異世界支配のスキルテイカー ~ ゼロから始める奴隷ハーレム ~

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 それから。
 地下通路の奥に進もうとする悠斗たちと、追いかける洗脳兵たちのデッドヒートは続いた。


「ダメだっ! このままでは奴らに追いつかれてしまう!」


 シルフィアが振り返ると、洗脳兵たちとの距離は既に5メートルにまで縮まっていた。

 普通に競えば悠斗たち3人が追い付かれるはずはないのだが、相手には地の利と生存本能のリミッターを外すことで得た身体能力がある。

 悠斗1人ならばともかくとして2人の仲間を引き連れた状態では、引き離すのは不可能なように思えた。


「お嬢さま。ここはワタシに任せて下さい」


 メイド服のスカートを翻したサクラは、準備していたトラップを地面の上に転がした。


(これは……。マキビシか……!?)


 悠斗の推測は当たっていた。
 おそらく通路の道幅が狭くなるタイミングを伺っていたのだろう。

 サクラの用意していたマキビシには特製の痺れ薬が塗られており、二重の意味での足止めの効果を狙ったものであった。


「ごばっ!?」「ぎゅぴっ!?」


 どうやらこのマキビシ攻撃は、洗脳兵に対しては効果テキメンだったらしい。
 人形遊びのスキルによって痛覚を削られていることが仇となった。

 マキビシに刺されても形振り構わず向かってくる洗脳兵たちは、痺れ薬の効果によって転倒して、後続を走る人間たちにとっての障害物として機能することになった。


「流石はサクラだ。頼もしいな」

「ふふふ……。ワタシにとってはこれくらい造作もないことですよ」


 悠斗にばかり活躍の場を取られているわけにはいかない。
 シルフィアに褒められたサクラが機嫌良く笑みを零した瞬間であった。

 突如として2人の美少女の間を横切ろうとする黒影があった。


「……危ないっ!」


 咄嗟に危険を察知した悠斗は、強引にサクラの体を押し倒して緊急回避を試みる。


「チッ……。外しましたか……!」


 殺気を感じて振り返ると、そこにいたのはメガネの位置を整えながら、ほくそ笑むセバスの姿であった。

 何時の間にかセバスの背中には大きな2枚の蝙蝠が生えていた。
 サクラの設置したマキビシも飛行能力を有する吸血鬼の前では無意味だったのである。

 
「なっ。この男……吸血鬼!?」


 魔族の中でも強力な戦闘能力を有する吸血鬼という生物は、王国の騎士団100人掛かりで戦って討伐できるかどうかという強敵としてその名を知られている。


 この先にいるグレゴリー・スキャナーという男は、吸血鬼までも操るほどの力を秘めているというのだろうか?


 初めて吸血鬼の姿を目の当たりにしたサクラは戦慄していた。


「ふふふ……。面白い。そちらの少年はなかなかの力を持っているようですね」


 悠斗の身のこなしを目にしたセバスは、顎の下に蓄えた白髭に手を触れながらも感心した様子を見せていた。


「どうです? 今直ぐに降伏するのであれば、グレゴリー様直属の兵士として、私の方から推薦しても良いのですが……」

「ああ。うん。そういうお約束的なやり取りは良いから。とにかく今は巻きで頼むよ」

「なっ――!?」


 セバスは憤っていた。
 洗脳スキルによって忠誠心を極限まで上げられたセバスにとって、グレゴリーに対する侮辱は神を冒涜するかのごとき行為だったのである。


「フッ……。フフフッ……! ならば! 良いでしょう! 望み通りに殺して差し上げます!」


 背中から生えた蝙蝠の羽を動かしながらもセバスは、悠斗に向かって鋭い斬撃を浴びせにかかる。


 ガキンッ!


 すかさず悠斗は魔法のバッグ(改)から取り出したロングソードで応戦。

 
 悠斗 VS セバス。


 互いに一歩も引かない剣撃の応酬が地下通路の中で繰り広げられることになった。


(おお……。このオッサン……。地味にかなり強いな……!)


 単なる洗脳兵と思って侮ってはならない。
 ただでさえ厄介な吸血鬼の身体能力に加えて、生存本能のリミッターが解除されたセバスは想像以上の強敵であった。


「サクラ。今のうちにケガの手当てを!」


 地面に打ちうつけて足を擦りむいているのを見つけたシルフィアは、サクラに対してアドバイスを送る。


「し、しかし……。このままではコノエ・ユートが……」

「大丈夫。主君は負けないさ」

「な、何を根拠にそのようなことを……!?」


 いかに悠斗が強くても関係がない。
 吸血鬼という生物は、一介の人間では太刀打ちすることが不可能な強大な存在なのである。

 けれども、シルフィアは知っていた。
 思い返してみれば、シルフィアが初めて悠斗の戦いを目の当たりにした時も、悠斗は吸血鬼を相手にしていたのである。


「少し驚きましたよ……。この私の本気に着いてこられる人間がグレゴリー様以外にいたなんて……」


 ほんの数秒、剣を交えれば分かる。
 悠斗の戦闘能力は上級魔族と比較をしても何ら遜色のないものであった。

 間合いを取ったセバスは、丸メガネの位置を整えながらも感心していた。


「しかし、残念ながら遊びの時間はここまでです。ハッ! ハアアアアアアアアアァァァッ!」


 大きな声を上げたセバスの体は薄黒く変色をして、口から生えた牙は鋭く伸びていくことになる。
 実のところセバスは、今までの戦闘の中で本来の50パーセント程度の実力しか出していなかった。

 人間の姿を捨てて、本来の吸血鬼の姿に近づいて行くほど、セバスの能力は飛躍的に向上を遂げるのである。

 
(もしかしてこれは……千載一遇のチャンスなのでは……!?)


 目の前の敵を薙ぎ払うアイデアを閃いた悠斗はキュピンと両目を光らせる。
 元より悠斗はみすみす相手の変身の準備を整えている間に指をくわえて待っているほど、お人好しではなかったのである。


「現れろ! 召喚獣、リヴァイアサン!」


 呪文を唱えたその直後、悠斗の背後に美しい1匹の竜が出現する。


 リヴァイアサン 脅威LV33


 全長20メートルを超えようかという水の龍は、狭苦しい地下通路の中を覆いつくすかのように体を畳んでいた


 魂創造@レア度 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆
(器に魂を込めるスキル)


 無生物を生物に変える効果のある《魂創造》のスキルを使用すれば、避ける相手を何処までも追尾する攻撃魔法を作り出すことができる。

 水属性魔法《ウォーターストーム》と《魂創造》のスキルを組み合わせた《召喚魔法》は、悠斗が新たに開発をした世界でたった1つのオリジナル魔法だった。


「な、なにィッ――!?」

 
 目の前に現れた巨大な竜を前にしてセバスは絶句していた。 

 有り得ない。
 有り得るはずがない。

 悠斗の開発した《召喚魔法》は、魔族の使用する魔法と比べても破格の威力を有していたのである。


 魔力圧縮@レア度 ☆☆☆☆☆☆
(体内の魔力を圧縮するスキル)


 体内の魔力を圧縮して密度を高めることを可能とする《魔力圧縮》のスキルは、燃費を犠牲にして魔法の威力を5倍程度にまで引き上げることを可能とする効果があった。

 悠斗は初級魔法の3倍の威力を誇る上級魔法に《魔力圧縮》のスキルを発動することによって、常人の15倍の威力で魔法を使用することを可能にしていたのである。


「洗い流せ!」


 悠斗が命令を下したその直後。
 大きく咢を開いたリヴァイアサンはセバスに向かって噛みつきにかかる。


「ぬおっ! ぬおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 目を開くことすらも不可能な水流に巻き込まれたセバスは、そのまま地下通路の壁に激突。
 意思を持って動くリヴァイアサンは、奥で倒れていた洗脳兵たちと共に流されて行くことになった。


(まぁ、これで暫くの時間稼ぎにはなるだろうな)


 魔族の中でも取り分け優れた生命力を誇る吸血鬼ならば、今の攻撃を受けても致命傷にならないことは承知の上である。

 けれども、今はそれでも問題ない。

 暫く起き上がれない程度のダメージを与えることができるのならば、それで十分だと悠斗は考えていた。


「よし。行くか」

「「…………」」


 驚きのあまり開いた口が塞さがらない。
 特に《召喚魔法》を目の当たりにしたサクラにとってのインパクトは、凄まじいものがあった。


(魔族にも劣らない体術に加えて……魔法までも……。ワタシはまだこの男の実力を見誤っていたということでしょうか……)


 どんなに高く想定したつもりであっても悠斗の戦闘能力は青天井で留まることを知らない。
 今回の一件を通じてサクラは、悠斗に対する評価を更に改めることになるのだった。

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