異世界支配のスキルテイカー ~ ゼロから始める奴隷ハーレム ~

柑橘ゆすら

ギーシュ・ベルシュタイン



 同刻。
 陽が落ちて闇に沈んだエクスペインの街を歩く1人の男がいた。

 彼の名はギーシュ・ベルシュタイン。

 古の時代より人間たちから畏怖される強力な魔物の総称である《魔族》の中でも、とりわけ強大な力を持つとされる《吸血鬼》の末裔であった。

 今現在。
 ギーシュはエクスペインの名門貴族であるアンドレア・スコット・マルニッシュという男の肉体に自らの精神を移していた。

 吸血鬼は一般的に《不死》の生物としてその名を知られているが、実際は人間と同じように歳を取る。

 けれども、吸血鬼の魂は肉体ではなく、血液に宿るという性質があった。

 そのため。
 彼ら《吸血鬼》は自ら血液を他の生物に注ぎ込むことにより、『その精神を乗っ取る』ことを可能にしていたのであった。

 肉体が老いないという訳ではない。
 吸血鬼たちは使い古した肉体を乗り換えていくことにより、《不死》の生物として人々から畏怖されているのであった。


(そろそろ……この街から離れなければな)


 吸血鬼は他の生物の血液を食糧として摂る習性のある魔物であった。
 血液であればどんな種類のものでも吸血鬼にとっての食糧となり得るのであるが、個体によりその好みは千差万別である。

 ギーシュは吸血鬼の中でも人間の……若く美しい女の血液をこよなく愛していた。

 これまでにギーシュは、エクスペインの街で50人を超える女性の血液を吸い尽くし彼女たちを殺害していた。
 奴隷として購入してから殺したものもいるし、街で攫ってから殺したものもいる。

 足が付かないように細心の注意を払ってきたつもりではあるが、この辺りが引き際だろう。


(さあ。これが最後の晩餐になるだろう)


 ギーシュが向かった先は、以前より利用していた奴隷商館である。

 シルフィア・ルーゲンベルク。
 ギーシュが以前より目をかけていた奴隷の女の名前である。

 ギーシュは様々な男たちの肉体を乗っ取り、500年以上の時を生きていたのだが――。
 シルフィアの容姿はこれまで出会った女性の中でも3指に入るレベルの美しさであった。

 この街で摂る最後の食事に相応しい逸材だろう。

「やや。これは……アンドレア卿。残念ながら当店は閉店の時間でして……」

「入札していた奴隷を受け取りにきた」

 ジルの言葉に対して全く気にする素振りを見せずにギーシュは淡々と述べる。

「へい。申し訳ありません。実は本日、ユウト様よりシルフィアに新規入札が入っておりまして、価格が77万リアにまで上がっております」

「なに……」

 ギーシュは言葉に詰まった。 
 これまで寄生した宿主の財力に物を言わせて数々の奴隷を購入してきたギーシュであったが、散財の果てにその資産は底を尽きかけていた。

 屋敷の中のアイテムを売り払えば、資金を用意できなくもないが、わざわざ店に足を運ぶのも億劫である。


「……そうか。やってくれたな。あの時の見事な肉体を持つ少年か」


 ギーシュは脳内には悠斗の姿を浮かんでいた。

 近衛悠斗。
 一目見たときからギーシュの記憶からは、悠斗の肉体が頭から離れなかった。

 500年という歳月を生きたギーシュであるが、悠斗の肉体は過去に前例がないレベルに鍛え上げられたものであった。

(なるほど。可能であれば彼を次の宿主に選びたいと考えていたのだが……これは予想外の幸運だったな)

「あの……アンドレア卿?」

 突如として薄ら笑いを浮かべるギーシュに対して、ジルは困惑の面持ちであった。

 その直後。
 突如としてギーシュはジルの脇腹に対して勢い良く拳をぶつける。


「……ぐばっ!」 


 不意の一撃を受けたジルは激しく体を机に当てて口から血を流していた。

「おい。そこの奴隷商人。今直ぐ僕の女を持ってこい! そして今この場で隷属契約の譲渡を行え」

「そ、そんなことが出来るはず……」

「ふむ。ならば仕方がない。この場で首を刎ねられても文句はあるまいな?」

 ギーシュはそこで腰に差した刀を抜く。

 何らかの魔力的な加護を受けた業物なのだろう。
 その刀身は禍々しい黒い光を発していた。

「……ひぃ」

 ギーシュの放った殺気に気圧されたジルは、渋々と指示に従うことにした。


 ~~~~~~~~~~~~


「お望みの通り……シルフィアを連れてまいりました。隷属契約の譲渡を執り行いますので、命だけは助けてくだせえ」

「…………」

 ギーシュは無言のまま自らの親指の先を噛み切った。

 隷属契約とは、生物の血液から人間の行動を縛る《呪印》を作る能力である。
 ジルはギーシュから受け取った血液をシルフィアの手の甲に付着させると新たなる《呪印》を作成した。


(これは一体どういうことだ……?)


 シルフィアは困惑していた。
 目の前にいるのは怪我をした奴隷商人と刀を抜いた高名な貴族。

 何やら只事ではないことが起きているのは確かなようだが、シルフィアが自ら置かれた状況を把握するには情報が少なすぎた。

「そうだ。コノエ・ユウトがこの店に来たら伝えてくれ。お前の女はこのアンドレア・スコット・マルニッシュが預かった。返して欲しければ僕の屋敷に1人で来るように……とな」

「……へい。承知致しました」

 悠斗の強靱な肉体を手に入れることが出来れば、自らの戦闘能力を飛躍的に高めることが出来るに違いない。


「……ふふ。夜が明けるのが楽しみだ」


 ギーシュは口内の鋭い牙を露わにしながらも不敵な笑みを浮かべるのであった。




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コメント

  • まいな

    奴隷商人なのに護衛とかいないの?

    0
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