劣等眼の転生魔術師 ~ 虐げられた元勇者は未来の世界を余裕で生き抜く  ~

柑橘ゆすら

ゲームセンター



 エリザと2人で整備の行き届いた王都を歩く。
 
 しかし、驚いたな。
 これでも俺は今のこの時代に新しく生まれた文化について、それなりに学んできたつもりだったのだ。

 だが、実際はどうだ。
 この街は未だに『よく分からないもの』で溢れている。

 その最たる例が今目の前にあるこの店だろう。


「この店は何だ?」


 興味が湧いたので隣を歩くエリザに尋ねてみる。

 そこにあったのは、ガチャガチャと騒がしい音も響かせている謎の店であった。
 
 集まっている客層は様々で、老若男女、学生もいれば年寄りもいる。


「う~ん。なんと説明したら良いのだろう。巷では遊技場(ゲームセンター)と呼ばれている場所らしいわ」

「遊技場(ゲームセンター)? 何をする場所なんだ?」

「時間を持て余した人たちが、時間を潰すためにお金を浪費するための店ね」


 なんだ。その謎の店は。
 今の説明で逆に少しだけ興味が湧いてきたぞ。


「せっかくだし少し寄ってみるか」

「ええ。いいわよ。実を言うとアタシも、こういう場所にはあまり行ったことがなかったのよね」


 自動扉を潜り遊技場の中に入る。

 中は、なんというか独特な空気に包まれていた。

 外界から遮断された空間で、カードゲーム、チェスと言った見知った卓上競技もあったが、中でも圧倒的な存在感を放っていたのは、あの一番奥にあるものだ。


 絶えずガシャガシャと大きな音を響かせている怪しげな道具である。


 昔、本で読んだことがある。
 たぶんあれは『スロット』と呼ばれる遊具だろう。

 スロットの遊び方は下記のようなものである。


 まず客は胴元から購入したコインを賭け、スロットマシーンに投入する。
 

 スロットは一定の確率で大当たりをしてコインを増やす。

 このコインは現金との交換が可能らしい。
 
 俺からするとよく分からない心理なのだが、客たちは増える『かもしれない』コインを目当てに大金を注ぎ込んでくれるのだとか。

 ふと、俺の隣の骸骨の模造品がカタカタと喋りだした。


学生ガクセーども、その先の回胴式筐体は未成年ミセーネンは遊戯できねぇよ。あっちの全年齢ゼンネンレー向けを使いな」


 おせっかいにどうも。と思いつつも、スロットコーナーの方をちらりと見る。

 客たちは何かに取りつかれたかのようにスロットをプレイしている。

 一体何がここにいる人間たちを駆り立てているのだろうか?

 まあ、興味は持っても分かってはいけない世界だな。


「なんというか凄い世界ね」

「ああ。まったく未知の文化という感じがするな」


 俺たちは骸骨の模造品が指さした方に移動する。


 手動のドアを開けて隣のフロア。


 こちらの側は随分と雰囲気が違うな。
 ギラギラとした雰囲気のスロットコーナーとは違って、全体的に緩い感じの雰囲気で、明るい照明が降り注いでいる。


「ねえ! 見て! あそこに面白いものがあるわ!」


 そう言ってエリザが指したのは、これまた奇妙な形をした筐体であった。

 四角い透明な箱。
 上部にあるアームと呼ばれる、竜の手のような部品。

 ふむ。この筐体も以前に何かで読んだな。
 たしかこの筐体は『クレーンゲーム』という名前の遊具である。


「わ~。見て見て。『ミニマムモンスター』の人形があるわ。アタシ、このシリーズが好きなのよね」


 数ある筐体の中でも取り分けエリザが興味を示したのは、デフォルメされたモンスターの人形だった。

 んん?
 良く見るとこの人形、何処かで見覚えがあるな。


「ミニマムモンスター、とは何だ?」


 俺が問うと、エリザは『待っていました!』と言わんばかりの様子で解説を始める。


「ミニマムモンスターは、かつてこの世界に存在したとされる伝説の魔獣たちをキャラクター化したものなの。その数は、全部で200種類以上! 最近は都心の若者を中心にジワジワと人気が広がっているらしいわ」

「……なるほど。そういうことだったのか」


 道理で見覚えのある姿をしていると思った。
 このケースの中に入れられているモンスターは、どれもこれも俺がかつて戦ったことのある奴らばかりであった。


「アタシが好きなのは、断然このジャミスっていうキャラクター。外見はお世辞にも女の子から『キャー』と言われるような感じじゃないんだけど、たぶん普通に戦って強いのはこういうやつだと思うのよねえ」


 なるほど。
 何より『強いもの』好きのエリザらしい意見だな。


「実際、そうだな。ジャミスは強敵だった」


 鳥の頭と蛇の体を持ったジャミスは、地下から湧き上がった魔素の暴走によって突然変異のごとく出現したモンスターであった。

 その全長はおよそ5メートル。

 普通よりも巨大な方に含まれる魔獣だった。


 ジャミスの最も厄介だったのは、こいつの吐く特殊な息の性質だ。


 コイツの息はあらゆる有機物を石に変える性質があり、通常の冒険者では太刀打ちすることができず、俺の所属する勇者パーティーが派遣されることになった。

 あの時は大変だったな。
 俺たちが駆け付けた時には、既にジャミスが3個の村を石に変えた後だった。


「石化の息吹が厄介だったが、風の魔術を活用してなんとか討伐したんだよな。しかし、その後、村の人を助ける為に『解石魔術』を開発することになってな。あれには苦労したものだ」


 エリザと目が合う。

 ふうむ。俺としてことが迂闊だった。

 過去に戦った『強敵』について話をする時についつい饒舌になってしまうのは、昔からある俺の悪癖の1つだ。

 なんと言っても前世の俺にとって『戦い』とは、最大の娯楽と言っても過言でないものだったからな。

 人間というものは楽しかった記憶を語る時、普段よりも多く舌が回るものなのだろう。

 不意にエリザがクスリと笑う。


「アベルもそういう冗談言うのね。なんだか意外」

「……ああ。まあ、な」


 冗談ではなく事実なのだが、この場は冗談として流してもらうとしおう。 
 エリザがケースの向こうのジャミスを見ながら溜息を吐いた。


「アタシ、変なのかな? もっと可愛らしいモンスターは他にもたくさんいるのだけどね」


 ふう。エリザも年頃の娘のようなことを言うのだな。
 実際『周囲と違うことに悩む』のは、エリザのような年代の人間に多く共通することだろう。


「別に普通だと思うぞ。外見よりも大切なのは各々が内に宿している『本質』だからな」

「そっか。そうだよね」


 俺の言葉が気に入ったのかエリザは、何度もコクコクと首を縦に振って頷いていた。

 まあ、実際のジャミスはこんな可愛いものじゃなかったけどな。
 このケースの中にいるジャミス人形は適度にデフォルメ化していて、親しみやすいデザインとなっている。


「はあ……。何故か、このカラフルなクチバシがアタシの心を掴んで離さないのよねえ」


 その後もエリザは恥ずかし気もなく尻を突き出して、ジャミスの人形を食い入るように見つめていた。

 やれやれ。
 お前はもう少し人目を惹く自分の外見に自覚を持った方が良いと思うぞ?

 エリザの無防備な姿に惹かれてか、周りの男たちの視線がこちらに集まってくるのを感じた。


「欲しいのか? この人形」

「えっ」


 図星を突かれたエリザは、あからさまに動揺しているようだった。

 仕方ない。
 サクッと取ってこの場から出るか。

 俺は制服のポケットの中から革財布を取り出した。


「ほ、欲しいけど……。不可能よ! こんな小さなアームで大きな人形を掴めるはずがないわ!」


 エリザの言葉には一理ある。
 というのも、この『ミニマムモンスター』の入っている筐体は少し人気があるらしく、誰かが何回かやった形跡があった。

 中の人形が何体も倒れている。
 しかし、誰も取れていないようだ。


 もしや。と思い、解析眼を発動して、この遊具の構造を分析する。


 やはりな。
 この筐体は、そもそも人形を取らせる気がないようだ。

 アームの力は最低値に設定されており、いくらお金を注ぎ込んでも取ることは難しくなっているようだ。

 それにアームを動かす操作性もわざと悪く設定されている。
 
 悪徳商法もいい所だな。
 安心した。これならば俺も心置きなくやることができる。


「分かってないやつだな。その不可能を可能にするのが俺たち魔術師の役割だろう」


 何も人形を盗む訳じゃない。
 俺はしっかりと筐体の中に規定金額のコインを入れる。


 付与魔術発動――《握力強化》。


 後はレバーを操作して、アームの位置をジャミスの上に移動するだけでいい。


 ガランッ。
 コロコロコロ。


 いとも容易く人形を入手する。
 200年の時を超えて行われたジャミスとの再戦は存外、呆気ない形で幕を下ろすことになった。


「ほら。お前が欲しかったのはコイツだろ」

「えっ……?」


 人形を受け取ったエリザは暫くの間、『何がなんだか分からない』と言った様子で困惑していたようだが、やがて手にした人形で顔の下半分を隠して、ようやく重い口を開けた。


「……い、一応、受け取っておくわ。大切にする」


 無事に人形を入手した俺たちは遊技場を後にした。

 何故だろう。
 それ以降、エリザは一向に俺と目を合わせようとしないで、妙に余所余所しい雰囲気になるのだった。


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コメント

  • 強くなったテッドの兄が襲いに来るかʬʬʬʬʬʬ

    0
  • ノベルバユーザー190634

    俺の予測テッドの兄が殺しに来る

    8
  • 譱

    続き、待ってますー!

    2
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