天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

頼んだぞ……

 だが、無駄ではない。これは敵の大部分をこちらに引き付けるための戦い。打開するための真の矢はこれからだ。

 それを実らせるためにも、ここをふんばれるかがこの戦いを大きく左右する。

「気を抜くな! 時間を稼げ、ここを維持しろ!」

 ペトロの激が戦場に飛ぶ。司令官の言葉にやる気を燃やしゴルゴダの信仰者は武器を振るう。

 目の前の敵を倒すこと、生き残ること。信仰を胸に全力で天羽と戦っていた。

 ペトロも戦場で剣を振るい多くの天羽たちと戦う。仲間のピンチには転移して駆け付け、超越者(オラクル)として最も活躍していた。

 大通りを縦横無尽に飛び回り、宙にいる天羽たちとも戦っていく。

 彼の戦う姿に仲間たちは希望と勇気を貰い己を奮い立たせていた。

 刻一刻と迫るタイムリミット、敵の増援に戦況はペトロたちの奮闘をよそに劣勢に傾いていく。

 その度にペトロは剣を早く、空間転移の数を増していく。

 焦らないわけがない。常に時間に終われた戦い、焦燥が胸を突き動かす。もたもたしていればこの戦争どころか大通りの戦いすら終わってしまう。

 ペトロは転移した宙で天羽たちと戦っていた。落下しながらも空間転移を繰り返し、敵の背後を取っては斬り倒していく。

 空から多くの羽が飛び散り、着地したペトロの頭上で漂った。

 その時だった。

 希望の光が二つ、この場を走り去っていったのだ。

「どけぇええ!」

 大勢の声がひしめき合うにも関わらず、それは誰よりも力強い少年の声だった。

「ここは通してもらいます!」

 直後黄金の光線が浮遊している天羽たちを薙ぎ払った。

 神愛とミルフィアが駆け抜けていく。神愛は黄金のオーラを身に纏い、立ちはだかる天羽たちを殴り倒していく。

 ミルフィアはいくつもの光線を放ち離れた敵を攻撃していた。

 彼らに道を作るため兵士や騎士たちも邪魔する天羽を抑え込む。

 そうして道を切り開き二人は戦場を渡っていった。向かう先はガブリエルが消えた北の支点。

 この戦いに勝つためには四つの支点をすべて壊さなければならない。そのために二人が大通りを突破した。

 あとは彼らが無事支点を壊してくれるのを祈るばかりだ。人類対天羽の戦いはあの二人に掛かっている。

 神愛とミルフィアの後ろ姿を見送り、ペトロは天羽たちに剣を向けた。正面には二体の天羽と宙にも三体浮いている。

「頼んだぞ……」

 希望を彼らに託し、ペトロは再び剣を振るっていった。



 俺はヴァチカンの大通りを激走していた。道路には車は一台もなくこの先にはサン・ジアイ大聖堂が見える。

 隣にはミルフィアがおり今も思想統一の弾圧によって天羽を撃ち落としていた。

「気をつけてください主、天羽たちの大部分はペトロたちが引き付けているとはいえここにも警備の天羽はいます」

「分かってる!」

 俺は地面を蹴った。王金調律で足を強化し跳躍する。宙から襲いかかってきた天羽に向かっている間に右手に黄金のオーラを集め相手に叩き付ける。

 天羽も同時に剣を振り下ろしていたが力は俺の方が上であり、天羽は吹き飛ばされ建物に衝突していた。

 しかし攻撃した隙を狙って新たに三体の天羽が襲いかかってきた。空中で身動きが取れない!

「はああ!」

 三体の天羽が光線に呑み込まれる。そのまま弾き飛ばされた。

 俺は着地するとすぐに走るのを再開した。すぐにミルフィアが追いつき俺の隣を走っている。

 ミルフィアは自信満々な顔で俺を見つめていた。

「……なんだよその得意気な顔は」

「いえ、別に」

 その褒めてもらいたい子犬みたいな顔止めろ!

 天羽たちの襲撃はあったものの俺たちは順調に進んでいた。ペトロたちのおかげだろう、少ない抵抗だけで済んだ。

 その分ペトロたちに戦力が集中しているってことだ。早く四つの支点というのを破壊しないと。

「主、見えてきます」

 俺たちの進む先、そこにはサン・ジアイ大聖堂の正面が見えてきた。

 広大な広場は円形状でで外側にはいくつもの柱が並んでいる。

 中央には一際大きな柱が立っていた。しかし以前見た時とは違い仄かな輝きを発し、先端付近には魔法陣のような紋様が浮かび上がっていた。

 どうやらこの柱が結界の支点のようだな。

 俺たちは広場に入る。サン・ジアイ大聖堂はもう目の前だ。だが、中央の柱の前に一人の女性が立っていた。

 青のセミロングの髪と白のロングコートを靡かせて立つ、ガブリエルだった。

 俺たちは足を止めガブリエルの前に立つ。辺りを見渡してみるが他に天羽は見当たらない。

「あんた一人か」

「見ての通りだ」

 相変わらず物静かながらも厳しい雰囲気のある女だ。両手をポケットに入れ佇む姿には戦意すら感じない。

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