劣等眼の転生魔術師 ~ 虐げられた元勇者は未来の世界を余裕で生き抜く  ~

柑橘ゆすら

古代魔術研究会



 そこは、まだ昼間だというのに、全くと言って良いほど陽の光が差し込まない場所であった。
 ノエルに案内されて向かった先は、学園の地下にある初めて足を踏み入れるエリアである。


【一般生徒立ち入り厳禁】


 先程から気になって仕方がないのが、一定間隔おきに設置された表札であった。

 随分と厳重に置かれているのだな。
 一般生徒立ち入り禁止、の意図することは良く分からないが、少なくとも無許可で立ち入って良い場所ではない気がする。


「おい。本当にこっちで合っているのだろうな?」

「…………」


 尋ねてみるが、返事はない。
 代わりにノエルは小さく頭を縦に振ったようだった。

 
「ここ」


 そう言ってノエルは唐突に廊下の真ん中で立ち止まる。

 ふうむ。
 これまた随分と古典的な仕掛けが施されているのだな。

 どうやらこの先は隠し扉となっているようである。


「そこで待っていて」


 前置きをしたノエルは、制服のポケットの中から光リ輝く石を取り出した。

 よくよく眼を凝らしてみるとノエルの取り出した石には、ちょっとした細工が施してあるようだ。

 ノエルは細い手を伸ばすと、傍にあった石像に鍵となる石をハメ込んでいく。


 ガチャリッ!


 次の瞬間。
 石像に石がハメこまれるのと同じタイミングで、壁の奥からロックが解除される音がした。

 俺のいた200年前の時代にも、この手の仕掛けは数多く存在していた。

 この手のアイテムは『鍵石』と呼ばれ、一部の貴族、力を持った商人の間で重宝されていたものである。


「……ここがウチの研究室」

 
 隠し扉の中で俺を待ち受けたのは、数千冊にも上るだろう書物が収納された部屋であった。

 中はというと、学生用の研究室というには大きすぎるが、図書室と呼ぶには少し物足りない。そんな雰囲気の場所であった。


「他の学生たちの姿が見えないようだが?」

「いない。この研究会に入っているのは今のところワタシ1人」


 なるほど。
 もしも先程ノエルが渡した『迷宮回路』が彼女なりの『入会試験』だったのだとしたら、他に会員がいないにも納得である。

 あの試験は俺だから難なく解くことができたのだが、一般の学生レベルでは突破が不可能だろう。

 研究室の中は狭いなりによく整理が行き届いており、なかなかに好感が持てるものだった。


「おや。この本は……?」


 何気なく棚にあった本を手に取った俺は、そこで興味深い事実に気付く。


 随分と古いな。


 発行日を見ると今から50年近く昔に発行されたものだということが分かる。

 疑問に思って調べてみると、やはりそうみたいだ。
 この本棚に置かれている本は全て今から50年以上も昔に発行されているものである。街の書店では見たことのないものばかりだった。


「一番古いものは今から100年前のものか……。これより古いものはないのか?」


 もしかしたら俺のいた200年前の時代の本が見つかるかもしれない。
 そんな期待を抱いていたのだが、次にノエルが口にした言葉によって、俺の希望は粉々に打ち砕かれることになってしまう。


「存在しない。過去の魔術書の大半は、100年前の《大災厄》によって焼失した」


 それから。ノエルは《大災厄》について説明をしてくれた。

 今から200年以上も昔の話だ。
 風の勇者ロイを筆頭とする《偉大なる四賢人》は、この世界を支配する《黄昏の魔王》を打ち倒して、世界に平和をもたらした。

 まあ、ここまでは俺もよく知っている話だな。

 問題が起きたのは、それから1年もしない間のことだった。

 魔王の統治していた領土を『どうやって分配するか?』という問題を巡り、人間同士で戦争が起こった。

 この戦争は100年にも渡り続くことになり、多くの犠牲者を出すことになった。

 何とも情けない話である。
 この戦争によって犠牲になった人間の数は、《黄昏の魔王》の統治下で犠牲になった人間の数と比べて遥かに多いものだったらしい。

 長きに渡る戦争によって人々の心身は疲弊していった。
 そんな時代の中で生まれたのが《反魔術》の理念、現代で言うところの《AMO》の前身となる組織であった。


 彼らは魔術を憎み、この世界から魔術を取り除くため、あらゆる努力を試みた。


 具体的には世界中の魔導書を焼き払い、この世界の魔法技術を衰退させようと試みたのである。


「しかし、奇妙な話だな。それほど大きな事件があったというのに、どうして世間はそれについて語ろうとしないんだ?」

「……簡単な話。この世界の権力者の中には《反魔術》の理念を持った人たちが多いから。焚書について触れるのは禁忌とされている」

「…………」


 そこまで聞いたところで、俺は長年抱いていた1つの疑問に答えを出すことができた。

 この世界の魔術が衰退したのは『魔道具』にあると考えていたのだが、やはりそれだけが理由ではなかったようだ。


 今更説明するまでもなく、魔術の発展のためには優れた魔導書を後世に残すことが必要不可欠である。
 

 悪意を持った人間たちが過去に書かれた魔導書を焼き払い続けたのだとしたら、現代の魔術の衰退にも納得がいくものがある。


「現代の魔術は堕落している。この研究会の目的は太古の昔に存在していた、優れた魔術を学ぶこと」


 殊勝な心掛けである。
 この時代に生きる人間の多くは、現代の魔術が衰退していることに気付いていない。

 この女はそこに気付いているだけ、魔術師として優れた才能があるということなのだろうな。
 

「……笑わないの?」

「どうして笑う必要がある」

「だって……。他の人たちは、魔道具を使った、現代魔術の方が便利だって言うから……」


 なるほど。
 おそらく古代魔術を専門に研究しているノエルは、これまで他の魔術師から『変わり者』として扱われ、肩身の狭い想いをしてきたのだろう。


 たしかに魔道具は便利だ。
 

 古代の魔術と比べて、現代魔術が劣っているかというと、一概にはそうとも言い切れない面がある。

 誰もが画一的に同じような魔術を使用できる魔道具は、それはそれで便利な面も存在している。


「笑わないさ。それが何であれ、俺には他人の努力をバカにする趣味はない」

「……不思議な人。ねえ、貴方の名前を聞いても良い?」

「アベルだ」

「これ、この部屋のカギ。よければ明日もまた来て欲しい」


 そこでノエルが取り出したのは、先程、彼女が部屋に入る時に使っていた鍵石であった。

 ふうむ。
 俺としては別に研究会に参加する意思はなかったのだが、成り行きで面倒な依頼を受けてしまったな。

 だが、ここで断るという選択肢は俺の中にはなかった。

 なんと言っても、この部屋には街の本屋では絶対に目にすることができないような珍しい本がたくさんあるからな。

 明日も行けるかどうかは分からないが、また気が向いた時にこの部屋を訪れることにしよう。

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コメント

  • 面白い☺!!!!!!!
    いつか氷の女王もアベルにデレるのだろうね

    1
  • 黒林檎

    はよ!続きはよ!

    3
  • ノベルバユーザー246638

    はぁ…最高…

    2
  • アガルニ

    やっぱり面白い
    氷の女王もいつかデレる…?

    1
  • ペンギン

    スゴく気になります!
    続きをお願いします!

    0
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