異世界モンスターブリーダー ~ チートはあるけど、のんびり育成しています ~

柑橘ゆすら

異世界でトラブルを解決しよう



「痛いッス! 自分が何をしたって言うんスか!」

「大人しくしろ! このチビ女っ!」

 本日の日銭を稼ぐためズマリアの湿地に向けて歩いていると何やら街の中から穏やかではない会話が聞こえてきた。


 総合武具店 【紅の双刃】


 声のした方に目をやると、そこにあったのはやたらと見覚えのある店であった。

 セイントベルの街で武器店を営んでいる少女、シエルは人相の悪いモヒカンの男に絡まれていた。

「おらっ! とっとと外に出ろよ! ウチの商会でじっくりと話をしようや」

「……うぐっ。ぼ、暴力は反対ッス!」

 モヒカンの男はシエルの髪の毛を掴んで強引に店から引きづりだす。
 シエルの目は恐怖で怯えているかのように見える。

 幼い少女が助けを求めているにも関わらず街行く人々は、見て見ない振りの様子であった。
 その事実はこの世界の治安レベルを如実に表していた。

「ディーとキャロはボールの中で待機していてくれるか? 何か面倒なことになりそうだし」

「了解~」

「承知しました」

 俺は二人をボールの中に戻すと、モヒカンの男の方に向かって歩く。

「すいません。何かあったんですか?」

「ああん? なんだお前は?」

「ソ、ソータさん!?」

 どうして自分の名前を知っているのだろう?

 などと疑問に思ったのだが、よくよく考えてみればシエルの店で武器を購入する際に会員カードなるものを作っていたことを思い出す。


「悪いけど、これは俺たちの問題なんでね。部外者は引っ込んでいろよ」

「まあまあ。そう言わずに。何があったのかくらいは教えてくれてもいいじゃないですか」


 ここで事を荒げても事態を悪化させてしまうだけだろう。
 俺はなるべく相手の機嫌を損ねないよう下手に出ながらも尋ねてみる。

「別に俺たちは何もやましいことはしてないぜ? 貸した金を回収する仕事をしているだけさ。ちなみにこれがその借用書。
 その女の父親は、俺たちから300万コルもの大金を借りたまま蒸発したんでね」

「なるほど。しかし、そんな大金を急に用意するのは難しいのでは?」

「ああ。だから俺は、早いところそこにあるボロ店を売り払って資金を集めるように忠告していたんだわ」

「こ、この店は自分の師匠が残してくれた店ッス! 簡単に他人に明け渡すわけにはいかないッス!」

 13歳という年齢で店を切り盛りしていることからも、何か訳ありなのだろうと考えていたのだが――。

 シエルの方にも並々ならない事情があったのだろう。

「……というわけだ。金が用意できないなら仕方ねえ。この女を奴隷にして体で返してもらうことにしたのさ」

「借金は毎月、分割払いで返済しているはずッスよ! どうして今になって急に取り立てを厳しくするんスか!?」

「うるせえっ! こっちにも色々と事情があるんだよ。まったくやってられねえぜ。貴族に売って大金を得る予定だった高級奴隷を逃しちまってウチの部署のノルマが跳ね上がっちまうしよ。……ったく。こんなクソ忙しい時期なのにバグラジャ様は何処に行ってしまったんだか」

「…………」

 モヒカン男は苦々しくも愚痴を零す。

 男の言葉を聞いた俺は大まかにだが、今回のトラブルの原因について理解した。

 どうやら男たちの店がキャロライナを売ることで得るはずだった利益が宙に浮いてしまったことで、そのしわ寄せをシエルが被るハメになってしまったらしい。

 どう考えてもこれは……俺の方にも責任がありそうだ。

 だってそうだろう?
 元を正すと、俺がキャロライナのことをカプセルボールでゲットしなければ今回のトラブルは起こらなかったわけだからな。

「あの。その借金なんですけど……俺が肩代わりして払うわけにはいかないですかね?」

「ソ、ソータさん!?」

 突然の提案を耳にしたシエルは、目を見開いて驚いていた。

「……ハンッ。笑わせるな。そんな貧乏臭い装備をした冒険者に何が出来るんだよ?」

「…………」

 たしかに普通に依頼をこなしていては、短期間で300万コルもの大金を用意するのは不可能だろう。

 けれども、1つだけ方法がある。
 幸か不幸か俺は、その大金を手にする方法をついさっき知ったばかりであった。

「3日ほど待って下さい。必ず300万コルを用意してみせますから」

「バカがっ! 話にならねえな。待ったところで俺たちに何の得がある。お前の何を信用しろって言うんだよ」

「まあまあ。そう言わずに。騙されたと思って」

 俺はポケットの中から取り出した金貨をモヒカン男の掌に握らせた。

「これは前金です。もし俺が約束を破って逃げるようなら返さなくて結構です」

 賄賂を与えた途端、男の頬は急激に緩んでいくのが分かった。

「……ハッ。面白れえ。そこまで言うのなら少しだけ待ってやるよ。まあ、待ったところで何も変わらないだろうけどな」

「…………」

 金貨を受け取ったモヒカン男は機嫌を良くしてシエルの店を後にする。

 さてさて。
 今日の遠征だが、どうやら行先を変える必要が生じてしまったようである。

 目指すはカスールの森――ドラゴン退治で一攫千金だ!


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