天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

計画通りにね

 サン・ジアイ大聖堂。その一室には四人の高官たちが集まっていた。長い机の上座にはミカエルが。そして左にはガブリエルとラファエル、右にはサリエルが座っていた。

 空気は張り詰めていた。いや、皆が決意や覚悟を抱いているのか、この期に及んで言葉など不要だと、各々思いを秘めて席についていた。

 対照的なのは、ガブリエルは目を瞑りラファエルは浮かない表情に比べ、ミカエルとサリエルは上機嫌に笑みを浮かべていることだ。

 ミカエルは足を組み、合わせた両手を膝に置いていた。サリエルは両手をポケットに入れ机の上に両足を乗せている。

「準備は順調だ」

 そこでミカエルが喋った。この場の空気がさらに深いものへとなっていく。

「計画通りにね」

 計画。それはゴルゴダ共和国最高責任者かつ、天羽てんはの長であるミカエルの独断独行だった。

 一連の事件は表面的なものに過ぎない。水面下で忍び寄る影は、すでに始まっていたのだ。

「では始めよう」

 ここで、ついにその姿を現す。今まで表舞台に現れていなかった神官長派、人として姿を眩ませていた天羽(てんは)である彼らが。

 沈黙を破り、姿を現す。

 歓喜せよ。

 歓喜せよ。

 すべての天羽てんはよ、歓喜せよ。

 時はきた、ついに神の愛に応える時だ。

天羽てんは長』ミカエルは謳うのだ、戦場に響き渡る角笛を。

 開戦の号砲だ。

「諸君。二千年前の使命を果たす時だ」

 ミカエルの言葉に全員が立ち上がった。それは天羽てんは長の言葉、そして彼らの父であるイヤスの使命だ。

 ガブリエルは達観していた。目を瞑った表情を一切変えることなく、彼女なりの思いはあるのだろうが表に出さない。

 ラファエルは諦観していた。こうなってはもう止められない。騒乱は世界を覆い、地上は変わる。

 サリエルは興奮していた。ついについについに、ようやく来たのだ。興奮を抑えられない。決着の時まで、あと少し。

 事態は大きく変わる。彼らの本格的な活動によって。

 この日、ゴルゴダ共和国にとって、否、世界にとって歴史的な一日となるだろう。

 人は知るのだ、かつてこの世界には天羽てんはがいたことを。

 人に平和を与えるために。地上から争いを無くすために。

 そのために、人類は一度敗れたことを。

 その時の恐怖と絶望。

 二千年の時間の中で忘れ去ってしまったあの時を、人類は思い出すのだ。

 天羽てんはが、降臨する。


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