天下界の無信仰者(イレギュラー)
新たな仲間
ルシフェルが遠見の池でウリエルと別れてから数日後。
会議室には天羽長ルシフェルが座っていた。他にも四大天羽のガブリエル、ラファエル、サリエルもいる。
机の上座にルシフェルが座り、右側にガブリエルとラファエル、左側にサリエルがいる。窓からは光が差し込み部屋を満たす。
四大天羽による定例会議。ここでこれまでの成果と今後の方針を確認し合う。最近では進展の無かった定例会議だったが、ルシフェルは今回新たな方針を打ち出した。
「地上での布教活動は継続して行っている。しかし好転の気配はなく、今まで以上の理解を得られていないのが現状だ」
三人は静かに天羽長の言葉を聞いていた。何度も確認してきた現状の認識。
「我らが父、天主イヤス様の使命を全うするのが私たち天羽の役割だ。その意思は人類のことを想ってのこと。私も実現したいと思っている」
人類の恒久的平和。そのため天羽は遣わされた。
「しかし、人類のためを思っての行動でも、彼らにしてみれば押しつけでしかない。私たちを侵略者だと罵る者もいる。否定はしない。そう思うのも至極当然だ」
それが大儀であれ正義であれ、押しつけられれば反発する者も出てくる。平和という束縛を嫌い、危険な自由を求める者もいる。
「だが、分かってほしいのだ。無益な争い、繰り返す過ち。それは、いつかは、どこかで、止めねばならない!」
天羽長ルシフェルの語気に熱が入る。言葉の端々から彼の思いが伝播する。
「争いに苦しみ、犠牲に悲しむ気持ちは彼らにもある。なら分かり合える!」
それは遠見の池で行ったウリエルの会話の中で気づいたことだった。
心は繋がっている。幸せも苦しみも。なら天羽と人間という違いはあれど、分かり合えないなんてことはないと。あの時ルシフェルは気づけたのだ。
分かり合うことを諦めない。どうすれば分かり合えるのかを考え続けること。それは一番困難なことかもしれない。それでも可能性を信じることを。ルシフェルは決意した。
その布石として、あることを用意していた。
「そのためにも、今後は人類との会談を増やし、対話によって理解を得ていく。今までは私自ら地上に下り話を進めてきたが、それだけではどうしても回数に限界がある。これを解消するためには私の代理、補佐となる者が必要だ。それで天羽長補佐官を一人設けることにした」
天羽長からの当然の発表に三人にもわずかに驚きが走る。天羽長補佐官。いったいどのような人物なのか。
「紹介しよう。入ってきてくれ」
三人は振り返り扉を見た。ルシフェルからの指示に従い扉が開いていく。
そこから現れたのは、金髪の青年だった。
「彼が私の補佐を務める、ミカエルだ」
ミカエルと呼ばれた青年が入室する。白の制服をきちんと着こなし、その顔には快活なやる気に満ちていた。
テーブルの前で立ち止まると背筋を伸ばし、健やかな表情で自己紹介をした。
「はじめまして。ただいま天羽長ルシフェル様からご紹介に預かりましたミカエルといいます。四大天羽の皆様とこうしてご対面できるなんて光栄です! よろしくお願いします!」
ハキハキと元気良く、どこか初々しさを出しながら。ミカエルは天羽のトップ四である彼らに挨拶をした。
四大天羽とは全天羽にとって憧れだ。それは彼らが敬愛する天主イヤスに選ばれた証。
言ってしまえば雲の上にいる方々だ。そんな彼らを前にしてミカエルは緊張と同時に興奮しているようだった。逸る気持ちが抑えられないといった具合に表情が輝いている。
「ラファエルよ。よろしくね、ミカエル」
「はい!」
緊張気味のミカエルを気遣ってか、ラファエルはニコッと笑いながら声をかける。彼女の優しさにミカエルも勢いよく返事をした。
ガブリエルはというと平静に彼を見つめ、サリエルはどこかうんざりという態度だった。
天羽は成長しない。造られた時が完成形だ。よって見た目からは天羽の年齢は分からないが、彼の態度からミカエルが造られてまだ新しいのは見て取れた。
古参の三人もミカエルという名は聞いたことがない。
それが天羽長補佐官という大役に就くことに、サリエルは乱暴に声をかけた。
「おい坊主。お前、自分がこれからなにをしようか分かってるのか? こうしたことをした経験はあるのかよ?」
上司である四大天羽からの威圧感たっぷりな態度に、それでもミカエルは真面目に答えていく。
「いえ。まだまだ勉強中の身で。しかし自分の責任は自覚しています。一日でも早くお役に立てるよう、精一杯努力していきます!」
「精一杯、ねえ」
彼の答えにサリエルは露骨に顔をしかめる。
「あー……、ダンナ。ちなみに人選は誰が?」
「私だが」
「だと思ったよ」
天羽長直々となれば文句も言えない。そもそもこんな素人をスカウトしてくるなど不安しかない。
「なにか言ったかサリエル?」
サリエルの態度にガブリエルが釘を刺す。
「いやいや、なにも。オーライ。新たな仲間を歓迎しようじゃないか。これから楽しくなりそうだぜ。お前もそう思うだろう、新入り?」
「もう、やめなさいよねサリエル」
新人いびりの先輩をラファエルがいさめる。対面初日、先輩であり上司からこうも当たりの強い態度を見せられれば畏縮してしまう。
けれどもミカエルに臆している様子はなかった。
「いえ。ここにいる皆さんは私の憧れです。そんな方々と一緒に仕事ができるなんて。私の方こそ、緊張はありますが楽しみで仕方がありません。これから、よろしくお願いします!」
「…………」
あまりの好青年っぷりにサリエルも出る言葉がない。これではサリエルの威圧感も形無しだ。
そんなサリエルにガブリエルが「フッ」と笑った。
「これから楽しくなりそうじゃないか、先輩?」
「けっ」
おもしろくないと言わんばかりにサリエルが舌打ちする。
「彼には今日から仕事をしてもらう。みな、よろしくしてやってくれ」
天羽長ルシフェルから出された新たな方針と新たな仲間。
天羽と人間の未来に光あれ。使命と願いを胸に新たな動きが起こる。
天羽長ルシフェルとミカエルの物語は、ここから始まっていた。
会議室には天羽長ルシフェルが座っていた。他にも四大天羽のガブリエル、ラファエル、サリエルもいる。
机の上座にルシフェルが座り、右側にガブリエルとラファエル、左側にサリエルがいる。窓からは光が差し込み部屋を満たす。
四大天羽による定例会議。ここでこれまでの成果と今後の方針を確認し合う。最近では進展の無かった定例会議だったが、ルシフェルは今回新たな方針を打ち出した。
「地上での布教活動は継続して行っている。しかし好転の気配はなく、今まで以上の理解を得られていないのが現状だ」
三人は静かに天羽長の言葉を聞いていた。何度も確認してきた現状の認識。
「我らが父、天主イヤス様の使命を全うするのが私たち天羽の役割だ。その意思は人類のことを想ってのこと。私も実現したいと思っている」
人類の恒久的平和。そのため天羽は遣わされた。
「しかし、人類のためを思っての行動でも、彼らにしてみれば押しつけでしかない。私たちを侵略者だと罵る者もいる。否定はしない。そう思うのも至極当然だ」
それが大儀であれ正義であれ、押しつけられれば反発する者も出てくる。平和という束縛を嫌い、危険な自由を求める者もいる。
「だが、分かってほしいのだ。無益な争い、繰り返す過ち。それは、いつかは、どこかで、止めねばならない!」
天羽長ルシフェルの語気に熱が入る。言葉の端々から彼の思いが伝播する。
「争いに苦しみ、犠牲に悲しむ気持ちは彼らにもある。なら分かり合える!」
それは遠見の池で行ったウリエルの会話の中で気づいたことだった。
心は繋がっている。幸せも苦しみも。なら天羽と人間という違いはあれど、分かり合えないなんてことはないと。あの時ルシフェルは気づけたのだ。
分かり合うことを諦めない。どうすれば分かり合えるのかを考え続けること。それは一番困難なことかもしれない。それでも可能性を信じることを。ルシフェルは決意した。
その布石として、あることを用意していた。
「そのためにも、今後は人類との会談を増やし、対話によって理解を得ていく。今までは私自ら地上に下り話を進めてきたが、それだけではどうしても回数に限界がある。これを解消するためには私の代理、補佐となる者が必要だ。それで天羽長補佐官を一人設けることにした」
天羽長からの当然の発表に三人にもわずかに驚きが走る。天羽長補佐官。いったいどのような人物なのか。
「紹介しよう。入ってきてくれ」
三人は振り返り扉を見た。ルシフェルからの指示に従い扉が開いていく。
そこから現れたのは、金髪の青年だった。
「彼が私の補佐を務める、ミカエルだ」
ミカエルと呼ばれた青年が入室する。白の制服をきちんと着こなし、その顔には快活なやる気に満ちていた。
テーブルの前で立ち止まると背筋を伸ばし、健やかな表情で自己紹介をした。
「はじめまして。ただいま天羽長ルシフェル様からご紹介に預かりましたミカエルといいます。四大天羽の皆様とこうしてご対面できるなんて光栄です! よろしくお願いします!」
ハキハキと元気良く、どこか初々しさを出しながら。ミカエルは天羽のトップ四である彼らに挨拶をした。
四大天羽とは全天羽にとって憧れだ。それは彼らが敬愛する天主イヤスに選ばれた証。
言ってしまえば雲の上にいる方々だ。そんな彼らを前にしてミカエルは緊張と同時に興奮しているようだった。逸る気持ちが抑えられないといった具合に表情が輝いている。
「ラファエルよ。よろしくね、ミカエル」
「はい!」
緊張気味のミカエルを気遣ってか、ラファエルはニコッと笑いながら声をかける。彼女の優しさにミカエルも勢いよく返事をした。
ガブリエルはというと平静に彼を見つめ、サリエルはどこかうんざりという態度だった。
天羽は成長しない。造られた時が完成形だ。よって見た目からは天羽の年齢は分からないが、彼の態度からミカエルが造られてまだ新しいのは見て取れた。
古参の三人もミカエルという名は聞いたことがない。
それが天羽長補佐官という大役に就くことに、サリエルは乱暴に声をかけた。
「おい坊主。お前、自分がこれからなにをしようか分かってるのか? こうしたことをした経験はあるのかよ?」
上司である四大天羽からの威圧感たっぷりな態度に、それでもミカエルは真面目に答えていく。
「いえ。まだまだ勉強中の身で。しかし自分の責任は自覚しています。一日でも早くお役に立てるよう、精一杯努力していきます!」
「精一杯、ねえ」
彼の答えにサリエルは露骨に顔をしかめる。
「あー……、ダンナ。ちなみに人選は誰が?」
「私だが」
「だと思ったよ」
天羽長直々となれば文句も言えない。そもそもこんな素人をスカウトしてくるなど不安しかない。
「なにか言ったかサリエル?」
サリエルの態度にガブリエルが釘を刺す。
「いやいや、なにも。オーライ。新たな仲間を歓迎しようじゃないか。これから楽しくなりそうだぜ。お前もそう思うだろう、新入り?」
「もう、やめなさいよねサリエル」
新人いびりの先輩をラファエルがいさめる。対面初日、先輩であり上司からこうも当たりの強い態度を見せられれば畏縮してしまう。
けれどもミカエルに臆している様子はなかった。
「いえ。ここにいる皆さんは私の憧れです。そんな方々と一緒に仕事ができるなんて。私の方こそ、緊張はありますが楽しみで仕方がありません。これから、よろしくお願いします!」
「…………」
あまりの好青年っぷりにサリエルも出る言葉がない。これではサリエルの威圧感も形無しだ。
そんなサリエルにガブリエルが「フッ」と笑った。
「これから楽しくなりそうじゃないか、先輩?」
「けっ」
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