劣等眼の転生魔術師 ~ 虐げられた元勇者は未来の世界を余裕で生き抜く  ~

柑橘ゆすら

放課後の図書室



 アースリア魔術学園には、大小合わせて5つの図書館がある。

 その中でも大図書館の蔵書の数は尋常じゃなく多い。
 何と言っても国内トップクラスの歴史を持つ学園であり、学外の研究員も大図書館を使っているそうだ。

 が、その為、人の出入りも多い。
 流石に図書室の中で喋るやつはいないのだが、それでも、人の移動や本をめくる仕草は気になってしまう物だ。

 だから俺は大図書館で本を借り、人気の少ない小さな図書館に移動して放課後を過ごしている。


 その場所は西側にある、チェスの駒のルークみたいな形をした建物の三階だ。


 ここは物静かな司書の先生が一人で管理しているだけであり、とても静かである

 書物を開き、紙を広げ、筆を執る。
 魔術の研究は主にここで行う。それが毎日の習慣だ。

 もちろん、図書室で研究せずに自室でやってもいい。


 だが、俺は毎日のこの時間、夕日の差した図書館の景色を眺めるのが好きだった。


 部屋の中で微かに漂う本の匂いは、気持ちを安らげるのに最適だ。

 学園に通い始めた頃こそ嫌気が差したが、こういう環境で生活できるのならば悪くない。

 ふと入口の扉が開いた。
 何気なく視線を移すと、見覚えのある少女がそこにいた。


「偶然ね。アベルもここで勉強していたんだ」


 西日のせいか、ほんのり顔が赤いように見える。

 しかし、偶然か。
 この場所を好んで使うのは俺くらいのものだと思っていたのだが、本人が偶然と言うなら偶然なのだろう。


「意外だな。お前が図書館で勉強するタイプだったとは」

「……心外だわ。アタシをなんだと思っているのよ」


 エリザは俺の前の席に座り、授業で使っている教科書を広げた。


「アベルはやらないの? 今日の課題」

「ああ。自室でやることにしている」


 授業で出される課題程度なら寝る前の数分で十分全部終わるからな。

 それから暫くすると、エリザの手が止まった。
 横目でちらりと見る。応用の所か。まあ、ひっかけ問題だな。


「……そこは公式が二つ絡まっている」

「え。そうなの?」

「ああ。まずは前式と後式を分離してみろ」

「……こう、かしら」

「そうだ。そこから共通項は除外して、後で計算する」

「なるほど。こうするのね!」


 エリザはコツを掴んだのか、その次の問題もスラスラと解き始めた。

 なるほど。テッドの百倍は応用力と理解力があるな。
 テッドのやつにもこれくらいの地頭があれば、もう少し教えがいというやつもあるのだけどな。

 それから暫くエリザに勉強を教えている内に、日が落ちて閉館の時間となった。


「ありがとね。その、勉強、教えてくれて。アンタの教え方、分かりやすかった」


 本を片付けている最中にエリザがそう言ってきた。
 あの程度のことで。別に感謝されるほど価値のあることをした訳ではないのだがな。


「アベルって、何時も図書館に籠って勉強しているわけ?」


 部屋から出て螺旋階段を下りる途中にエリザからそんな質問が来た。


「そうだが。何か変か?」

「別に変っていうわけじゃないけど。せっかく都会に来たのに街に出たりしないの?」

「街か。そうだな。暫くは行ってないな。生活に必要なものは売店で揃えている」

「でも、学校じゃ出会えないものだってあるわよ。例えば美味しいご飯とか、不思議な味の果物。何より珍しいお菓子とかね!」

「見事に食べ物だけだな」

「も、もちろん、食べ物以外も沢山良い場所があるわよ! そうだ、古本屋とか! 安くて珍しい本が買えるかもしれないわよ!」


 古本屋か。たしかにこの時代の本屋というものには一度立ち寄ってみたいところではあるな。

 それというのも学園の図書館に置かれている本は比較的近代に書かれたものが中心で、俺のいた200年前に読まれていた本が全くと言って良いほど揃っていなかったのである。


「ねえ。次の休みの日に、出かけてみない? 今日、勉強を教えてもらったお礼をしたいの」

「別に構わないが」

「じゃあ、決まりね! アタシ、王都は結構詳しいの。結構、美味しい店知っているんだから」


 それからというもの、エリザは暫く楽しそうに王都にあるオススメの外食店の話をしていた。

 その時、エリザが見せた表情は何時にも増して活き活きとしているように見えた。


 なるほど。
 エリザの体が同年代の女子と比べて、やたらと発育が良い理由が分かったような気がする。


 この女の頭の半分くらいは、何時も食べ物のことで埋まっているのだろうな。


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