『何か』を持っているのか」


 間違いない。
 クロウは俺の存在に気付いている。


 な、なぜバレたぁぁぁっ!?


 俺の変身のスキルは完璧だったはず!

 慣れない魚の体で泳ぎ方はぎこちなかったかもしれないが、それだけでは俺の名前を特定することは不可能である。


「――魔眼。お前の持っている鑑定眼の上位互換のスキルだ。魔物に姿を変えているようだが、表示されている名前でバレているぞ」


 こ、これはアカン!

 撤退! 撤退!

 俺はキャロライナをボールの中に戻すと、全速力でクロウと距離を取る。


「バカか。お前? オレから逃げられるはずがないだろう」


 う、動けん――!
 まさかと思って振り向くと、クロウが俺の尻尾を掴んでいた。

 こ、こいつ――!
 仮にも俺は海洋生物だぞ!?

 距離だって最後に確認した時には、10メートル近く離れていたはずである。

 どんだけ超スピードで動いているんだよ!?


「――そうか。遠くからではステータスを確認できなかったが、これで納得がいったよ。お前はその《絶対支配》の加護を用いて、オレをボールの中に閉じ込めようとしたわけか」

「…………」


 バレているし!

 そうかー。
 そうか。そうかー。

 俺の《鑑定眼》のスキルでは、魔物の保有スキルは分かっても人間の保有スキルまでは分からない。

 けれど、そちらさんの《魔眼》のスキルは人間の保有スキルまで看破してしまうのですね。上位互換ですもんね。


「狙いとしては悪くなかったが、残念だったな。オレの保有する《選ばれし者の威光》の加護は、あらゆるスキルを無効化する力を持っている。故に貴様の騙し討ちは無意味に終わったというわけだ」


 クロウよ。
 1つだけ言わせてはもらえないだろうか。

 インチキ効果もいい加減にしろよ!!

 チート装備、チート剣技、チート魔法、チートスキル、チート加護。

 お前はアレか!
 中学生の妄想ノートの中の主人公かよ!


「……あの、ちなみに質問なのですが、謝ればこのまま見逃してくれたりするのでしょうか?」


 ここからの逆転するビジョンが全く浮かなばない。

 もしかしたら同じ日本から召喚された異世界人のよしみで助けてくれるパターンもあるのではないだろうか?

 元の姿に戻った俺はダメ元で命乞いしてみることにした。


「――論外だ。魔族に肩入れをした人間をオレが生かしておくわけがないだろう?」


 こ、こいつは本気だ。
 殺ると言ったら、殺る男だ。

 考えてみればセイントベルの街でAランク冒険者を斬り伏せた時からそうであった。

 人の命を虫けらのそれとしか思っていない戦闘狂。サイコパス。

 それがこのクロス・リュウキという男の性質なのだろう。


「茶番は終わりだ。我が聖剣のサビとなるがいい――!」


 ん。待てよ。
 本当に俺の同年齢の高校生が、こんな狂った価値観を持つことってあるのだろうか?

 俄かには考えにくい。
 普通、男子高校生というと女子高生のスカートの中身がどうなっているか? にしか興味のない年頃のはずである。

 その時、俺の脳裏に過ったのは、クロウを打破できるかもしれないたった1つの可能性。

 クロウの剣が振り下ろされようとする直前。

 俺はそのアイデアに賭けてみることにした。

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