オジサンとオジサンがくっついてる日常の話

冬島

二人の日常の朝ごはん

 同棲をはじめて早数年。いや、早、という言葉では表すことが出来ないほどに、紆余曲折があったのだが、ここでは割愛する。
 忍と悠太の二人は双方ともいわゆるオジサンというカテゴリに入る年齢だ。片や歯科医師を勤めるカタブツの40代。かたや、インターネットを駆使して何やら商売をしている怪しい30代。それでも二人は月○十万という家賃を折半し、都会で遊ぶにはそれなりに便利な、駅近物件で暮らしているのである。そんな二人のなれそめは…まぁあとあと語るとして、今日はそんな二人の日常の風景を語りたいと思う。

朝6時半

 悠太の朝は早い。二人で一緒に眠るベッドの上からのっそりと起き上がり、パソコンの電源をいれて、コーヒーの準備をする。その一連の流れが起床時の習慣となっていた。そうして、コーヒーの落ちる音ともに、段々と意識を覚醒させて朝食作りへととりかかるのだ。
 悠太の職業は、インターネット何でも屋、と自称している。アフィリエイトだとか、執筆活動とかで生活費を賄っているため、基本的に出勤時間というものからは縁遠い。故に、朝早くから起きる必要など皆無なのだが、そこは愛する忍のため、というやつだ。本人に聞けばへらっとした笑顔で「愛だよ、愛」なんて言った挙句照れ隠しで忍に殴られること請け合いである。
 歯科医師として勤めている忍だが、朝にはべらぼうに弱い。これでも、悠太と付き合うようになってなんとか起きれるようにはなったが、付き合う以前は朝食抜きがデフォだったという。また、食に関する興味も薄く「めんどくさいから栄養ドリンクですべてが賄えればいいのに」と本気で思っていたほどだ。
 それが、悠太と生活を共にするようになって変わった。割れやすくいくつも縦スジが入っていた爪はきれいな桜色に、ガリガリで骨のラインがきっちり見えている体にも柔らかな肉がついた。そういったコトをする際には、悠太がうっとりとした目と手付きで撫でさするのが常となっている。話はそれたが、そんな二人の事情もあり、食事当番はほぼ家にいるということもあり悠太が一手に引き受けているのだ。
「あー…そうだった。胃腸の調子悪そうだったからおかゆ炊いたんだっけ」
 炊飯器を見て昨日の夜におかゆを仕込んだことを思い出す。なんでも妙に我儘な患者さんがいるんだとか。ストレスをうまいこと受け流す術をあまり持たない忍は、そういったものをもろに受け止めてしまうらしい。もともと胃は弱いらしいのだが。
 炊飯器をぱかりと開けてみると、ちゃんとおいしそうななんちゃって中華粥ができていた。生姜と鶏ガラの香りが食欲をそそる。付け合わせにはブロッコリーの茎でつくったなんちゃってザーサイ風と、卵のスープ。これにコーヒーが合うかは疑問だが、なんとなくコーヒーがないと落ち着かない忍のための必需品だ。それらをさっと食卓に並べて、愛する忍を起こしに行く。
「忍くん、朝だよー」
 最近では自分が起きるときにカーテンを開けてから寝室を出ると言う技を覚えた。日光が目覚めを促進させるとかなんとからしい。その甲斐あってか、忍の寝覚めは以前ほどは悪くないものになっている。
「いま、おきます…」
 起きなければいけないとわかってはいたようだが、今日もふとんを抱きかかえてぐずぐずとしていた。声をかければ観念してもぞもぞと動き出す。年上ではあるのだが、こういった無防備な姿は何度見ても飽きないし可愛らしいと思う悠太であった。
「おはようのちゅーする?」
「起きます」
 冗談でそう言葉をかけてみると、いきなりパチリと目を開いた。そのままきちんとした足取りでリビングへとむかってしまう。
「ケチ―!」
 そのつれない行動が面白くて、思わずじゃれついてしまう。後ろからぎゅうと抱き付き耳たぶをはむはむと甘く噛む。先ほどまで布団の中にいた暖かな体がびくんと反応した。
「ケチじゃありません、朝から何するんですか」
 軽いデコピンと、それからぐい、と頭を引っ張られて頬へのキス。
「何するんですかーって言うけどきっちり愛情表現してくれる~~そこも好き~~~」
「知ってます」
 そんなじゃれあいをしながら、食卓につく。じゃれあってはいたが冷めてしまうほどではない。ほかほかのお粥を器に盛って、忍に手渡す。
「美味しそうですね」
「うまくできてるといいなー、地味に初挑戦」
「まぁ食べれないものは今まででたことありませんから」
「褒めてる? 褒めてる?」
「一応は」
 二人ともいただきます、と手を合わせてから食事。悠太のもくろみ通り、とても優しい味にしあがっていた。本当はこういったサポートじゃなく、忍のストレスの元凶をぶっとばしたいのだが、現実社会はそううまくはいかないものだ。
 だからこそ、自分の出来る最大限をしたい、と思う。男同士で共白髪に、なんていうことが後ろ指刺される世の中なのだし、パートナーである自分が目いっぱい甘やかすのは、むしろ自分の役目だ、と悠太は思っている。
 
 という二人のオジサンの日常の物語です。

コメント

  • 猫の尻尾

    物語の進め方がとても綺麗です!次のお話待ってます!

    0
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