村人が世界最強だと嫌われるらしい

夏夜弘

妖狐の国に来ちゃいました 5

 キュウを先頭に、ただひたすらに一本道を歩いていた三人は、この世界の事について話していた。

「なぁキュウ、知ってる範囲でいいからこの世界の事を教えてくれ」

「よいぞ! さっきも言ったが、ここの世界の名はリバースワールド。他種族が生活し、そして戦っている世界じゃ。モンスターは存在はしない。故に、争うのは全て『人』なのじゃ」

「戦争か……まぁそれは表にもあるからな。ベルム国とメルクリア国がいい例だな」

「うむ。まぁそっちの世界とは規模が違いすぎて、多分見たら驚くぞ?」

「とか言って、どうせ変わらないって」

「じゃあそちらの世界ではどれくらいの人が動くのじゃ?」

「まぁ冒険者しか戦わないから、ざっと十万人くらいじゃね? 全面戦争ってなったらその十倍はいくと思うぞ?」

「なんじゃ、大したことないの。こっちの世界では、一回の戦争で三百万人は動くぞ? それでも足りないくらいじゃわい」

「舐めた口聞いてすいませんでした。俺が悪かったです」

「わかればよいのじゃ」

 これは紛れもない真実だ。リバースワールドは、表の世界の約十倍の大きさがあり、また人口も何百億といる。そのため、国の一つ一つが尋常じゃないくらいに広いのだ。例であげてみると、今から行くレデモンの広さは、メルクリア国の三十倍はある。だが、これでもこの世界では小さい方なのだ。

「まぁ最近は戦争は起きてはないが、それでも領土拡大派と穏健派でいざこざはあるがのぉ……」

「やっぱいるんだな。そういうやつら」

「ああ。そのせいで、ただでさえ少ない人口が更に少なくなるのじゃ。困ったものじゃ」

 そう言ったキュウの声は、どこか寂しそうな雰囲気を漂わせていたのを、烈毅は感じ取った。ほんの少し、ほんの少しだけ声が震えているように聞こえた。

「大変なんだな。あっちも、こっちも」

「ああ、大変なのじゃ……」

 少しだけ雰囲気が暗くなった直後、ミーシュが指を指しながら「あれ見て!」と呟く。そこに見えてきたのは、とてつもなく大きな外壁。高さ百メートルはあろうその壁は、烈毅達を圧倒した。

「おお、見えてきたな。あれが我らが妖狐の国、レデモンじゃ。広いからしっかり童女に付いてくるのじゃぞ」

 そして、三人はレデモンの入口である、門の前に立つ。すると、門の脇に立っていた二人の検問人が走って近寄って来る。

「キュウ様、やっとお戻りになられたのですね!? 皆キュウ様が居なくなったって探し回っているところなんですよ!?」

「おぉ、それはすまんな。すぐ戻るから、主らは仕事に戻るがよいのじゃ」

「しかし、シェルド様から、見つけたら連れてくるようにと言われてまして……」

「それは必要ない。童女のご主人とミーシュ殿と一緒に行くからな」

 そう言ってキュウは二人を指さし、検問人は二人を下から上までゆっくりと見渡す。

「貴様らは?」

「ああ、俺らはキュウの保護者みたいなもんだよ。特に危害を加える気は無いし、というかすぐに帰るし」

「キュウ様を見つけてくれたと言うのですね! それはありがたい! これは失礼な呼び方をしてしまいました! えぇと、お名前は……」

「俺は烈毅。で、こっちが……」

「ミーシュよ。よろしくね」

「烈毅殿にミーシュ殿! この度は本当にありがとうございました! ささ、どうぞ中へ!」

 中へ通された三人は、ゆっくりと門の中を通っていく。高さもあり奥行もあるその外壁は、良くできたものだ。

 そして、門を抜けた先に見えてきたものは、想像を遥かに絶する程に美しく、そして立派な建物が無数に並んだ世界が、そこには広がっていた。

「ようこそ、レデモンへ!」

 キュウが両手を広げて言い、烈毅とミーシュは息を忘れるほどにその景色に圧倒される。
 言葉が出ない。絵に書いたような美しさとは、正しくこの事だと、否、それ以上の物だと確信する。

 全ての建物がレンガで出来ており、この空の風景とレンガの色がマッチしている。建物の一つ一つにも工夫がされており、煙突があったり、バルコニーがあったり、綺麗な花で装飾された家があったり。街灯もおしゃれな西洋風の物だ。

 そしてまたなんと言っても、通る人全てが完璧なまでに整った顔立ちをしているのだ。
 綺麗な女性だったり、イケメンな男性だったり。妖狐は皆、何か人を惹き付けるような物を持っている。

「綺麗な国だなぁここ。住みたくなるな」

「そうねぇ……言葉が出ないわ」

「じゃろじゃろ? 童女も気に入ってるのじゃ!」

 そして烈毅は、先程の検問人のキュウの呼び方と、キュウを見つけたと言った時の態度の変わりようを思い出し、キュウの方を向く。

「つかさ、キュウ。ちょっと気になった事があるんだけど」

「なんじゃ?」

「お前さっきさ、キュウ『様』って呼ばれてなかった?」

「あ、それ私も思った。なんで?」

「ああ、言っとらんかったか? 童女はこの国の次期王女なのじゃ!」

「「…………は?」」

 烈毅とミーシュは、思わず同じ反応同じ顔をしてしまう。

「ごめんキュウ。聞き間違えかもしれないから、もう一度言ってくんね?」

「だから、童女はこの国の次期王女なのじゃと言ったのじゃ!」

「「…………」」

 烈毅とミーシュは顔を見合わせて、もう一度キュウの方を向き、深く息をすう。そして――

「「えぇぇぇぇぇぇぇえ!?」」

 大きな声で叫んだ。

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