劣等眼の転生魔術師 ~ 虐げられた元勇者は未来の世界を余裕で生き抜く  ~

柑橘ゆすら

エマーソンの評判



 その後、学校内の立ち入り禁止区域やら禁則事項など細かい説明が終わり、入学式が終わった。

 生徒たちがワラワラと講堂を後にして行く。
 人混みを避けたいのもあり、俺は少しばかり遅れて列の後ろを歩いて、周囲を観察していた。

 通路に置かれていた妖精の彫刻に目をやる。
 ふむ。何やらあの目の中から視線を感じるな。


 壊して中身を調べてみるという選択肢もあったが、入学早々に目立つような真似は避けた方が良いだろう。


 動く床の廊下を渡り、蛇柄の螺旋階段を登り切る。
 城の中腹に当たる教室。そこがAクラスの教室だ。


「なぁ。おい。聞いたか。昨夜のこと」

「知っている。マルスのやつ、外部生に頭突きを食らって、入学式から学校休んでいるらしいぜ」


 教室の中に入ると会話が止まり、ほぼ全員の視線が向けられる。

 俺は特に気にすることもなく空いていた後部座席へと移動する。
 どうやら今日時点では座席は指定制ではなく、生徒が自由に選ぶことが出来る形式らしい。


「な、なんというか。もの凄くアウェーな空気ッスね」

「そうか? これくらい別に普通だと思うがな」


 でもまあ、テッドの場合、無理もないか。
 生まれた時から眼のことで迫害を受けている俺とは違って、テッドは他人から悪意を向けられることに慣れていないのだろう。


 これは後になって知った話であるが、アースリア魔術学園に在籍する生徒のうち8割は『準備校』なる育成機関から上がってきた内部生たちらしい。


 準備校の出身者の両親は、教育熱心で金銭的に余裕がある、上流貴族が多いことから、内部生たちの中には歪んだ選民思想が芽生えることが多いのだとか。

 それから暫くすると、黒板側の扉が開く。


 教室の中に入ってきたのは、長身痩躯の若い男であった。


 んん?
 もしかしてこの男は、この時代の魔術師としては『それなり』な方なのではないだろうか?

 少なくとも転生後に出会った魔術師の中では、一番の使い手であるように見える。


「ねえ! ウソ!? もしかしてAクラスの担任ってエマーソン先生なの!?」

「信じられねえ! エマーソンって言うと、魔術結社クロノスの幹部候補じゃねぇか!」


 教室に入ってきた男を目の当たりにして生徒たちがザワ付き始める。


「うわあああ! エマーソンっていと、あのエマーソンなんスか!?」


 動揺しているのは内部生だけに留まらない。
 俺の隣に座っているテッドまでもが動揺を隠せずにいた。


「……有名なやつなのか?」

「もちろんッスよ! エマーソンっていえば現代魔術の第一人者ッス! この時代、最強とも噂されている魔術師ッスよ!」


 最強。最強ねえ。
 たしかにこの時代の魔術師の中ではそれなりに出来る方だと思うが、果たしてそこまでのものだろうか。

 俺のいた200年前の時代には、このレベルの魔術師は掃いて捨てるほどいたような気がする。


「噂によると、今年の入学試験の『魔術工学』の問題を作ったのは、エマーソン先生だったらしいッスよ。だからあんなに激ムズだったんスね」

「なるほど。そういうことだったのか」


 俺たちが受けた入学試験は『一般教養』『魔術言語』『魔術工学』の3種類であったが、その中でも『魔術工学』の試験だけは何故か他と比べて多少難易度が上がっていた。

 今にして思うと最後に出された『デポルニクスの最終定理』の問題は、おそらく俺以外の学生に解くのは不可能なものだっただろう。


「えー。皆さん。こんにちは。今日からこの1年Aクラスで担任を務めることになったエマーソンです。以後、お見知りおきを」


 教壇の上に立ったエマーソンは気の抜けた声で自己紹介をした。

 なるほど。
 とてもじゃないが、まともな大人には見えないな。

 頭の上には酷い寝癖が残っているし、よれよれのシャツは無残にもズボンからはみ出している。

 だがしかし。
 優秀な魔術師というものは得てして、内面に致命的な欠陥を抱えていることが多かったりもする。

 だからというわけでもないが、エマーソンに対する評価は暫く保留にしておくとしよう。


「あの、質問いいでしょうか?」

「うん。なんだい?」

「エマーソン先生はご自身の研究が忙しいので、滅多なことでは生徒たちに授業をしないと聞いたのですが。どうして急に担当のクラスを?」


 おいおい。この男、教師の癖に授業をしないのかよ。
 俺のいた時代には考えられないことだが、この時代においては普通だったりするのだろうか。


「そうだね。ボクは基本的に自分のことにしか興味がないから。教師という肩書を持っているのも、その方が国から研究費が下りやすいからであって、特にそれ以上の理由がないからね」

「で、では、一体どうして?」


 食い下がる女生徒に向かってエマーソンは言う。


「さぁ。強いているなら『確かめたいことがあった』からじゃないかな。それじゃあ、時間も押しているみたいだし朝のHRはこれで終わりにするよ」


 それだけ言うとエマーソンは教室を後にする。


 ふむ。あのエマーソンとかいう男は要注意だな。


 本人は上手く隠した気になっているようだが、逐一こちらの様子を伺っているのがバレバレだ。

 おそらく入学式の講堂で、ずっと俺に視線を向けていたのもエマーソンという男の仕業だったのだろう。

「劣等眼の転生魔術師 ~ 虐げられた元勇者は未来の世界を余裕で生き抜く  ~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

  • じゃあ200年前の最強ってエグいことになるってことじゃあー……

    0
  • イサム  カケル

    それなりが最強だと、普通は人外ですね!

    1
  • ゆぅいくん239984

    あ。わかった、それなりってこの時代で最強ってことだ。

    0
コメントを書く