異世界支配のスキルテイカー ~ ゼロから始める奴隷ハーレム ~

柑橘ゆすら

火に油



 突然の来訪者に驚きはしたが、悠斗のやることは変わらない。
 悠斗はサクラに屋敷の案内をする仕事をシルフィアに任せると庭に出て、魔法の訓練を再開することにした。


(ウォーターエッジ!)


 呪文を唱えたその直後。
 右手の中指と人差し指の間からは超高圧の水流が飛び出した。


 ズガッ。
 ズガガガガガッ!


 水圧はやがて勢いを増して、庭に置かれた岩を切り裂いて行く。
 その威力には凄まじいものがあり、どんな名刀にも劣らない切れ味の鋭さが垣間見えていた。


「……よし。こんなもんかな」


 魔法の調整を終わらした悠斗は木陰の中に入り、ホッと一息を吐く。
 現在、開発中の『ウォーターエッジ』の魔法は、過去に使用していた『ウォーターカッター』の改良版である。

 雑魚モンスター相手には高い汎用性を有する反面、『ウォーターカッター』には、威力不足が否めないという欠点があった。

 この欠点を補うために悠斗が考えたのが、水流の中に『氷の礫』を混ぜ込んでおく、というアイデアである。

 超高出力の水流は、時としてダイヤモンドすらも両断する切れ味を持つことがある。
 この水圧に研磨剤を混ぜ込んで物体を切断するこのアイデアは、現代日本においてアブレシブジェット加工と呼ばれており――。

 鉄筋コンクリート、ガラス、宝石、など、様々な物体を切断するための技術として用いられていた。


(……見られているな)


 水筒の中に入った暖かいお茶を飲みながらも悠斗は、獲物を狙うヘビのような視線を背中に感じていた。


 警鐘@レア度 ☆☆☆☆☆
(命の危機が迫った時にスキルホルダーにのみ聞こえる音を鳴らすスキル。危険度に応じて音のボリュームは上昇する)


 警鐘のスキルが発動していないことから察するに殺意はないようだが、修行がやり辛くて仕方がない。
 能力略奪スキルテイカーの存在は、未だに誰にも打ち明けたことのないトップシークレットだったのである。


「出て来いよ。いるんだろ?」


 誰に告げるでもなく悠斗が告げると近くにあった木の葉がガサガサと揺れて、1人の美少女が現れる。


「……少し驚きましたね。完全に気配は消したつもりだったのですが」


 木の枝に足を絡めたサクラは、クルリと一回転をして華麗に地面に着地する。
 サクラの身のこなしは変わらずに軽やかなものであり、まるで忍者の芸を見ているかのようだった。


「なぁ。せっかくだから1つだけ聞かせてくれて」

「はぁ……。なんですか急に」

「どうして今なんだ? シルフィアを奴隷から解放したいのなら他に幾らでもタイミングがあったはずだろ?」


 その疑問は、修行の最中もずっと悠斗の頭の片隅から離れないでいたものであった。
 サクラの中に本気でシルフィアを助けたいという気持ちがあったのだとしたら、行動に起こすのが遅すぎる。

 もしもシルフィアがエクスペインの街を震撼させた吸血鬼、ギーシュ・ベルシュタインのような悪意の

 ある男の手に渡っていたら今頃は無事ではなかっただろう。


「……簡単なことです。知らされてなかったのですよ」


 自嘲的な笑みを零しながらもサクラは続ける。


「お嬢さまが奴隷としてこの家で仕事をしていると知ったのは、ワタシにとってつい最近の出来事なのです。
 ルーゲンベルクの家は、先の大戦で大敗を喫して以来、疾うに離散しています。 
 つまり……ルーメルの国には、私財を投じてお嬢さまの行方を調べようとするものが誰一人といなかったのです」


 この話が真実であるのならば、シルフィアを取り戻しにきた理由が益々と分からない。
 騎士家庭の子女という地位を失ったシルフィアは、今となっては普通の女の子と立場が変わらないはずである。


「けれども、事情が変わりました。ルーメルの国は、お嬢さまの力に頼らなければならない状況に陥ってしまったのです。
 だからルーメルの役人たちはあらゆる手段を講じて、お嬢さまの所在地を特定。ワタシという刺客を送り込んだわけです」

「……その、事情って?」

「そうですね。貴方も部外者というわけではないでしょうし、話しておきましょうか。一刻も早くお嬢さまを連れ戻さないとワタシたちの国はいずれ……」


 サクラが何か不穏な言葉を漏らしかけた直後であった。


「少し目を離した隙に……。サクラ。やはり主君のところにいたのだな……」


 ガサガサと枯れ葉を踏み鳴らす音。
 振り返って見るとそこにいたのは、近くで剣の稽古に励んでいたはずのシルフィアの姿であった。


「お嬢さま。今すぐにワタシと国に帰りましょう!」

「……くどいぞ。私は主君の奴隷として生きることを決めた身だ。私の体と心は既に主君の所有物なのだ」


 シルフィアの言葉を受けたサクラは、ムスッとした表情で悠斗の顔を盗み見る。
 憎悪の感情がむき出しになったサクラの表所には、今にも悠斗のことを刺し殺すかのような勢いがあった。


(……まずいな。納得するどころか、余計に火に油を注いでいるような気がするぞ)


 3度のメシより美少女が好きな悠斗であったが、流石に美少女に刺し殺されるような展開は望んでいない。

 思いも寄らないタイミングで悠斗は、益々とサクラの恨みを買ってしまうのだった。

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