天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

ええ、ご名答です

 俺たちが教皇宮殿を攻めた翌日、独房に入れられてから俺はベッドに横になっていた。天井を見上げ不満を吐き出す。

「くそ」

 なにかしなくちゃならない、こうしてはいられないという思いだけは沸騰し始めたお湯のように溢れてくるんだ。だけどこうして捕まってちゃそれも出来ない。

 なにも出来ない。それ以前にどうしたいのかすら昨日から迷ってる。

 恵瑠を生き返らせていいのかどうか。天秤は右に左に揺れたまま、答えを見つけられずにいる。

「はぁ」

 なんとも言えないため息が出た。

「おや、そこにいるのは宮司さんですか?」

「え?」

 と、どこからか聞き慣れた声がした。俺は上体を起こした。

「隣ですよ隣」

 ちょうどベッドが置かれていた壁を見る。この声は……。

「まさか、ヨハネ先生か?」

「ええ、ご名答です」

 壁越しにのんびりとした声が返ってくる。間違いない、ヨハネ先生だ。正面入り口で俺たちのために時間を稼いでくれた後、先生もここに入れられていたのか。

「なんだよ先生こんなところで! 捕まったのか?」

 まさか会えるとは思えずホッとする。会ったという表現も微妙だが、声が聞けただけで嬉しかった。

「あの、宮司さん? 楽しそうに言うの止めてもらえますか?」

「はっはっはっは! 先公が捕まるとか、はっはっはっは!」

「まったく、宮司さんはいじわるですねぇ……」

「ごめんごめん、悪かったよ」

 つい舞い上がってしまった。謝るがそれでも表情は笑っていた。

「ですがまあ、真面目な話、宮司さんの言う通り教師である私がこうして捕まっています。実際、情けない話ですよね」

「なに言ってんだよ、先生は俺の誇りだぜ?」

 あの時、教皇宮殿に突入できたのはヨハネ先生が協力してくれたからだ。それがなければ入れることすら難しかった。

「ははは……、ありがとうございます」

「本当だって!」

「分かっていますよ。あなたは素直な人ですからね」

 ヨハネ先生の顔は見えないが話をすることができてよかった。

 だけど俺はふと笑みを消し顔を下げてしまった。ヨハネ先生は自分の仲間を裏切り捕まる覚悟までして俺に協力してくれたというのに、俺は…………。

 俺が黙ったことでヨハネ先生も察したようだった。

「宮司さんとこうしてお話ができて嬉しく思っています。ですが、あなたがここにいるということは、栗見さんは……?」

 半分分かっている聞き方だった。声は落ち込んでいて。それでも聞かずにはいられなかったんだろう、恵瑠は先生にとっても大切な生徒だから。

 俺は、答えるのが心苦しかった。

「ごめん。守れなかった」

「…………そうですか」

 小さなつぶやきが聞こえる。再会できた喜びはあったが、なくなってしまった重みに暗く押し潰される。

「なあ、先生」

 それで俺は聞いてみた。

 ずっと悩んでいる。恵瑠の蘇生と世界の危機のこと。先生ならなんて答えるだろう。誰にでも優しくて、誰よりも立派なこの人なら。

「もし、大切な人を亡くしたとしてさ、それを生き返らせるとする。でも、それをしてしまうと多くの人が犠牲になる。そんな条件なら、先生はどうする?」

 どう答えるだろう。分からない。ただ知りたかった。

「そうですね」

 ヨハネ先生は一言置くと、俺の質問に答えてくれた。

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