天下界の無信仰者(イレギュラー)
人類の救済、それが我らの使命だろう!
「何事ですか!?」
声がした方を見る。天羽たちの垣根を分けて行けば、そこにはナイフを持った子供が立っていた。
「どうして子供がッ」
町人は全員退避させているはずだ。彼は自主的にここに残り勇敢にも戦おうとしたようだ。
まだ幼い少年だ。家に隠れていたのか、扉から出てきた子供は震えた手でナイフを握り天羽たちに切っ先を向けていた。
「こいつ、やるつもりか?」
一番近くにいる男性天羽が剣を抜く。刃物を向けられたことに表情も険しくなる。鋭い視線で見下ろされた少年は息を飲み、強ばった表情で天羽を見上げた。見れば足も震えている。
「待ってください!」
ミカエルはすぐに男性天羽に近づき肩に手を置いた。相手はまだ子供だ。だが、天羽も戦場に立たされ気が立っている。恐怖が平常心を狂わせている。
それは少年も同じ。敵が攻めてきたのだ、覚悟を決めたのか、少年は走り出した。
「うわあああ!」
雄叫びとも悲鳴ともつかない声を上げて、小さな体は突撃してきた。攻撃してきたことに天羽も剣を振るう。
「止めろぉお!」
その間に、突如ルシフェルが現れていた。走ってきたのではない、空間から現れたのだ。
「天羽長!?」
ルシフェルの登場に男性天羽が驚く。ルシフェルは男性天羽の剣を自身の剣で受け止めると、反対の手で少年のナイフを握りしめていた。
その手から、血がこぼれ出していく。
けれど片手の痛みなど微塵も見せず、ルシフェルは男性天羽を怒鳴りつけた。
「剣を下ろせ!」
「しかし」
「すぐに下ろせ!」
天羽長からの叱咤に男性天羽はうなだれるように剣を下ろした。してはいけないことをしてしまったと認識したのか、俯き落ち込んでいた。
それを見てルシフェルは剣を鞘に納める。少年のナイフもそのまま奪い取った。子供は数歩後ずさるとその場に座り込んでしまった。
見れば、その顔はまだ恐怖にひきつっている。
それを、ルシフェルは見るのが辛かった。
「……この子の親を捜せ。せめて一緒にいさせてやるんだ」
ルシフェルの指示に近くにいた天羽たちが少年に近寄り立ち上がらせた。少年は連れて行かれる。
ルシフェルはその場に立ち尽くしていた。ナイフを握った手を見つめる。傷口からこぼれる血が地面に滴り落ちていく。
痛みが走る手を、ルシフェルは握りしめた。力を増すにつれ痛みも増すが気にせず握り込んだ。
自分が負った痛みは数滴の血だけだ。それだけだ。けれど、あの少年の負った痛みはどれだけだろうか。あそこまで追いつめられて。
少年の痛みに比べれば、この程度の痛みは小石に躓くにも劣る。
ルシフェルは天羽を見渡した。この場にいる全員に向かって、大声で呼びかけた。
ここに来た目的は侵攻だ。でも、その根底にある理想を思い出してもらわなければならない。
「いいか、私たちは侵略しに来たのではない。本来の目的を思い出せ! 人類の救済、それが我らの使命だろう!」
「黙れ偽善者!」
けれど、割り込んできた罵声に言葉は凍った。
遠くで連行されている人間の一人が発したものだった。ルシフェルを憎そうに見つめている。
自分たちの長に暴言を吐かれたことに連行している天羽が慌てて兵士に駆けつける。男を黙らせようと掴みかかった。
「止めろ!」
それを、ルシフェルは止めさせた。
「…………いいんだ」
天羽は怒りを顔に張り男を掴んでいたが、天羽長の言葉に渋々手を離す。
ルシフェルは俯いた。拳を作っていた手は力を無くし、今しがた言われた言葉が頭を駆けめぐる。
(偽善者)
そうだ、まったくその通り。ルシフェルがここでどれだけ正義だ理想だを語ったところで彼らから見れば侵略でしかない。
勝手な正義を押しつけられて、勝手な理想に巻き込まれて、いい迷惑だ。
それが分かる。自分のしていることが、どれだけ身勝手な正義か分かってしまう。
ルシフェルにミカエルが近づいてきた。青い瞳は心配そうに見つめてきている。近づいてきたミカエルに、ルシフェルは尋ねるために小さく名前を呼んだ。
「ミカエル」
「はい」
ミカエルは真剣な表情で答える。ルシフェルは視線を足下に向け顔色は暗かった。
「誰しもを、救いたいと願う私は、わがままだと思うか?」
声がした方を見る。天羽たちの垣根を分けて行けば、そこにはナイフを持った子供が立っていた。
「どうして子供がッ」
町人は全員退避させているはずだ。彼は自主的にここに残り勇敢にも戦おうとしたようだ。
まだ幼い少年だ。家に隠れていたのか、扉から出てきた子供は震えた手でナイフを握り天羽たちに切っ先を向けていた。
「こいつ、やるつもりか?」
一番近くにいる男性天羽が剣を抜く。刃物を向けられたことに表情も険しくなる。鋭い視線で見下ろされた少年は息を飲み、強ばった表情で天羽を見上げた。見れば足も震えている。
「待ってください!」
ミカエルはすぐに男性天羽に近づき肩に手を置いた。相手はまだ子供だ。だが、天羽も戦場に立たされ気が立っている。恐怖が平常心を狂わせている。
それは少年も同じ。敵が攻めてきたのだ、覚悟を決めたのか、少年は走り出した。
「うわあああ!」
雄叫びとも悲鳴ともつかない声を上げて、小さな体は突撃してきた。攻撃してきたことに天羽も剣を振るう。
「止めろぉお!」
その間に、突如ルシフェルが現れていた。走ってきたのではない、空間から現れたのだ。
「天羽長!?」
ルシフェルの登場に男性天羽が驚く。ルシフェルは男性天羽の剣を自身の剣で受け止めると、反対の手で少年のナイフを握りしめていた。
その手から、血がこぼれ出していく。
けれど片手の痛みなど微塵も見せず、ルシフェルは男性天羽を怒鳴りつけた。
「剣を下ろせ!」
「しかし」
「すぐに下ろせ!」
天羽長からの叱咤に男性天羽はうなだれるように剣を下ろした。してはいけないことをしてしまったと認識したのか、俯き落ち込んでいた。
それを見てルシフェルは剣を鞘に納める。少年のナイフもそのまま奪い取った。子供は数歩後ずさるとその場に座り込んでしまった。
見れば、その顔はまだ恐怖にひきつっている。
それを、ルシフェルは見るのが辛かった。
「……この子の親を捜せ。せめて一緒にいさせてやるんだ」
ルシフェルの指示に近くにいた天羽たちが少年に近寄り立ち上がらせた。少年は連れて行かれる。
ルシフェルはその場に立ち尽くしていた。ナイフを握った手を見つめる。傷口からこぼれる血が地面に滴り落ちていく。
痛みが走る手を、ルシフェルは握りしめた。力を増すにつれ痛みも増すが気にせず握り込んだ。
自分が負った痛みは数滴の血だけだ。それだけだ。けれど、あの少年の負った痛みはどれだけだろうか。あそこまで追いつめられて。
少年の痛みに比べれば、この程度の痛みは小石に躓くにも劣る。
ルシフェルは天羽を見渡した。この場にいる全員に向かって、大声で呼びかけた。
ここに来た目的は侵攻だ。でも、その根底にある理想を思い出してもらわなければならない。
「いいか、私たちは侵略しに来たのではない。本来の目的を思い出せ! 人類の救済、それが我らの使命だろう!」
「黙れ偽善者!」
けれど、割り込んできた罵声に言葉は凍った。
遠くで連行されている人間の一人が発したものだった。ルシフェルを憎そうに見つめている。
自分たちの長に暴言を吐かれたことに連行している天羽が慌てて兵士に駆けつける。男を黙らせようと掴みかかった。
「止めろ!」
それを、ルシフェルは止めさせた。
「…………いいんだ」
天羽は怒りを顔に張り男を掴んでいたが、天羽長の言葉に渋々手を離す。
ルシフェルは俯いた。拳を作っていた手は力を無くし、今しがた言われた言葉が頭を駆けめぐる。
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そうだ、まったくその通り。ルシフェルがここでどれだけ正義だ理想だを語ったところで彼らから見れば侵略でしかない。
勝手な正義を押しつけられて、勝手な理想に巻き込まれて、いい迷惑だ。
それが分かる。自分のしていることが、どれだけ身勝手な正義か分かってしまう。
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