村人が世界最強だと嫌われるらしい
最善策 1
風を切るように走り、キュウを奪ったやつらを追いかけてから十分、とうに五十キロなんて超えた。それでも、その過激派の背中は見つけられない。
「速すぎんだろあいつら、俺結構全力で走ってんだけど」
「烈毅……ちょっと気持ち悪いから下ろして……」
ゲロ吐く寸前の様な顔をしていたミーシュを下ろし、烈毅は何が目的でキュウを奪ったのかを考える。ミーシュは、茂みに隠れてゲロをする。
まずは狙い。先程の守護兵も言っていたが、領土拡大のために戦争を起こそうと、キュウを奪ったという事。だがそれだけで戦争までやるのか?
次は、なぜネキツではなくキュウなのか。現女王を脅せば、キュウを奪って戦争を始めさせるよりも、断然早い。
「やっぱりよくわかんねぇわ」
髪をグシャグシャとかき乱し、烈毅はその場に座り込む。この国に来て早々事件だなんて思ってもいなかった。たまには一ヶ月くらい平穏な日々を過ごしたいものだ。
ミーシュがゲロを吐き終え、真っ青な顔をして戻ってくると、今にも倒せそうな勢いで躓く。
烈毅はそれを見てすぐに動き出し、ミーシュを支える。
「大丈夫か?」
「え、ええなんとか……でも、もうあんなスピードで走られるのは少しやめてもらいたいわ……」
「そうか……すまなかった」
「謝らないで! 私が無理矢理付いてきたんだもん、正直文句なんて言えた立場にはないわ」
「いや、でもミーシュがいなかったらここには来れなかった。だから……」
烈毅はしょんぼりした顔をする。ミーシュは、動くのもやっとな足を頑張って動かし、烈毅の目の前まで来る。そして、両手を広げて勢いよく、烈毅の両頬を叩く。
「ミーシュ……?」
「今は、私なんかよりもキュウちゃんでしょ? こんな小さな事でへこたれてどうするの?」
「…………」
「私は、人のために全力でやり遂げる貴方が好きなの。だから、頑張って良いとこ見せなさいよ!」
その言葉に、烈毅は目を見開き、ミーシュを見つめる。それもそのはず、こんな状況で告白されたんだ。驚かない奴なんていない。だが烈毅は、それに応えることはなく、東の方向を向く。
「…………さぁ、行こうか」
「うん」
そう、それでいいんだよ烈毅。貴方の背中が、私の目標であり、私達の目印になるんだから。
そして、烈毅とミーシュは再び走り始める。
――城にて。
「ネキツ様、こちらのお部屋へ!」
「いいえ、戦います。自分の子供を奪われて戦わない親がどこにおりますの?」
ネキツの目からは殺気が溢れだしている。九本の尻尾が、さらに怒りを顕にしたかのように立っている。
「ですが……!」
「じゃあ、自分はウチよりも強いんか?」
言葉に込められた殺気に気圧され、守護兵は思わず二歩後ろへ下がってしまう。
「自分らは城の中におる、戦力にならないものを守りなさい。ええな?」
「わ、わかりました」
「ネキツ、少し強く当たりすぎだ。もっと優しくしてやれ」
そう言うのは、鮮やかな金色をした髪、鋭い目、八本の尻尾に、ガッチリとした身体で、顔の輪郭もゴツゴツとしている。まるで、プロレスラーやラグビー選手を思わせるような体格のその男は、ネキツの夫のシェルドだ。
「……少し言いすぎたわ」
「うん。それでいい、ネキツは現女王だ。なるべく俺が戦うようにするが、もしもの場合は援護を頼む」
「わかった」
「良し、じゃあ一丁派手に戦いますかな」
二人は、城を入ってすぐの所に、仁王立ちして敵を待つ。
――一方で。
「おい、なんか凄い勢いで近づいてくるやつがいるぞ!」
「な、なんなんだよあいつ!? あんなスピード、八・本・の・尻・尾・を・持・っ・た・奴・以上のスピードだろ!?」
「もしかしてシェルドか!?」
「そ、それはない! 多分、城を守ってるから!」
「じゃあ誰なんだよ!?」
そして、その集団の目の前に、二人の"人間"が現れ、その場には深い穴ができる。それを見て走るのを止めた集団は、その人物を覗き込む。
「お前らか? キュウを攫ったというのは?」
「……貴様らは何者だ!」
「聞いてるのはこっちだ。とっとと答えろ」
伝わってくる殺気。感じる強い視線。肌をピリつかせる空気が、その者達を恐怖に陥れる。
「そ、そうだがなんだ! 俺たちは領土拡大をさせるためにこいつの力が必要なんだ! 文句はないだろ!」
集団の先頭に立つものが、その二人の"人間"と言葉を交わす。
「キュウはどこだ?」
「教えるわけないだろ!」
「そうか……」
「わかったさっさと道を……!?」
「開けてほしけりゃまず俺たちを倒さないとな?」
その男の"人間"は、先頭に立つ人物を殴りつけ、気絶させた後、再びこっちを見てくる。
「俺の名前は人村烈毅だ。よく覚えとけ」
「速すぎんだろあいつら、俺結構全力で走ってんだけど」
「烈毅……ちょっと気持ち悪いから下ろして……」
ゲロ吐く寸前の様な顔をしていたミーシュを下ろし、烈毅は何が目的でキュウを奪ったのかを考える。ミーシュは、茂みに隠れてゲロをする。
まずは狙い。先程の守護兵も言っていたが、領土拡大のために戦争を起こそうと、キュウを奪ったという事。だがそれだけで戦争までやるのか?
次は、なぜネキツではなくキュウなのか。現女王を脅せば、キュウを奪って戦争を始めさせるよりも、断然早い。
「やっぱりよくわかんねぇわ」
髪をグシャグシャとかき乱し、烈毅はその場に座り込む。この国に来て早々事件だなんて思ってもいなかった。たまには一ヶ月くらい平穏な日々を過ごしたいものだ。
ミーシュがゲロを吐き終え、真っ青な顔をして戻ってくると、今にも倒せそうな勢いで躓く。
烈毅はそれを見てすぐに動き出し、ミーシュを支える。
「大丈夫か?」
「え、ええなんとか……でも、もうあんなスピードで走られるのは少しやめてもらいたいわ……」
「そうか……すまなかった」
「謝らないで! 私が無理矢理付いてきたんだもん、正直文句なんて言えた立場にはないわ」
「いや、でもミーシュがいなかったらここには来れなかった。だから……」
烈毅はしょんぼりした顔をする。ミーシュは、動くのもやっとな足を頑張って動かし、烈毅の目の前まで来る。そして、両手を広げて勢いよく、烈毅の両頬を叩く。
「ミーシュ……?」
「今は、私なんかよりもキュウちゃんでしょ? こんな小さな事でへこたれてどうするの?」
「…………」
「私は、人のために全力でやり遂げる貴方が好きなの。だから、頑張って良いとこ見せなさいよ!」
その言葉に、烈毅は目を見開き、ミーシュを見つめる。それもそのはず、こんな状況で告白されたんだ。驚かない奴なんていない。だが烈毅は、それに応えることはなく、東の方向を向く。
「…………さぁ、行こうか」
「うん」
そう、それでいいんだよ烈毅。貴方の背中が、私の目標であり、私達の目印になるんだから。
そして、烈毅とミーシュは再び走り始める。
――城にて。
「ネキツ様、こちらのお部屋へ!」
「いいえ、戦います。自分の子供を奪われて戦わない親がどこにおりますの?」
ネキツの目からは殺気が溢れだしている。九本の尻尾が、さらに怒りを顕にしたかのように立っている。
「ですが……!」
「じゃあ、自分はウチよりも強いんか?」
言葉に込められた殺気に気圧され、守護兵は思わず二歩後ろへ下がってしまう。
「自分らは城の中におる、戦力にならないものを守りなさい。ええな?」
「わ、わかりました」
「ネキツ、少し強く当たりすぎだ。もっと優しくしてやれ」
そう言うのは、鮮やかな金色をした髪、鋭い目、八本の尻尾に、ガッチリとした身体で、顔の輪郭もゴツゴツとしている。まるで、プロレスラーやラグビー選手を思わせるような体格のその男は、ネキツの夫のシェルドだ。
「……少し言いすぎたわ」
「うん。それでいい、ネキツは現女王だ。なるべく俺が戦うようにするが、もしもの場合は援護を頼む」
「わかった」
「良し、じゃあ一丁派手に戦いますかな」
二人は、城を入ってすぐの所に、仁王立ちして敵を待つ。
――一方で。
「おい、なんか凄い勢いで近づいてくるやつがいるぞ!」
「な、なんなんだよあいつ!? あんなスピード、八・本・の・尻・尾・を・持・っ・た・奴・以上のスピードだろ!?」
「もしかしてシェルドか!?」
「そ、それはない! 多分、城を守ってるから!」
「じゃあ誰なんだよ!?」
そして、その集団の目の前に、二人の"人間"が現れ、その場には深い穴ができる。それを見て走るのを止めた集団は、その人物を覗き込む。
「お前らか? キュウを攫ったというのは?」
「……貴様らは何者だ!」
「聞いてるのはこっちだ。とっとと答えろ」
伝わってくる殺気。感じる強い視線。肌をピリつかせる空気が、その者達を恐怖に陥れる。
「そ、そうだがなんだ! 俺たちは領土拡大をさせるためにこいつの力が必要なんだ! 文句はないだろ!」
集団の先頭に立つものが、その二人の"人間"と言葉を交わす。
「キュウはどこだ?」
「教えるわけないだろ!」
「そうか……」
「わかったさっさと道を……!?」
「開けてほしけりゃまず俺たちを倒さないとな?」
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