天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

だから決めたよ

「でも、やはり主は主ですよ」

「ん?」

 そこで初めてミルフィアが口を開いた。見れば、ミルフィアは微笑み神愛を見上げていた。

 そこには安堵と、嬉しさが混ざった瞳があった。

「最後には、友を信じるのですね」

「……フン、当然だろ?」

 笑えるだけの余裕がある。最高の友達に囲まれて。気持ちはすっかり軽くなっていた。

 その流れで神愛は笑顔のまま冗談交じりに言い出した。

「あいつにはいろいろ言わなきゃ気が済まないからな。言いたい放題言いやがって。そもそもだ、ふざっけんなよあいつ! .俺がせっかく会いに行ったのに友達じゃないだと? その前に言うことあるだろ、てめえの炎が熱いんだよ! 申し訳ないですねくらい断れよ!」

「それはまあ……」

 たしかに重要である。

「こっちの心配も知らないで好き勝手やりやがってよ!」

「日頃の行いでしょ、嘘ばっかり吹き込むからその報いよ」

「うるせえよ」

 それを言われると反論できない神愛であった。

「だから決めたよ」

 神愛は言った。迷いに迷って、決めかねていた答えを。

 それは紛うことなき本心であり、彼らしい答えだった。

「俺、あいつに文句言ってくる。そして連れ戻す。諦めるのはあいつの方だ!」

 友達なのか? 敵なのか? もう昔には戻れない? 二千年前の使命?

 知ったことか、どうでもいいのだそんなことは。

 文句を言いたいから言う。ついでに連れ戻す。それだけなのだ。正面衝突しようものならそれで上等、相手を吹き飛ばして自分の意思を通す。

 無茶苦茶だ、自分勝手にもほどがある。少しは相手の事情を考えろと言いたくなるだろう。

 普通じゃない。

 けれど、それこそが宮司神愛。

 天下界唯一の異端児イレギュラーなのだ。

 そんな神愛に二人からもささやかな声援が届く。

「ふ、強引ね」

「でも宮司君らしい」

 温かい雰囲気だった。まだなにも解決などしていないのに、ここには期待と希望に溢れる光に満ちていた。

 その空気の中で、誰よりも彼を慕う少女は片手を胸に当てた。そして自身の主へと告げるのだ、自分の誓いを、今一度。

「主、あなたがそれを望むなら。私はどこへでも付いて行きます」

「……おう」

 ミルフィアは恭しく軽く頭を下げる。神愛は頷くと二人は見つめ合い、小さく笑った。



 人類と天羽の争い。ついに開かれたヘブンズ・ゲート。決戦を前に打撃を受けたゴルゴダ共和国。

 勝利を確信する神官長ミカエル。

 沈黙する教皇エノク。

 勝敗は付いたかのように見えた。天羽は二千年前の使命をついに遂げ、空は白い羽に包まれる。

 けれど、まだ諦めていない意思がここにはあった。

 あらゆる必然も、すべての必定も、たった一つの想定外で覆る。

 無信仰者神愛。

 この争いがどのような結末を迎えるか、それはまだ決まっていない。

 イレギュラーが、ここにいるのだから。

「よし! あいつを助けるとか友達とか関係ねえ! 文句だけ言ってくるか!」

 神愛は陽気な声と、力強い拳を頭上へと上げたのだった。

 ここから始まる、反撃の狼煙だ。

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