劣等眼の転生魔術師 ~ 虐げられた元勇者は未来の世界を余裕で生き抜く  ~

柑橘ゆすら

エリザの初恋



 一方、その頃。
 街から戻ったエリザは自室に戻って、シャワーを浴びていた。


「……楽しかった。こんな日は何時以来かしら」


 シャワー室から出たエリザは、ふわふわしたマシュマロのようなバスタオルで体に付着した水雫を拭う。

 猫の刺繍の入ったお気に入りのピンク色の下着を身に付けてから、髪を乾燥させる為の『ドライヤー』という魔道具のスイッチを入れた。

 熱風が送られる。
 ドレッサーの前に座り、自分の長い髪を乾かしていく。


 エリザの髪はストレートに近いが、少しだけ癖がある髪質だ。


 キチンと手入れをしておかないと跳ね上がってしまい、見栄えが悪くなってしまうのである。


「今日のアベル……。格好良かったなぁ……」


 不意にエリザの脳裏に過ったのは、最近、何かと気になっている琥珀眼の少年、アベルの姿だった。

 髪の毛の手入れを終わらしたエリザは、下着姿のままベッドの上に寝転がった。


「はあ……。アタシのバカ。どうして肝心なことを聞けなかったのだろう……」


 答えならとっくに自分の中で出ている。
 真実に迫ることによって、アベルとの関係が変わるのが怖くなってしまったのだ。
 
 アベルという少年が一体どういう素性を持ち、どういった経緯で、あれほどまでの力を身に着けたのか――。

 それは学園の入学試験を受けて以来、エリザにとって最大の謎でとして残り続けていた。


「アベルの奴……。今頃何をしているかなぁ……」


 枕元に置いてある『ジャミス』の人形を手繰り寄せる。
 人形をギュッと抱き締めてから、子猫でも抱き上げるように持ち上げた。

 勉強、スポーツ、果ては遊技場のクレーンゲームに至るまで、本当にアベルは何でも出来てしまう。


 クラスメイトたちは気付いていないだろうが、エリザだけは薄々と勘づいていた。


 以前、ハウントの授業で、内部生たちが放った術弾が一斉に消失するというアクシデントが起きたことがあった。

 最終的にあの事件は、魔道具の不調が原因ということで周囲の生徒たちは納得していたが、エリザの見解は違っていた。 

 あの日に起こった奇跡は、アベルの魔術によるものだったのだろう。


 トクンッ。


 不意にエリザは自らの胸が高鳴っているのに気付いた。


(なに……? この感じ……!?)


 抑えようとしても抑えることができない。
 唐突に湧き上がった『アベルに会いたい』という気持ちはエリザの胸の中で増幅して、彼女を苦しめることになっていた。

 幼少期より厳しい環境に身を置いて、異性と接した経験の少なかったエリザにとっては、今まで味わったことのない未知の感覚であった。


「そうだ……。今日の人形をもらったお礼、まだ言ってなかったっけ……!」


 悩んだ挙句にエリザは夜間にアベルに会いに行くための口実を閃いた。

 だが、1つだけ問題がある。

 アースリア魔術学園の校則には、『異性の部屋を訪れてはならない』というルールが存在しているのだ。


「いや、でも待って……!」


 名案を閃いたエリザは、学生鞄の中に仕舞っていた生徒手帳を取り出した。

 眼を皿にしながらも校則を読み直す。

 やはりそうだ。
 前述のルールは『緊急性の高い問題が発生した時』に限っては、特別に免除されるケースもあるらしい。


「……大丈夫。お礼を言っていなかったことは、アタシにとっては緊急性の高い問題だし!」


 学園のルールを都合の良いように解釈したエリザは、制服に着替えて、さっそくアベルの部屋に向かうのだった。


「劣等眼の転生魔術師 ~ 虐げられた元勇者は未来の世界を余裕で生き抜く  ~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

  • エリザ可愛ー|ωΟ。)グフフ

    0
  • うぇーい乁( ˙ω˙ 乁)

    可哀想なエリザ……( ⌯᷄௰⌯᷅ )

    2
  • ノベルバユーザー238880

    どっちが先かは知りませんが、これって、面白いんですけど...「失格紋の最強賢者」に似てませんか?

    13
  • 文月優作

    エリザ……尊い……

    6
コメントを書く