劣等眼の転生魔術師 ~ 虐げられた元勇者は未来の世界を余裕で生き抜く  ~

柑橘ゆすら

勝負の行末

 

 少しでも気を抜けば途端に意識が飛びそうなプレッシャーの中、エリザは無心になって剣を振るっていた。


(強い……! この男……!)


 それこそがエリザがアベルに対して抱いた率直な感想であった。


 まず、魔術の構築スピードが尋常ではない。


 最初は何か魔道具を隠し持っているのではないかとも考えたのだが、そういうわけではないらしい。

 この男は完全に生身の状態で戦っているのである。

 信じられない話だ。
 素早く魔術を構築できるというのが『魔道具』の最大のメリットだというのに。これでは自分が何のために魔道具を使っているのか分からなくなってしまう。


 次に魔術の威力が尋常ではない。


 通常、魔術というものは、威力を大きくすればするほど処理しなければならない情報量が跳ね上がり、欠陥エラーも起こりやすくなってくる。

 だがしかし。
 この男の場合、どんなに威力を上げたところで、魔術の質に淀みがない。


 強い。
 強すぎて意味が分からない。


 しかし、目の前に広がる圧倒的な実力差は、逆にエリザの中の闘争本能に火をつけていた。

 次第にエリザは、自ら置かれた絶望的な状況を楽しむようになっていたのである。


火炎連弾バーニングブレット!」


 刹那、エリザの目前に合計で12個の火炎玉が浮かび上がる。

 止めを刺しにきた、ということをエリザは直感的に理解した。

 炎弾の1発1発に込められたエネルギーが尋常ではない。

 凡百の魔術師では、合計で12個もある火炎玉の1発分の威力ですらも出すことが至難だろう。

 当のアベルの方はというと、全力を出している素振りは微塵もなく、まだまだ余力があるように見えるのだから末恐ろしい。


(……どうやら出し惜しみしていられる余裕はなさそうね)


 今回の攻撃は完全に攻撃を回避することが難しい。
 かと言って攻撃を受け止めようとすれば、身に着けた防御魔術と一緒に意識まで吹き飛んでしまいかねない。

 悩んだ末にエリザが選んだのは、今まで意図的に封印してきた第三の選択肢だった。


 禁術――《茜射す天空ローズマダー・スカイ》。


 それこそがエリザが厳しい修行の末に体得した、先祖代々から受け継いできた究極の奥義だった。


 ~~~~~~~~~~


 ズガガアアアアァァァン!
 ドドドドオオオオオオオオオオン!


 俺の構築した《火炎連弾》によって大爆発が起こり、轟々と煙が立ち上っている。


 ふむ。少し驚いたな。
 どうやら今の魔術を食らっていても尚、エリザは無事でいるらしい。


 爆炎の炎が弱まり、視界が開けたものになってくる。
 直後、白煙の中で身を屈めるエリザのシルエットを確認することができた。


「キミ! 大丈夫なのか!?」


 エリザの身を案じた試験官の男が駆け付けにきた。


「防御魔術は壊れている! 今すぐ棄権しなさい!」

「いいえ。まだです」


 気丈に振る舞うエリザは、助けに駆け付けた試験官を一瞥する。
 その気迫に押された試験官は、思わず肩をビクリと震わせていた。


「たしかに試合には負けました。けれども、まだ個人的な決闘の途中ですので」


 とんでもない負けず嫌いだ。笑っちまうくらい。
 今更確認するまでもなく、今回の模擬戦のルールは『先に防御魔術を破壊された方の負け』だった。


 だが、これが試験とは関係のない、『個人的な決闘』ならば話は変わってくる。


 勝負はどちらかが戦闘不能になるまで続くことになるのだろう。
 つまりエリザは試合を捨てて、『自分で作ったルールの中での勝負』に勝ちにきたのだった。


「アタシは……。アタシが誰よりも強いことを証明するのよ……!」


 手にした魔道具を杖のように使って、エリザは立ち上がる。

 先程の魔術によるダメージが残っているのだろう。
 その足取りは見ていて痛々しく思える程に弱々しいものであった。


「1つ聞いていいか? 何故、この平和な時代で、そこまで『強さ』に拘る?」


 俺の暮らしていた200年前の時代ならいざ知らず、この時代にエリザのような負けん気の強い娘は珍しい。

 前にボンボン貴族(兄)が言っていたな。
 今のこの平和な時代では『魔術なんて使えなくても幸せに暮らしていける』のだ。


「平和なんて言葉はまやかしよ」


 ぽつりと、エリザは水でも零すかのように呟いた。


「泰平の時代……。争いのない百年……。本当にそうかしら? 隣国のクルドレアは、何時か起こるかもしれない大戦に備えて着々と軍備を強化している。
 魔族だって、本当に滅んでいるのかしら? 数年前に魔族絡みの事件があった。でも、世間には大きく報道されなかった。平和という二文字を守るためだけに」


 溢れ出した言葉が燃料となったのか、次第にエリザは眼に力を取り戻していく。


「国際条約があるから戦争は起こらない? 魔王の魂は消滅したから二度と復活はしない? 誰がそんなことを決めたの!? アタシは、まやかしの平和の上に、胡坐を掻くような真似だけは絶対にしたくないのよ!」


 そうか。この娘の言葉にも一理あるな。
 今は平和な時代だが、完全に全ての脅威が消え去っているわけじゃない。

 世界の各地に戦火の種は、着実に根付き始めている。

 もしも魔族との本格的な戦争が起これば、この時代の腑抜けた魔術師たちは一掃されることになるだろう。


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