天下界の無信仰者(イレギュラー)
付いた異名が神の炎
戦仕立ての甲冑姿に着替えるだけでなく彼女の周囲は燃えている。揺れる炎熱すら衣服の一部であるかのように彼女は自然と炎を展開していた。炎と共に出現する様は神話そのものだ。
四大天羽の三体と比べても引きを取らない実力者。
ウリエルは、剣を抜いた。
「天羽長。あなたはかつて私にこう言った。苦しみを取り除けば、人は善い行いをすると。しかしそれは違う」
語気は抑えてあるものの彼女からは高熱の戦意が漏れ出している。言葉をかけられるたび肌が焦げていくようだ。彼女の戦意が炎ならば体は器、抑えきれない熱が伝わってくる。
ウリエルは過去を振り返りながら話していく。それは遠見の池で二人が言葉を交わした時のことだった。
「人には善の心と悪の心、両方がある。苦しみがなくたって、人は罪を犯す!」
ウリエルの周りに展開する炎が爆発した。熱風がウリエルだけでなくルシファーの長髪も揺らしていく。
ウリエルの怒りが燃えている。今すぐにでも眼下の城へ攻め込み人々を燃やし尽くさんほどに、その目は怒気に染まっていた。
変わった。彼女も変わった。人の生活を覗き見ては乙女のように微笑を浮かべていた頃の彼女はもういない。
この五年、天羽殺害から端を発した天界紛争による人類の窮地で、彼女は多くの人間の醜さを見せつけられた。憧れていた人々の幸福の裏側で、自分のために他人を貶める行為を知り過ぎた。
人を助けるのではなく、騙す者。
与えるのではなく、奪う者。
作るのではなく、壊す者。
いくつも見てきた。いくつも見せられた。人の持つ悪意に、その大きさと多さにウリエルは悲観と絶望を繰り返してきた。
そして、怒りに支配されていた。
時代は彼女に味方している。彼女の怒りは正しく天羽の掲げる正義と一致していた。彼女は心置きなく正義を実行し、そのたびに称賛された。
彼女を止められる者も止める者もいなかった。彼女の正義は加速して炎は拡大していく。
付いた異名が神の炎。神に逆らう愚者と悪を燃やし尽くす炎の化身。
彼女はウリエル、誰よりも正義を実現し、天界紛争をきっかけとして名を上げた天羽だ。
変わり果てた彼女を見つめながら、ルシファーも言葉をかけた。
「では、善き心を信じよう」
「いいや、管理すべきだ」
「…………」
「…………」
視線がぶつかり合う。無言の間で二人は分かり合っていた。会話の余地はない。もとより話し合いで済む線はとうの昔に超えている。
敵だ、倒すしかない。
互いの剣先が僅かに動く。次の瞬間、二つの剣は衝突していた。
「うおおおおお!」
「はあああああ!」
気迫が爆発する。初撃の激突から二人とも全力だ、振るう剣撃が連続で衝突していく。両者の間の空間すら弾けそうな猛烈な攻撃がぶつかっていく。
ウリエルの表情が歪む。ルシファーの一撃が重い。打ち合いをしているだけで指の骨が折れそうだ。ウリエルは羽を広げ後退すると右手を開きルシファーに向けた。
「無価値な炎!」
彼女の全力、破滅を宿した業火が空間を蹂躙した。彼女が持つ最強の概念攻撃。彼女にしか使えない唯一無二の力がルシファーを襲う。
迫る青白い炎の奔流にルシファーは急いで翼を動かし回避した。これは防御できない。どれだけ力が強くても無駄、峻厳のオーラもこれを前にしては意味がない。
ルシファーは宙を高速で移動していく。ウリエルは逃げるルシファーを追いかけるように無価値な炎を放射していく。
その度にルシファーは華麗な旋回を見せ躱していくが、それによって流れ弾が周囲を襲い始めた。
慌てて周囲の天羽たちが離れていく。ここにいれば巻き添えを食らう。即ち死ぬ。みなが必死になって離れていった。
迫るいくつもの炎にルシファーは一気に防戦一方に追い込まれている。
一撃でも受ければ致命傷になりかねないのだ、うかつには攻められない。それをいいことにウリエルは攻撃の手を休めることなく繰り出していった。
だが、一瞬の隙。ウリエルの第一射から第二射に移るまでの僅かな間。ルシファーの目つきが細くなる。
ルシファーは空間転移でウリエルの背後に回り込んでいた。距離という過程を吹き飛ばし一気に切り込む。
空間を超越する者に間合いというものはない。いつ、どこから、本気の一撃が飛んできてもおかしくない。そういう意味ではルシファーも無価値な炎と似たようなものだ。
どちらも安心できない。いつ死んでもおかしくないのだ。
背後からの奇襲、しかも攻撃していた態勢とあって振り返ることもできない。とった。ルシファーは確信し魔剣を振り上げていた。
「ファイアウォール!」
「!?」
その確信は、視界を覆う炎の壁に崩壊していた。
四大天羽の三体と比べても引きを取らない実力者。
ウリエルは、剣を抜いた。
「天羽長。あなたはかつて私にこう言った。苦しみを取り除けば、人は善い行いをすると。しかしそれは違う」
語気は抑えてあるものの彼女からは高熱の戦意が漏れ出している。言葉をかけられるたび肌が焦げていくようだ。彼女の戦意が炎ならば体は器、抑えきれない熱が伝わってくる。
ウリエルは過去を振り返りながら話していく。それは遠見の池で二人が言葉を交わした時のことだった。
「人には善の心と悪の心、両方がある。苦しみがなくたって、人は罪を犯す!」
ウリエルの周りに展開する炎が爆発した。熱風がウリエルだけでなくルシファーの長髪も揺らしていく。
ウリエルの怒りが燃えている。今すぐにでも眼下の城へ攻め込み人々を燃やし尽くさんほどに、その目は怒気に染まっていた。
変わった。彼女も変わった。人の生活を覗き見ては乙女のように微笑を浮かべていた頃の彼女はもういない。
この五年、天羽殺害から端を発した天界紛争による人類の窮地で、彼女は多くの人間の醜さを見せつけられた。憧れていた人々の幸福の裏側で、自分のために他人を貶める行為を知り過ぎた。
人を助けるのではなく、騙す者。
与えるのではなく、奪う者。
作るのではなく、壊す者。
いくつも見てきた。いくつも見せられた。人の持つ悪意に、その大きさと多さにウリエルは悲観と絶望を繰り返してきた。
そして、怒りに支配されていた。
時代は彼女に味方している。彼女の怒りは正しく天羽の掲げる正義と一致していた。彼女は心置きなく正義を実行し、そのたびに称賛された。
彼女を止められる者も止める者もいなかった。彼女の正義は加速して炎は拡大していく。
付いた異名が神の炎。神に逆らう愚者と悪を燃やし尽くす炎の化身。
彼女はウリエル、誰よりも正義を実現し、天界紛争をきっかけとして名を上げた天羽だ。
変わり果てた彼女を見つめながら、ルシファーも言葉をかけた。
「では、善き心を信じよう」
「いいや、管理すべきだ」
「…………」
「…………」
視線がぶつかり合う。無言の間で二人は分かり合っていた。会話の余地はない。もとより話し合いで済む線はとうの昔に超えている。
敵だ、倒すしかない。
互いの剣先が僅かに動く。次の瞬間、二つの剣は衝突していた。
「うおおおおお!」
「はあああああ!」
気迫が爆発する。初撃の激突から二人とも全力だ、振るう剣撃が連続で衝突していく。両者の間の空間すら弾けそうな猛烈な攻撃がぶつかっていく。
ウリエルの表情が歪む。ルシファーの一撃が重い。打ち合いをしているだけで指の骨が折れそうだ。ウリエルは羽を広げ後退すると右手を開きルシファーに向けた。
「無価値な炎!」
彼女の全力、破滅を宿した業火が空間を蹂躙した。彼女が持つ最強の概念攻撃。彼女にしか使えない唯一無二の力がルシファーを襲う。
迫る青白い炎の奔流にルシファーは急いで翼を動かし回避した。これは防御できない。どれだけ力が強くても無駄、峻厳のオーラもこれを前にしては意味がない。
ルシファーは宙を高速で移動していく。ウリエルは逃げるルシファーを追いかけるように無価値な炎を放射していく。
その度にルシファーは華麗な旋回を見せ躱していくが、それによって流れ弾が周囲を襲い始めた。
慌てて周囲の天羽たちが離れていく。ここにいれば巻き添えを食らう。即ち死ぬ。みなが必死になって離れていった。
迫るいくつもの炎にルシファーは一気に防戦一方に追い込まれている。
一撃でも受ければ致命傷になりかねないのだ、うかつには攻められない。それをいいことにウリエルは攻撃の手を休めることなく繰り出していった。
だが、一瞬の隙。ウリエルの第一射から第二射に移るまでの僅かな間。ルシファーの目つきが細くなる。
ルシファーは空間転移でウリエルの背後に回り込んでいた。距離という過程を吹き飛ばし一気に切り込む。
空間を超越する者に間合いというものはない。いつ、どこから、本気の一撃が飛んできてもおかしくない。そういう意味ではルシファーも無価値な炎と似たようなものだ。
どちらも安心できない。いつ死んでもおかしくないのだ。
背後からの奇襲、しかも攻撃していた態勢とあって振り返ることもできない。とった。ルシファーは確信し魔剣を振り上げていた。
「ファイアウォール!」
「!?」
その確信は、視界を覆う炎の壁に崩壊していた。
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