天下界の無信仰者(イレギュラー)
いったい、いつになったら……
ミカエルはルシフェルから別れた後通信施設へと向かっていた。一つの島をまるまる敷地にしている大きな施設だ。
白い長方形の建物であり入り口前の地面も白く舗装されている。入り口はガラスでできており自動扉を通ればロビーへと出た。
壁紙や天井など純白で染められているが床は光沢のない琥珀色をしており落ち着いた雰囲気がある。
広いスペースには受付と休憩所、上の階へとつながる階段がある。また重力リフトへと入れる場所もありそこに乗れば反重力によって上の階へすぐに行ける。
扉が開きミカエルは重力リフトの部屋に乗る。ボタンで止まる階を指定すると扉は閉められ数人が入れる箱は静かに上昇し始めた。
扉と反対側はガラス張りになっており地面がみるみると離れていく。
自らの羽を使わない浮遊感を少しだけ堪能しつつミカエルは停止した重力リフトから出た。白い廊下を歩いた先には中央通信室と書かれた札が掲げられた扉がある。
ミカエルは両開きの扉を開けおもむろに入室した。
「ミカエル補佐官」
突然の来訪者に気前のいい声が響く。
「お仕事中すみません」
ミカエルは部屋の一番奥にある席へと歩いていった。
天界通信局、その中央通信室。広い室内には中心を向くように席が円陣を組むように並んでいる。
職員たちは椅子に座り空間上にある半透明なキーボードを指でなぞりながらとディスプレイに情報を入力していた。
みなが黙々と作業に打ち込んでいる様は見ていて気が引き締まる思いだが、この部屋で一番目を引くのは残念ながら彼らではない。
中央で浮遊する巨大な球体だ。鉄色のそれはゆっくりと回転し表面上に入る線が時折発光している。遠見の池でルシフェルが見せたミラーボールに近い。
これで天界中の情報を収集、管理が行われている。いわばここの心臓だ。
ここの責任者である男性職員もミカエルを見ると席を立ち二人は球体の下で顔を合わせた。
「どうしたんですか、あなたがここに顔を出すなんて珍しい」
「いえ、実は天羽長から伝令を預かりましてね」
「ルシフェル様から?」
人間でいう五十代ごろの天羽だ。ミカエルも何度か会っておりこうして自然と話すことも出来るが、ルシフェルの名前が出ると途端に顔色が輝いた。さすがの人気ぶりだ。
「そうですか。それで、ルシフェル様の容態はどうでしたか?」
「ええ……」
一旦ミカエルは顔を逸らした。
世間にはここ数日のルシフェルは体調不良による休養としている。地上侵攻という大事な時期にいらぬ混乱を招かないためだ。
とはいえ、こうして純粋に心配してくれる天羽を見ると申し訳なく思う。
それに、ルシフェルの調子が悪いことに違いはないのだから。
「以前ほどの輝きはまだ。ですが思っていたよりも元気そうでした。それで伝令というのがですね、今日は午前中で仕事を終わらせて後は休むようにと。それを各施設に伝達してください。地上に出て二週間、いろいろ苦労が溜まっているでしょうから」
「なるほど、ルシフェル様らしい」
男は気さくに笑っている。その後部下に指示を出し始めた。
「聞いただろう。各所に伝達。今日の仕事は午前中のみだ」
「しかし主任、私今日中に終わらせないといけない仕事があるんですけど」
「うーん……」
ミカエルは顎に手を当てた。部下の一人から言われたことも尤もだ。うれしい者もいれば逆に首を絞められる者もいるだろう。
「分かりました。確かに急な指示ですが、彼の好意を無駄にもしたくない。必要な者だけ残って後は退勤ということで」
「分かりました。そう伝えてきます。天羽長命令ですからね」
「ええ」
話はまとまりミカエルは主任へと会釈してから来た道を戻った。まだまだやることはある。
「ミカエル補佐官」
「はい?」
が、そこへ主任から声をかけられる。なんだろうかと振り向いた。
「ルシフェル様は、いつごろ戻られそうですか?」
そこには彼を案じる顔をした主任が立っていた。彼が姿を消して十四日。こんなことは初めてだ。それに地上侵攻という不安定なこの事態とも被さりなおさら心配なのだろう。
「大勢の天羽が彼の姿を見たがっています」
不安な天羽は多い。そして、こんな時彼がいてくれればと願う者も。
それだけにルシフェルを慕う者は多い。天界のナンバーワンは姿を消しても健在だ。
「それは……、一番彼が分かっていると思います」
ミカエルはなんと言えばいいのか迷った。言葉を慎重に選ぶ。いつ彼が表へと出るのか、それはミカエルにも分からない。
むしろ心境としては主任と同じだ。ミカエルだって、彼の復帰を望んでいる。
(いったい、いつになったら……)
ミカエルは主任の顔を今一度見つめた後部屋を出ていった。通信局の廊下を歩いていく。
白い長方形の建物であり入り口前の地面も白く舗装されている。入り口はガラスでできており自動扉を通ればロビーへと出た。
壁紙や天井など純白で染められているが床は光沢のない琥珀色をしており落ち着いた雰囲気がある。
広いスペースには受付と休憩所、上の階へとつながる階段がある。また重力リフトへと入れる場所もありそこに乗れば反重力によって上の階へすぐに行ける。
扉が開きミカエルは重力リフトの部屋に乗る。ボタンで止まる階を指定すると扉は閉められ数人が入れる箱は静かに上昇し始めた。
扉と反対側はガラス張りになっており地面がみるみると離れていく。
自らの羽を使わない浮遊感を少しだけ堪能しつつミカエルは停止した重力リフトから出た。白い廊下を歩いた先には中央通信室と書かれた札が掲げられた扉がある。
ミカエルは両開きの扉を開けおもむろに入室した。
「ミカエル補佐官」
突然の来訪者に気前のいい声が響く。
「お仕事中すみません」
ミカエルは部屋の一番奥にある席へと歩いていった。
天界通信局、その中央通信室。広い室内には中心を向くように席が円陣を組むように並んでいる。
職員たちは椅子に座り空間上にある半透明なキーボードを指でなぞりながらとディスプレイに情報を入力していた。
みなが黙々と作業に打ち込んでいる様は見ていて気が引き締まる思いだが、この部屋で一番目を引くのは残念ながら彼らではない。
中央で浮遊する巨大な球体だ。鉄色のそれはゆっくりと回転し表面上に入る線が時折発光している。遠見の池でルシフェルが見せたミラーボールに近い。
これで天界中の情報を収集、管理が行われている。いわばここの心臓だ。
ここの責任者である男性職員もミカエルを見ると席を立ち二人は球体の下で顔を合わせた。
「どうしたんですか、あなたがここに顔を出すなんて珍しい」
「いえ、実は天羽長から伝令を預かりましてね」
「ルシフェル様から?」
人間でいう五十代ごろの天羽だ。ミカエルも何度か会っておりこうして自然と話すことも出来るが、ルシフェルの名前が出ると途端に顔色が輝いた。さすがの人気ぶりだ。
「そうですか。それで、ルシフェル様の容態はどうでしたか?」
「ええ……」
一旦ミカエルは顔を逸らした。
世間にはここ数日のルシフェルは体調不良による休養としている。地上侵攻という大事な時期にいらぬ混乱を招かないためだ。
とはいえ、こうして純粋に心配してくれる天羽を見ると申し訳なく思う。
それに、ルシフェルの調子が悪いことに違いはないのだから。
「以前ほどの輝きはまだ。ですが思っていたよりも元気そうでした。それで伝令というのがですね、今日は午前中で仕事を終わらせて後は休むようにと。それを各施設に伝達してください。地上に出て二週間、いろいろ苦労が溜まっているでしょうから」
「なるほど、ルシフェル様らしい」
男は気さくに笑っている。その後部下に指示を出し始めた。
「聞いただろう。各所に伝達。今日の仕事は午前中のみだ」
「しかし主任、私今日中に終わらせないといけない仕事があるんですけど」
「うーん……」
ミカエルは顎に手を当てた。部下の一人から言われたことも尤もだ。うれしい者もいれば逆に首を絞められる者もいるだろう。
「分かりました。確かに急な指示ですが、彼の好意を無駄にもしたくない。必要な者だけ残って後は退勤ということで」
「分かりました。そう伝えてきます。天羽長命令ですからね」
「ええ」
話はまとまりミカエルは主任へと会釈してから来た道を戻った。まだまだやることはある。
「ミカエル補佐官」
「はい?」
が、そこへ主任から声をかけられる。なんだろうかと振り向いた。
「ルシフェル様は、いつごろ戻られそうですか?」
そこには彼を案じる顔をした主任が立っていた。彼が姿を消して十四日。こんなことは初めてだ。それに地上侵攻という不安定なこの事態とも被さりなおさら心配なのだろう。
「大勢の天羽が彼の姿を見たがっています」
不安な天羽は多い。そして、こんな時彼がいてくれればと願う者も。
それだけにルシフェルを慕う者は多い。天界のナンバーワンは姿を消しても健在だ。
「それは……、一番彼が分かっていると思います」
ミカエルはなんと言えばいいのか迷った。言葉を慎重に選ぶ。いつ彼が表へと出るのか、それはミカエルにも分からない。
むしろ心境としては主任と同じだ。ミカエルだって、彼の復帰を望んでいる。
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