劣等眼の転生魔術師 ~ 虐げられた元勇者は未来の世界を余裕で生き抜く  ~

柑橘ゆすら

体育の時間



 それから翌日のこと。


「うおおおお! ようやく体育の時間が来たッスね! 血が滾るッス!」


 更衣室で誰よりも先に運動着に着替え終わったテッドが、やけに暑苦しくそんな声を上げていた。


 ふむ。
 どうやら今日は7日に一度の体育の時間らしい。


 運動着に着替えた俺たちは、中庭にある訓練所に移動する。
 この手の準備は、男子よりも女子の方が時間のかかるものなのだろう。

 それから暫くすると、やや遅れて女子生徒たちが集まってくる。


「よっしゃ! 全員集まったようだな!」


 そんな頃合を見計らってか、少し離れたところから威勢のいい声が聞こえた。
 現れたのは紺色の運動着を身を包んだ浅黒い肌の男である。


「オレが体育教師のカントルだ。準備校出身の奴らは知っていると思うが、今年一年もよろしくな」


 なるほど。
 いかにも体育教師という雰囲気の男だな。

 外見だけで他人の内面を判断したくはないのだが、体育教師という割にはブクブクと余分な肉を蓄えているのは残念な感じである。


「カンちゃん。この前、酒場でひっかけた女はどうしたんだ!?」

「うるせえ! その話はするなって言っているだろう!」

「なぁなぁ。オレが今度、カンちゃん好みの巨乳の女を紹介してやるよー」

「黙れ! 黙れ! 生徒に女をあてがわれるほどオレは落ちていないやい!」


 生徒たちの笑い声がドッと上がる。
 おそらく内部生たちにとっては良く知った定番のネタなのだろうが、俺たち外部生は全く話題についていくことができない。

 その後も、体育教師カントルと内部生たちは世間話に花を咲かせていく。


「なにアレ。嫌な感じ」


 体育座りをしている運動着姿のエリザがポツリと呟いた。
 テッドが同感だと言わんばかりにブンブンと激しく頭を振って頷いている。

 ふう。
 他の授業でも全体的に内部生を贔屓する雰囲気は感じていたが、この体育の時間ではより一層、俺たち外部生は疎外感を味わうことになりそうだな。


「さて、今日は『ハウント』をやるぞ!」

「「「おおおおお!」」」


 カントルがそう言うと内部生たちがバカっぽいテンションで喜びの声を上げた。


「準備校出身の奴らは知っているよな? ハウントは他の魔術学校との『対抗戦』にも使用される『三大競技』の1つだ! 各自、しっかりとルールを把握しておけよ!」


 そう言ってカントルは、中庭の端に置かれていた手袋の入ったカゴを運んできた。


「ハウントはこの手袋型の魔道具を装備して行うことになる。勝負は基本的に8人1チームで……」

「カンちゃん! ルールなんて知っているよ!」

「ハハハ! お前たち、何も分かっていねーなー! 知らない奴、できない奴に合わせるのが授業なんだぞ!」


 カントルの含みのある言い方を受けて、内部生たちは再びドッと笑声を上げる。

 ふう。まるで俺たち『外部生』たちが、出来損ないの劣等生であるかのような言い草だな。

 もともと虐げられることに慣れてきた俺とは違って、他の生徒たちにとっては堪える展開だろう。 


「……殺す。アイツ等はここで殺した方が世の為ね」


 案の定、感情が表に出やすいエリザは殺気を剥き出しにして、メラメラと闘志の炎を燃やしていた。


「うわあああ! エリザさん! 抑えて! 抑えて欲しいッス!」


 今にも殴り込んでいきそうな勢いのエリザを慌ててテッドが静止する。

 やれやれ。
 この体育の授業は、何やら面倒なことになりそうだな。

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