村人が世界最強だと嫌われるらしい

夏夜弘

旧友に会いに行こうと思います 3

「お前がついてくるのはいいんだけどさ、お前自身はどうするの?」

「どうするとは?」

「いや、この軍を率いてきたのはお前な訳じゃん。でさ、そのリーダー、しかも勇者来た。そんな奴が突然いなくなったらみんな驚くんじゃないの?」

「ドラゴンに殺られたとかでよくね?」

「お前がドラゴンに殺られるか……いや、一体一ならファイアが勝つか」

「ぐぬぅ……そう言いきられると流石に私も勇者としてのプライドに傷がつくな……」

「なら、それで行こう。じゃあ、どうやって痕跡を残そうか?」

「ここにこのボロボロになった防具だけ捨てておけばいいのでは?」

「誰が壊すの?」

「んっ」

 ナーシェは何の迷いもなく烈毅を指さす。

「あぁ、俺ね。了解」

 ナーシェは防具を外し、薄い服一枚になる。

「ちなみに、この防具は世界一の鍛治職人が作ったものだからそう簡単には……」

「とりゃ!」

 地面に置いてあった防具に、全力のデコピンを一撃。すると、防具が壊れるどころか、地面に大きなクレーターが出来る。

「烈毅もさ、少しは手加減を覚えてよ。私、抱きつかれる時にそんな強く抱きつかれたら内蔵飛び出ちゃうんだけど」

「いや、まず抱きつかないし?」

「チェッ……」

 ナーシェの手持ちは、何着か用意した衣服と、数日分の食事。それと、聖剣だけとなった。

 ナーシェが持つ聖剣こそがエクスカリバー。何者をも斬り、何物をも斬ることが出来る。最強と言ってもいい武器だ。



 それから、ファイアの巣に戻り、皆を一度集める。

「事情は後で話すから、今は俺に付いてきなさい」

『もう行くのか?』

「ああ。世話になったな。また来るよ」

『…………烈毅。死ぬなよ』

「やめやめ! そういう湿っぽいのは嫌い! ここはまた会おうなでいいんだよ!」

『……そうか』

「そうなの!」

『…………ふっ。お前さんとは、これからも仲良くいたいものだ』

「あったりめぇよ!」

 その後、レーナ、ルノは特訓に付き合ってもらったことに感謝し、その場を去る。

『お前さんとは、まだ長い付き合いになりそうだな』

 その独り言は、烈毅には届くことは無かった。。



 それから、烈毅達は山を抜けて、新たな拠点を探すことに決める。まだ会いたい者はいたが、先程念話で連絡を取っても無反応だった。寝ていたのか、それとも出れないほどの用事があったのだろうと、烈毅は考えた。

 今は日本で言う富士の辺りにいるのだが、これから向かう先は、日本で言うところの東京。この国の名前でもある、メルクリアだ。

 今この世界では、烈毅は抹殺対象と考えてもいい。あれだけの殺気を出し、それでいて軍を壊滅させてまでいる。そうとなれば、これからも多くの冒険者や勇者が、烈毅の前に現れても、可笑しくないのだ。

 流石に身バレしている烈毅は顔を隠すよう、フードを被る。それと同じく、勇者として活動してきたナーシェとミーシュ、フードを深く被る。ほかの二人は何もしない。

 メルクリアへ向かう理由としては、まずは情報集め。誰が、冒険者に偽りを教え、聖剣紛いの物を渡しているのか。今どの国が烈毅を探しに動いているのか。

 次に、食糧の調達と、レーナとナーシェの武器や防具の新調。それと、道具集め。

 金はあるし、時間もある。だが、一つだけ心配なのは、ここ最近で、烈毅の周りで事件が起きすぎている事だ。

 正直、まだ彼女らを一緒に連れて行くのにはあまり賛成ではない。烈毅の様に強ければ別にいたって構わない。けれど、そうではない。
 彼女らは弱いのだ。もし、また魔族の連中が襲ってきて、その相手がかなり強かったとしたら……。考えるだけで寒気がする。

 絶対に、彼女らだけは守らなければならない。何があっても、何が起きても。

 ――それから二日、五人はひたすら歩いた。レーナとルノの特訓も兼ねて、モンスターと戦いながら進む。

 レーナは、レベルがかなり上がった。これはファイアとの訓練のおかげだ。レベル五十しかなかったレーナも、今では八十だ。その成長速度は恐ろしい。

 一方、ルノだが、それなりに成長はあった。

 まず一つめは、武器を握れた事だ。これは大きな進歩と言ってもいいかもしれない。

 二つ目として、モンスターを見ても怯まなくなった事だ。
 今までは、モンスターを見るたびに烈毅の後ろへ回り、身を隠していた。だが今は、少し足が震えていながらも、剣を構えてモンスターの前に立つことは出来ている。あとは、気持ちの問題だ。

 そして、その日の夜のこと――
 五人は、焚き火を囲みながら食事をとっていた。

「ナーシェ、お前ここ最近で変なモンスターとか見なかった?」

「変なモンスター?」

「うん。例えば、人間の顔をしているのに羽が生えてたりとか、モンスターの顔してるのに冒険者並に動けるやつとか」

「あー、いたいた。だけど、私が見たのはどれも戦うことなんてしないただの雑魚だったぞ?」

「そうか……」

「あ、でも、一人だけめちゃくちゃ強かった奴がいたなぁ。まぁ逃がしちゃったけど」

「それはどんなやつだ?」

「えーっとな、身長は二メートル程。肌は黒色で、スキンヘッド。確か両手に二本剣を持っていたな……で、そいつが名乗ったんだよ」

「なんて?」

「カタコトで聞きにくかったんだけど、確かフィルレって名乗って、その後に助けてって――」

 その名を聞いて、烈毅は手に持っていた食事を地面に落とし、「えっ?」と一言漏らす。

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