村人が世界最強だと嫌われるらしい

夏夜弘

妖狐の国に来ちゃいました 8

 烈毅とミーシュが、キュウを妖狐の国に返そうと話をしていた時、魔法結界内で特訓をしていた一同は――

「ねぇ、ミーシュ知らない?」

「ああ、ミーシュなら烈毅を探しに行くとかいって歩いて行ってしまったわ」

「そう。じゃあここの魔法はどうやって維持しているの?」

『それは我が代わりに貼っている。先程ミーシュが我に言いに来てな。安心しろ』

「そんな事出来たんだね。すごいじゃん!」

『我を甘く見るな』

 ここにいるのはレーナ、ナーシェ、ルノ、ファイアの四人だ。正直、皆烈毅がいないと不安で仕方がない。
 圧倒的な脅威とは、敵にすれば最悪だが、味方にいるなら真逆と言える。その脅威がいないとなると、誰しも不安になる。

「早く見つかるといいね、烈毅」

「ただ散歩に出かけたのを追いかけてるだけでしょ?」

「そうだけどさ。やっぱり少し心配なの」

 ルノは手を組む。目を瞑り、心の中で烈毅のことを考える。強がって言っているレーナも、何も言わなかったナーシェも、実は心のどこかで心配している。

 唯一、ファイアだけは何も心配はしていなかった。烈毅が強いことを知っているから。それよりも心配なのは、ミーシュの方だった。

『まぁ、心配する気持ちもわかる。だがな、信じてやる事も大事だ。なに、一人で勝手に消える訳じゃないし、誰かが計画的に犯行する訳でもない。安心してここで待っててやれ』

「……うん」

 ルノはそう返事し、残りの二人も軽く頷き、特訓に戻る。

「本当に……本当に何もなければいいのだけど……」


 ――妖狐の国にでは。

「さぁ、ここに長居するのも邪魔になるだけだし、俺らは帰るとするか。皆も心配してると思うし」

「そうね。帰りはしっかり馬車か魔法で飛んで帰りたいわ」

「えぇ、また俺がピョンピョン跳ねて帰ろうと思ったのに」

「それだけは死んでもやだ」

「楽しかったのに……」

 帰り支度を整え、いざ帰ろうとした直後、突然烈毅達のいた部屋のドアが荒く開かれる。

 二人は、そちらの方を見ると、そこには息を荒くして汗だくになっている守護兵がいた。

「お願いします……はぁ、はぁ……力を貸してください!」

「どうした、何があった?」

 烈毅は慌てず、焦った様子も見せずに問う。だが、守護兵はかなり焦っていたのか、内容が掴めない話し方をしてしまう。

「頼む、力を……助けに行かないと……はぁ、やばいんだ……早く救出に向かわないと」

「待て待て、落ち着け。内容が掴めない! 何がどうなったんだ? 焦らず言え」

「キュウ様が攫われた……」

 それを聞いた二人の顔は、ギュッと引き締まった表情になる。

「誰が攫ったかわかるか?」

「多分、過激派だ。これを機に戦争を始める気だ」

 守護兵も落ち着きを取り戻し、話し方も元に戻る。

「いつ攫われた?」

「今朝だ。キュウ様が外に出たところを攫われた」

「誰も付いていなかったのか?」

「キュウ様は空間を操作する魔法を使える。それを使って外に出たから、何も気づかなかった」

「キュウは何の目的の為に外に出た?」

「キュウ様のお祖母様……つまり現王女様のお母様にあたるかたのお墓参りの為にだ」

「先代王女ってことか?」

「ええ。先代王女様の名はソレス様と言うんだ。ソレス様はキュウ様を大変可愛がっていた。キュウ様もソレス様の事がお好きで、よく毎日あそんでいたんだ。それに、その当時はもうネキツ様が王女だった。だから、キュウ様をあそこまで育てたのはソレス様と言ってもいい」

 そこで、烈毅に一つの疑問が生まれた。

「……なぁ、ふと思ったんだが、あいつ今何歳だ?」

「キュウ様は今十歳だ。それがなんだ?」

「じゃあ、ソレス様が亡くなられたのはいつだ?」

「二年前だ」

「そうか……」

 烈毅は、その行動に出てしまったキュウに対して、怒りを表すことは出来なかった。寧ろ、良くあんなに元気でいられるものだと感心した。

 こんな状況でそんなことを考えてる暇が無いのはわかってる。でも思ってしまったのだ。
 可愛がって貰って、甘やかして貰って、育てて貰って。そこまでしてもらった人の事を忘れられる理由などない。

 家出した理由も、何となく分かった。

「おい、その犯人はどっちに行った?」

「力を貸してくれるのか?」

「そう言ってる。それで、どっちに行ったんだ?」

「東の方向に逃げていった。かなりの速さで逃げていったから、多分距離的には五十キロぐらいだ」

「その距離なら余裕で追いつける」

「恩に着る」

「ああ。とりあえず、ここの警備を固めろ。戦える奴は全員でネキツさんとシェルドさんを守れ。襲われる危険はあるからな」

「わかった。今すぐ」

「行くぞミーシュ。掴むぞ」

「ええ、わかった。……掴むぞ?」

 ミーシュの襟元を、烈毅はガシッと掴む。烈毅の目つきは、とても鋭くなっている。

「気失うなよ」

「無理ね」

 全速力で城を飛び出す。その際突風が起き、城の中のかなりがグシャグシャに散らばってしまった。

「待ってろよ、キュウ。必ず助けてやる」

「ぎゃああああああ! 助けてこわいぃぃ!!」

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