劣等眼の転生魔術師 ~ 虐げられた元勇者は未来の世界を余裕で生き抜く  ~

柑橘ゆすら

エリザの失恋


 アースリア魔術学園の1年生塔は、男子たちの部屋が1階と2階、女子たちの部屋は3階と4階という風に分けられていた。


 しかし、ここで1つ問題があった。


 男女の部屋を分ける2階と3階の間には、教師たちの監視の眼が行き届いているのである。

 
 毎日、夜が更けると、階段前の寮の宿直室に、見張りの人間が入るようになっていた。

 つまりは、消灯の時間は、2階と3階の行き来はできなくなってしまうのだ。


(……仕方ない。背に腹は代えられないわね)


 普通に階段を下りたところで教師に発見されてしまうのは必然だった。

 残されたルートは外。
 2階の窓を使ってアベルの部屋を目指すしかない。

 覚悟を決めたエリザは3階の窓を開いて、近くにあった背の高い木に飛び移る。

 まさかスカートを履いた状態で木登りのようなことをする日が来るとは、思いも寄らなかった。


(……たぶん、これ、下から覗かれたらパンツ丸見えね)


 エリザは冷静にそんな分析をしながらも木を伝って、2階の窓を通り抜ける。

 チャンス到来。
 タイミングが良かったのか、2階の廊下は、見渡す限り人気(ひとけ)のない状態であった。

 エリザは素早く、そして忍び足で、アベルの住んでいる238号室に向かっていく。


「えーっと……。たしかこの辺よね……?」


 ドキドキと心臓が高鳴っている。
 もしもこの光景を誰かに見られようものなら、妙な噂を立てられることは必至である。


「あっ。この部屋じゃないかしら……!」


 ノックをしようか、と思ったが、微妙に扉が閉まり切っていないことに気付く。

 いけないことだけど、ちょっと覗いてみよう。

 軽い気持ちで覗いてみると、そこで待っていたのは、エリザにとって衝撃的な光景であった。


「アベル様……。本日の外出はいかがだったでしょうか」

「ん。まあ、それなりに有意義な時間を過ごすことはできたと思うぞ」


 部屋の中でアベルと話していた女性は、エリザにとって見知った人物であった。

 男子生徒たちが教室の中でよく噂にしているのを耳にすることがある。


 彼女の名前はリリス。
 

 同性のエリザが見惚れてしまうような、スラリと長い手足と白雪のように美しい銀色の髪の毛を持った絶世の美女である。
 
 今となってはアースリア魔術学園において、リリスの名前を知らない学生はいないだろう。

 学園に赴任して間もないうちから、無数の男子生徒たちのハートを射止めてきたリリスは、すっかりと学園の有名人となっていた。


「ところで、今夜はこの部屋に泊まって行ってもよろしいでしょうか?」

「バカを言うな。学園の中では細心の注意を払って行動をしろと言っているだろう」

「そうですか。では、せめて……」


 次にリリスの取ったエリザの度肝を抜くものであった。
 何を思ったのかリリスは唐突にアベルの手を取って、唇を重ね合わせたのである。


「えっ。ええええええええええええっ!?」


 普段のクールな雰囲気がウソのよう――。
 アベルの口付けを交わしたリリスは、人が変わったかのように情熱的な様子であった。


「あわわわっ。わっ。わっ。わっ」


 あまりの衝撃的な光景に開いた口が塞がらない。

 口から魂が飛び出してしまうような勢いでショックを受けたエリザは、グルグルと眼を回して、膝から崩れ落ちるのだった。




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コメント

  • 少しエリザが可哀想になってきた

    0
  • 赤井  紅

    早く続きいいい

    2
  • 文月優作

    エリザ、アベル大好きじゃん……(笑)

    2
  • 佐藤 優奈

    最近見始めてハマりました。エリザアベル達に声聞こえないのかな?

    5
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