異世界モンスターブリーダー ~ チートはあるけど、のんびり育成しています ~

柑橘ゆすら

交易都市セイントベル



 それから。
 どれくらい1人で歩いただろうか?

 アフロディーテのやつは暫く前にカプセルボールの中に入ってから姿を見せていない。

「いいこと。ソータ。これからアタシは、基本的にボールの中で過ごすことにするわ。何か用があったら呼び出しなさい!」

 それというのもアフロディーテの奴がこんなことを言い出したからである。

 以前までカプセルボールに入ることを嫌がっていたはずなのに一体どうして? 
 と思うかもしれないが、そこには色々と複雑な事情が存在していた。

 どうやらカプセルボールには、失ってしまった彼女のステータスを取り戻す効果があるのだとか。

 いや。
 俺だって半信半疑ではあるんだぞ?

 何でも聞くところによれば、カプセルボールには全ての状態異常を回復させる強力なヒーリング効果があるらしい。
 そういうわけで中に入っていることで、彼女のステータスを下げる『呪い』を弱めることが可能というわけである。

 加えて中に入っている間は腹も減らないし、喉も乾かない、あらゆるストレスが蓄積されないという、地球の常識では測り知れないような環境が揃っている。

 カプセルボールの中を覗いてみると、アフロディーテはゴブリンたちに囲まれながらも気持ち良さそうな表情で呑気に寝息を立てていた。

 ご丁寧に愛用の枕&草原の枯草をボールの中に持ち込んでいて、ベッドまで作っていやがる。

 自由に出入りできないことを除けば、カプセルボールの中はなかなか快適な環境であるらしい。

「おい。街に着いたみたいだぞ」

 街に着いたら起こすという約束をしていたので、アフロディーテのことをボールの中から出してやる。

「んん~。あと5分だけ……」

「お前が起こしてくれって言ったんだろ。寝惚けている場合じゃないぞ!」

 ちなみにアフロディーテが寝ている間に俺は手持ちのゴブリンは37匹にまで数を増やすことに成功した。

 こんなにゴブリンばかり捕まえて大丈夫なのかという不安もあるが、少なくとも目の前にいる女神さまよりも頼りがいがある気がする。



【交易都市 セイントベル】



 街の看板にはそんな言葉が書かれていた。

 アフロディーテ曰く。
 地球から召喚された人間には、もれなく異世界の言語に関する知識が付与されることになっているらしい。

 すんなりと俺が看板の文字を読めたのにはそんな理由が存在していた。


 ロックタートル LV8/10 (使役中) 等級 F

 生命力 55
 筋力値 128
 魔力値 7
 精神力 5


 そこで俺が注目したのは大きな亀に引かれて走る車であった。

「なぁ。ディー、聞いてもいいか? あの乗り物は何なんだ? 街のあちこちを走っているみたいだけど」

 街の中には、ロックタートルの他にもゴブリン・オークなどの様々な魔物が存在していた。

 その頭上には(使役中)という文字が表示されている。
 どうやらこの世界では、魔物を労働力として扱うことは一般化されているらしい。

「……さあ?」

「さあ? って……」

「いいこと。ソータ。女神だからってアタシが何でも知っていると思ったら大間違いだわ! この世界にモンスターが何百種類いると思っているの? 
 アタシだって実際に地上に降りた経験があるわけじゃないし、モンスターの名前を1匹1匹覚えてなんていないわよ!」

「それは分かったけど……」

 どうしてそこで得意顔になるんだよ?
 今更ながらに気付いたけど、この女神さまって地上では全くの無能だったりするのだろうか?

 疑問に思った俺は、そこで改めてアフロディーテのステータスを確認する。


 アフロディーテ
 種族  神族
 レベル 3620

 生命力 29778
 筋力値 4
 魔力値 18
 精神力 13

 スキル
 UNKNOWN


「なあ。お前のスキル欄にアンノウンって書いてあるみたいだけど。これはどういう意味なんだ?」

「ああ。アタシのスキルが他人から見ることが出来ないのは《スキル秘匿》の効果によるものね。そういう効果を持ったスキルも存在するのよ」

「おおー。やっぱり神族というだけあって凄いスキルを持っているんだな!」 

 弱体化したとは言っても、流石は女神と言ったところだろうか。

 僅かではあるが、この世界で生活してみて分かったことがある。
 このアーテルハイドでは、何よりもまずスキルが物を言う仕組みになっている。

 神族であるアフロディーテの強力なスキルの力を借りることが出来れば、異世界での生活がグッと楽になるに違いない。

「ま、まぁねー。アハハ。アハハ」

「おい。どうしてそこで目を逸らす」

「えーっと。実を言うと……アタシの持っているスキルの大部分は地上に降りたときに神族がかかってしまう『呪い』の効果で封印されてしまったのよ。だからソータが期待しているような効果のものはないと思うわ」

「……そうか。まあ、そんなことだろうと思ったよ」

 アフロディーテは異世界に地球人を送る目的について『魔王を討伐してもらうため』と言っていた。

 神族が異世界で力をフルに発揮できたら、それくらいのことは自分でやることが出来るのだろう。

「ところでソータ。アタシから一つ質問があるんだけど」

「おう。何だよ」

「たしかにアタシのスキルは地上では使えないものばかりなわけだけど……。だからと言ってアタシのことを見捨てないわよね?」

「…………」

 涙を滲ませながらも不安気な眼差しのアフロディーテ。

 俺が無言でいるとアフロディーテは、あからさまに動揺をしていた。

「言っておくけどアレよ! 言い忘れていたけど、女神であるアタシに酷いことをするとロクな死に方しないからね!? 
 ソータが地獄に行くように全力で呪ってやるんだからっ! 他人を呪うことに関してはアフロディーテちゃんは天界一! と、もっぱらの評判だったんだからね!」 

「分かったよ。見捨てないから! 見捨てないから、そんなに引っ付くな!」

 まったくもって……この女神さまは頼りにならないやつである。

 俺は不甲斐ない女神さまのことを養ってやれるだけの甲斐性を身に付けるべく――。
 異世界で仕事を探すことを決意するのであった。




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