異世界モンスターブリーダー ~ チートはあるけど、のんびり育成しています ~

柑橘ゆすら

勇者の相談



「やぁ。キミなら絶対に来てくれると思っていたよ」

 その日の夜。
 指定された酒場にまで足を運んでみると、爽やかなイケメンスマイルと共にガルドが出迎える。

 この酒場はどうやらセイントベルの冒険者たちの憩いの場となっているらしい。
 店の中に足を踏み入れると、ムワッとした男の臭いが立ち込めているかのようだった。


「すいません。実を言うとまだ仕事を受けると決めたわけでないんですけど……」

「なるほど。とりあえず話を聞きにきたって感じかな。何か飲み物を頼もうか。何かリクエストはあるのかな?」

「いいえ。特には……」

「マスター。彼に店特製のスペシャルドリンクを!」


 ガルドがパチンと指を鳴らした次の瞬間。
 店の奥からカイゼル髭を生やした店員が俺の席にドリンクを届けてくれる。

 うわっ!
 指パッチンで店員を呼び出している人って本当にいるんだ!?

 リアルでは初めて見たな。


「……それでは依頼内容に移ろうか。キミはこの街に住み着いた魔族の噂を聞いたことがあるかな?」

「いえ。初めて聞きました」

「……実を言うとここのところセイントベルの東の屋敷に魔族が住み着いたという噂が立っていてね。ギルドの方も秘密裏に高ランクの冒険者たちを調査にいかせているのだが……1人の例外もなく返り討ちにあっているんだよ」

「それが魔王の仕業だと?」


 どうにも胡散臭い。
 そもそも俺の中の魔王イメージとしては、なんというか時空の狭間に建てられた壮大な塔の最上階に居座っている感じである。

 普通に考えれば……街の屋敷に住み着いたりはしないだろう。


「……断定はできないが、可能性は十分にあると考えている。魔王復活の予言は有名な話だからね。キミに頼みたいことは……東の屋敷に住み着いた魔族の討伐ということになるのかな」

「…………」


 可能性の話かよ!
 なら最初からそう言ってくれたら余計な手間をかけずに済んだというのに!


「すいません。どうにも信頼できないのでその話は無かったことに……」

「成功報酬は払う。3000万コルで手を打ってはいれないだろうか?」

「3000万!?」


 い、いくら何でも高額報酬過ぎないか?
 アーテルハイドの3000万コルという金額は、現代日本の3300万円の価値に相当するものがある。


「ああ。僕は由緒正しき勇者の家系に生まれた人間だからね。それくらいのカネを用意するのは簡単なことなんだよ」


 知らなかった。
 勇者の末裔っていうのはそんなにリッチな生活を送っていたのか……。

 よくよく考えてみるとガルドの提示した条件は都合の良いものに思えてきた。

 だってそうだろう?
 ガルドの話を聞いた限りでは、街の屋敷に住み着いた生物が魔王という気は全くしなかった。

 どう考えても偽物の魔王を倒すだけで3000万コルが手に入るというのならば依頼としては破格だろう。

 鉱山採取のクエストで一攫千金を果たした直後だが、資産が増えることに越したことはない。


「分かりました。俺が倒せるというかどうかは分かりませんが、出来るだけのことはやってみます」

「本当かい!? 嬉しいよ! 共に世界の平和を守るために戦おう!」


 俺が取引に応じると、ガルドは爽やかなイケメンスマイルを浮かべるのであった。


 ~~~~~~~~~~~~


 それから1時間後。
 酒場でソータと別れることになったガルドは、仲間たちの待っている廃墟にまで足を運んでいた。

 この廃墟は魔族狩りグループ『薔薇の宴』が集会に使用するアジトである。


「クハハ。どうやら上手くいったようだな」


 アジトの中でガルドは、仲間たちと一緒に酒場の中で談笑していた。

 彼らはガルドによって雇われた無法者で、必要に迫られれば人を殺すことすら厭わない実力者であった。


「しかしボスも性格が悪いぜ。また漁夫の利を掠め取ろうってわけかい」

「ふふ。ボクの話術にかかればこれくらいどうってことのない話だよ」


 表向きには『屋敷に住み着いている魔族を倒したら3000万コル』という契約を結んだのだが……ガルドの思惑は違った。

 ガルドはソータと魔族が戦って互いが弱ったところで、一網打尽にして手柄を独り占めしようと考えたのである。

 仮に相手が上級魔族ならばソータのことを見捨てて逃げればいい。

 カネに釣られた冒険者を魔族退治のための『捨て石』に使うのは、ガルドたちグループの常套手段となっていた。


「……気に入らないな。こんなセコい真似をしなくても魔族なんか俺が一撃で倒してやるのによ」


 盛り上がるメンバーとは対照的に不満を零すのは『薔薇の宴』屈指の実力者――ドモンであった。
 身長2メートル近い巨躯から繰り出される繊細な剣技を持ち味とするドモンは、グループ設立当初からガルドのことを支えてきたのである。


「ドモンよ。そう脹れるな。お前の実力は買っているが……どんな仕事にも万全を尽くすのが俺たちのやり方だろう?」


 ガルドはドモンの機嫌を取るために空になっていた盃に酒を注ぐ。 

 ――勇者の血を引くガルドの一族は、魔族討伐の功績を上げるごとに国から多額の助成金を得ることが出来る立場にあった。

 だがしかし。
 かつては無敗の栄光を勝ち取った勇者の家系も時が経てば唯の人に成り下がる。

 ガルドの一族は勇者の名の元にゴロツキたちを集め、魔族を狩ることで何とか今の地位を維持していた。

 300年という時を経て勇者の一族は完全に腐敗していたのである。

 国から得られる報奨金は討伐した魔族の脅威度に比例する。

 ことさらに『魔王』の存在を強調したのは、話を大きくした方が国から助成金を多くせしめることができるからであった。


「そんじゃま。ボクらの魔王討伐ビジネスの成功を祝って乾杯と行きますか!」


 作戦の成功を確信したガルドは、上機嫌に仲間たちと盃を乾かすのであった。


 ~~~~~~~~~~~~


(……なるほど。そういうことでしたか)

 一方その頃。
 眷属であるコウモリの1匹の眼を借りてガルドたちの様子を窺っていたキャロライナは、額に青筋を立てていた。

 アーテルハイドを統治していた魔王という存在が人々から恐れられていたのは過去の話。

 今ではその威光に陰りがさして、その名を金儲けのための道具のように扱うものすら現れる始末であった。


(こんな低俗な目的のために……魔王さまの名を利用するなど言語道断です)


 ガルドたちの会話を聞いていたキャロライナは、静かな殺意を燃やすのであった。



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