偽りの涙

木市 憂人

誰も知らない

今日はいったい何人の人が泣いたのだろう。その人達が流した涙はどんな涙なのだろう。
 ある人は"喜び"を
        ある人は"悲しみ"をー。
    私が初めて流す涙はどんな涙だろう。
  いや、私が初めて流す涙はどんな涙だろう。
                         
                        
高校に入学…そしてもう初めてこの制服の袖を通してからもう3年の月日が経とうとしていた。
   2月27日。卒業式が近づく度に一気に体が重くなる。私は卒業式が嫌いだ。   
  時を遡ればまずぶつかる。中学校の卒業式の事。             
  式が始まってかなり経った。
卒業ソングを歌う頃。一気にみんなの瞳からそれぞれの気持ちが溢れた。式が終わり、最後のHRでは教室からはもう嗚咽しか聞こえない。その中で私・伊山美桜はただうつむいていた。気持ちの行き場がない私はただうつむくしかできない。涙を拭うフリもした。
・・・・苦しかった。・・・・泣けない自分がまだいるのかと思うと悔しかった。寂しさ、喜び……こんなに私の体が感情でいっぱいなのに。私の瞳は。
式が終わって記念撮影も終わった。その時はみんな笑顔だったから、よかった。
でも、やっぱり気持ちは一生つきまとう。
帰り道、言われたことが耳に残る。
「ミオちゃん泣かないなんてすごいなー。私なんてすぐポロッとでちゃうよー。」
って。
違うのにね。泣かないのと泣けないのじゃ大違いだ。
苦しい。
今までも。
これからも。
でも、迷惑はかけないからまだマシだよ。そう体に言い聞かせた。

"ピピピピッピピピピ"
めいいっぱいに横に手を伸ばしてアラーム音を止める。
マブタの隙間から微かに光が見える。風が吹くとカーテンは私に窓の外を見せるようになびく。
ベランダに雲の影。
洗濯物も見える。
この情景がすごく好き。

さっと朝食を食べ終えた美桜はカバンを肩にかけて誰もいないリビングで、「行ってきますー」と言って家を出た。母は薬剤師。父は医者。もう仕事で家を出てしまった。一人っ子の私はたいてい家では1人。でもまぁ慣れてる。
 
駅からでた。あとは400mくらいか。あの角を曲がってまっすぐ。
すると急に太陽が隠れた。
ポツポツと雨も振り始めた。
「うっそぉ…」
美桜は走った。まわりの生徒達もまた走り出す。どんどん追い抜かれてはみんなのまきあげた水しぶきがかかる。校門に着いた瞬間に太陽が顔を出す。通り雨にしてははやすぎるな、と思いながら教室へ向かった。
教室のドアを開ける。すると美桜の頭の上で黒板消しがポスッと音を立てた。白い粉は視界を悪くする。それと同時にいろんな言葉が浮かんできた。「いじめ」「嫌がらせ」。嫌な言葉しかでてこない。するとクラスの男子が
「伊山!ごめん!まじで、ごめん!」
「いや、別に…いいけど…」
美桜は考えるより先に口が勝手に動いた。でも男子の顔はとてもふざけてるとは思えなかった。
「はよーっす。」
美桜の後ろで声がした。
「日高…いつもより遅いな…。伊山、言い訳になるかもしれないけど日高に当てるつもりで……」
男子は美桜の目を見て話した。
焦りの表情が見てとれる。
 「くだらねぇことしてんじゃねぇよ……伊山さん、本当にごめん。」
頭を書きながら優しく言った。
 「………………………………はい。」
美桜はうつむいていた。自分で自分の顔が赤くなっていることに気づいていたからだ。同じクラスになったのは今年で初めてだけど1年近く立つ。それでも美桜が日高と話したのはこれで初めてだった。まるで初対面の人たちみたいに話していた自分に少し傷ついた。
10秒ほどの空白に耐えられなくなった時にチャイムがなった。
頭をはたいてから席に着く。
そわそわして落ち着かない。
  それでも思ったより普通に時間が過ぎていった。気づけばカバンを背負っていて、気づけば家の玄関で靴をぬいでいた。
2階に上がり、ベットに倒れ込むと1日とはこんなものだったか、と思いながらスマホを手に取り、なにもせず電源をきった。やはりすることがないとスマホを手に取り、ネットを始めた。しばらくいじくるうちに、気になる項目を見つけた。美桜はすぐにそれに目をやる。
【涙が最近でない!?それって―】
その項目に吸い寄せられるようにタップした。それにしても読み込みが悪い。少しイライラしていた。ページが開くと美桜は一気にその記事にのめり込む。
【最近涙が出なかったりしませんか・・・・・?
それはおそらくドライアイ、つまり目が乾いているということです。それを、シェーグレン症候群と言います。男性よりも女性の方がなりやすく、50歳頃からがピークという難病です。自己免疫の低下なども関係しています。しかし、ドライアイとは誰もが1度は経験する身近な病気ですが。】
身近な病気という言葉にホットした美桜だがその次の言葉に少しゾッとした。
【この病気の完全な治療は現代医学では不可能に近いです。】
その次に少し違和感を感じたなら、眼科などに行くことをお勧めします、とかいてあった。
そして美桜の心の中がまとまった。
ドアの開ける音と閉める音が連続して鳴る。
「みおー。ただいまー。どこー?」
高い声が響く。母の帰りがいつもよりだいぶ早い。時計を確認すると6時30分だった。
はーい、おかえりー。と返しながら階段を素早く降りた。
「2人で、どっかいこっか。あんまり出せないから、ファミレスなんだけどね。」
「いいよ、どこでも。ありがとう。」
この時少し覚悟を決めた。
お母さん、あなたならわかってくれるかな。

家から12分ほど歩いて行った。
メニューをみて私はすぐにチーズインハンバーグに目をつけた。
思ったより空いていて賑やかには程遠い。
美桜はチーズインハンバーグを、母は和風ハンバーグを頼んだ。
「どっちもハンバーグじゃんっ」
お母さんは笑いながら言った。
美桜もまた笑った。
運ばれて来ると早速食べ始め、学校でのこと、これからのことを話していた。私の中の本題には入っていけず、母はもうレジに向かっている。またあの答えが帰ってくると思うと体が重くなる。
そしてついに店を出た。
そして
「お母さん!」
何の前触れもなく放ったその言葉に母は驚いていた。
「お母さん・・・!前からなんだけどっあたし……!」
母の後ろ、遠くに見える街灯が光ったり消えたり、実に不気味だった。

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