劣等眼の転生魔術師 ~ 虐げられた元勇者は未来の世界を余裕で生き抜く  ~

柑橘ゆすら

トレーニングルームでの出来事



 俺こと、アベルは200年前から転生してきた魔術師である。
 以前に暮らしていた世界では、俺の琥珀色の目は差別の象徴だった。

 そんな時代に辟易した俺は、理想の世界を求めて200年先の未来に転生した。

 さて。転生後の生活は、概ね、平和だ。
 ひょんなことから国内有数の魔術校、アースリア魔術学園に通うことになった俺は、今日も今日とて代り映えのない日常を送っている。


「なあ。あの一年、一体どのくらい走っているんだ?」

「信じられねえ……。たぶん一時間くらい前からずっとだろ……」


 今現在、俺が何をしているのかというと日課となっている体力トレーニングである。

 どうやら現代の魔術師は体力トレーニングをおろそかにする傾向があるらしい。

 せっかくの休日だというのに学園地下に設立されたトレーニングルームは、何時も通りにガラガラだった。

 はあ。
 宝の持ち腐れとはまさにこのことだな。

 この学園は、各種設備が充実しているのだが、当の学生たちはいまひとつそれを活用していないような気がする。

 せっかく10台も用意されているランニングマシーンなのだが、同時に3台以上稼働するところを見たことがない。

 まあ、そのおかげで俺が自分のトレーニングに専念できている部分もあるのだから、悪いことばかりではないのだけどな。


「うおおおお! 師匠発見! 探したんすよ~!」


 俺がそんなことを考えていると、どこからともなく馴染みのある声が聞こえてくる。


 コイツの名前はテッドという。


 焦げた飴色の金髪と筋肉質な体つきが特徴的な男である。

 ちなみに俺はテッドのことを弟子にしたつもりは毛頭ない。
 何の因果か幼少期にコイツのことを助けて以降、『師匠』と呼ばれて、付き纏われるハメになってしまったのである。


「こんなところにいたんスね! もしかして、探しても見つからない時はいつもここにいるんスか?」


 はあ。最悪だ。
 よりにもよってテッドにこの場所を見つけられてしまうとはな。

 俺にとってこの場所は、学園にいながらにして、のんびりとした時間を過ごせる優良スポットだったのだが、テッドに発見されてしまった以上、そういう認識は改めていく必要がありそうだ。


「さあな。そんなことより俺に何の用だ」

「ああ! そうだった! そう言えば前々から聞きたいと思っていたんスけど、師匠ってもう入る研究会を決めたんスか?」

「いや。特には決めていないが……。それがどうかしたのか?」


 以前に聞いたことがある。
 アースリア魔術学園には、通常授業に加えて放課後学生たちが自主的に活動する『研究会』という制度が存在しているらしい。

 研究会、と言っても所詮は学生レベルなので、ほとんどのものが半分お遊びのようなものらしいのだが、中には優れた功績を上げて、国家から表彰されるケースもあるのだとか。


「これから自分、研究会の勧誘イベントに行こうと思っているスけど、師匠も一緒にどうッスか?」

「悪いが、他を当たってくれないか? 生憎と俺はそういった類のものには興味がないのでな」


 200年前の世界で散々経験をして思い知った。

 魔術の研究は1人で行うのが最も効率が良いのだ。
 今更、他人と一緒に魔術を研究したところで、有意義な時間を過ごせるとは全く思えない。


「まあまあ、そう言わずに! せっかくの機会なんスから! もしかしたら師匠の興味を引くような気があるかもしれないッスよ!」


 テッドが食い下げるので俺は考えを改めてみる。

 う~ん。
 たしかに『所詮は学生たちの遊び』と決めてかかるのも賢い選択肢とも言えないか。

 俺としたことが、少し狭量だったのかもな。

 何事も自分の眼で見て、調べてみないことには、正しい知識を身に着けることは難しいのである。


「分かった。勧誘イベント、案内しろ」

「了解ッス!」


 もちろん、現段階においては学生たちの作った研究会に参加するつもりはないのだが、自分の世界を広げる助けにくらいはなるかもしれない。

 テッドに急かされた俺は、タオルで軽く汗を拭った後、トレーニングルームを後にするのだった。

 

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