召喚された賢者は異世界を往く ~最強なのは不要在庫のアイテムでした〜

夜州

第9話 家精霊


「もしかして……ここ……?」

 俺は目の前に広がる建物に唖然とする。日本にいた時でさえ、こんな大きな住宅など見た事もない。
 ――その前に、こんな広い家を管理できるのか?

「まぁ、ここに住めるかはお主次第だがな……」

 ナタリーが笑みを浮かべ、門を開け中へと入っていく。

 綺麗に手入れがされた庭園が広がり、その中を歩き、屋敷の門までたどり着く。
 そしてナタリーは鍵を開けて扉を開く。

「ついてくるといい」

 ナタリーは気にせず屋敷に入り、俺を手招きする。屋敷に入ると、人の気配は感じないが、綺麗に清掃されていてゴミは見受けられない。そして神聖とも思える雰囲気を出していた。

「これ……本当に誰も住んでない……?」

 俺の言葉にナタリーはにやりと笑う。

「フェリスいるか?」

 誰もいないホールに話しかけるナタリーに俺は首を傾げる。
 ……おしかして誰か住んでいるのか。

 すると、いきなり白い靄が出てきて人型をつくっていく。
 その靄が消えると、まだ成人もしてない一人の少女が立っていた。
 年はまだ12才くらいだろうか、フリフリの服を着ていて、腰まで伸びた少しウェーブの効いた白髪だった。
 しかし表情はなく、目に活力もない。まるで人形のようだ。

「い、いきなり現れたよな……? もしかして幽霊……」
「幽霊とはなんじゃ? フェリスは家妖精じゃ。長く建っている建物に住み着くことがある。家妖精が住む家はな、家主に選ばれないと住むことはできないのじゃ? お主そんな常識も知らんのか……? どんな田舎から出てきたのだ」

 この世界に精霊がいるなんて初めて知ったしな……

 ナタリーは気にした様子もなく、フェリスに話掛けた。

「フェリスよ。この男にこの家を貸すつもりじゃ。どうだ?」

 どこに視線を向けているかわからない状態だったフェリスは、俺のほうに視線を送る。
 数分だろうが、無言でただ俺の事を見つめていたフェリスが、視線を外しナタリーを静かに頷いた。

 フェリスの頷きになぜかナタリーが笑い始めた。

「フッフッフ……そうか! この男はいいか。よし、わかった。トーヤ、この家をお前に貸そう」
「……一体どういうことなんだ? まったく理解ができん……」
「一回外に出るかの。サミィも待っていることだし。フェリスよ、また来る」

 ナタリーがそう言うと、フェリスは一度軽く頷いた後消えていった。
 茫然としながらもナタリーの後を追い外に出る。外には不安そうに待っていたサミィがいた。

「決まったぞ」

 ナタリーはその一言だけ言う。

「まさか……、トーヤさん凄いですよ! 家精霊に認められるなんて! この屋敷は十年以上空き家だったのに……」

 事態が飲み込めない俺は、外に出ても茫然としていることしか出来なかった。


 そのままナタリーと別れ商業ギルドまで移動した俺とサミィはテーブルを囲んだ。

「それでは契約書を交わしますね。ここにサインを書いてください。それで家賃は月に15万ギルになります。トーヤさんは冒険者ギルドカードをお持ちですよね? ギルドカードから引き落としでいいですか?」
「ちょっと待ってくれ。ギルドカードに入金できるのか? それも初めて聞いたんだが……」
「冒険者ギルドで説明されませんでしたか。各街にある商業ギルドは銀行業務もやっておりますので、入出金もできますよ。今登録しちゃいますか?」

 俺は懐からギルドカードを取り出し、サミィに渡す。そして、手持ちの金から200万ギル分の金貨2枚を取り出し、テーブルに置いた。

「頼む。あと、これを入金しておいてくれ」

 無造作に金貨をおいたことに、サミィは驚く。

「トーヤさん、そんな大金を普通に持ち歩いたら危ないですよ? 大きい買い物をする時にはカードで買い物をするのが普通ですから、気を付けてくださいね」

 サミィは金貨とカードを持って、カウンターの中に入り、登録作業を始めた。登録はすぐに終わるらしく、5分もせずにテーブルに戻ってきた。

「はい、これで登録完了です。今月分は日割りですぐに引き落としてあります。後は月の初めの日に毎月引き落としがされるので注意してくださいね。屋敷は家精霊が綺麗にしているので、今日から住めますよ」

 鍵を受け取り商業ギルドを出た俺は、コクヨウと共に借りた屋敷へと舞い戻った。
 門の前で俺は立派な洋館を眺める。

「なぁ、コクヨウ。一人でこの屋敷に住むのってさ……おかしいよな?」

 コクヨウの厩舎のために、これだけの屋敷に住むことに俺はため息をつく。
 満足そうなコクヨウは尻尾を振り、俺の頭を叩く。
 いかにも”早く行くぞ”と言わんばかりに、先に門を潜っていった。
 厩舎の柵を外すと、コクヨウは周りを見渡し、自分の場所だと言わんばかりに寛ぎ始めた。

「はぁ……金はまだ十分にあるから問題ないけど、この屋敷で一人……いや、あの家精霊っていうフェリスと一緒か……。お前も次元収納ストレージの中に戻れれば問題なかったのにな……」

 俺はコクヨウの首を撫でながら言うと、その場でコクヨウが消えた。

「――――えっ?」

 慌てて次元収納ストレージの中身を確認する。
 そこには馬のアイコンがしっかりとあった。
 生き物は次元収納ストレージには入らないから気づかなかったが、コクヨウはアイテム扱いだった。

「こんなでかい屋敷―ー借りる必要なかったよ……」

 俺はその場で天を見上げたのだった。

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