天下界の無信仰者(イレギュラー)
宙に、一歩を踏み出した。
宙に、一歩を踏み出した。
そこにはなにもない、空が広がるのみだ。建物の屋上が遠い。街を見下ろす高さの宙に足を置く。
すると、そこから黄金の波紋が広がった。空間をうねらせ、歪曲し、触れた建物すら変形させては過ぎ去っていく。一歩を踏み出すごとに、それは鼓動のように起こった。
俺は今、空を歩いている。白衣のロングコートを身に纏い、背後には聖霊となったミルフィアを引き連れて。
黄金が、俺たちを包んでいる。
けれど、俺の心に平穏なんてなかった。高揚も、興奮も、体の底からわき上がる力に歓喜すらしない。
あるのは怒りと悲しみ、それだけだ。
今でもあの瞬間が鮮明に思い出される。
恵瑠の胸に、剣が突き刺さった瞬間を。
『恵瑠……うそだろ……』
その光景に、俺は視界が暗転した気分だった。時間が停止して、心まで動きを止めたようだった。
抱きしめても、返事がこない。
『許さない。お前は絶対に許さないッ』
多大な悲しみと、反する怒りが胸の中で暴れてる。
その元凶へ、俺は歩み寄った。
教皇エノク。その神託物、メタトロン。街を俯瞰(ふかん)するほどの巨体と他を圧倒する力を持つ、世界最大の神託物。
俺はメタトロンの胸元で立ち止まる。そしてやつの顔を見上げた。彫刻の顔がそこにはある。巨大な体はそれだけで威圧感を放ち背後に浮かぶ光輪は神聖な存在であることを見ただけで感じさせる。
強い。なにより大きい。見た目だけでなくその存在感が。
けれど。
今の俺に、感心する余裕なんてなかった。
関係ない。そんなもの、まるで!
「こいよ」
俺はメタトロンを睨み上げる。胸の内にある怒りをぶつけた。
メタトロンは静かに立っている。俺を見下ろし微動だにしない。
けれど、その手が動いた。腕を振り上げ拳を握り込む。
くる。やつが動くだけで遠近感がおかしくなりそうだ。またやつが動くだけで大気が暴れている。強風が生まれ髪とコートの袖が激しく揺れた。
もうすぐでメタトロンの拳がとんでくる。あの質量で向かってくる攻撃だ、直撃すれば即死どころかオーバーキルの一撃だ。
それがやってくる。けれど、そんな時でされ俺の頭の中にあるのは恵瑠の言葉だった。
恵瑠は笑っていた。俺が助けに来てくれたことが嬉しくて。
そして言ってくれたんだ。
今まで辛い時間を過ごしてきて、多くの人に憎まれて。それでもなお、言ってくれたんだ。
『生きててよかった!』
恵瑠が浮かべた笑顔を。そこにあった喜びを。
俺は、思い出していたんだ。
俺は右手を握り込んだ。拳を作り、そこに黄金の光が集まった。
ついにメタトロンが拳を打ち出す。その一撃で城すら粉砕する巨人の攻撃が迫る。目の前を覆うメタトロンの拳は壁と変わらない。
対して。
迎え撃つは、黄金に輝く神拳。
二つの拳がぶつかった。
衝突に爆風が生まれる。周囲へ広がっていく衝撃波は建物の窓をぶち破る。
「うおおおおお!」
押し寄せる力に魂で叫んだ。心が暴れてる。こいつを、絶対に許すなと!
直後、メタトロンの体が吹き飛んだ!
全長百メートルもある巨体が数キロメートルも飛んでいき大地に倒れ込む。地震を思わせる轟音を響かせて、最大の神託物、メタトロンが倒れた。
宙に立っているのは、俺とミルフィアだ。
メタトロンの上体が起き上がる。俺を見ると体が一瞬で光となり姿を消すと、すぐに同じ場所に、立っている姿勢で現れた。
メタトロンがゆっくりと歩いてくる。街の建物がジオラマみたいだ。
 それにメタトロンの雰囲気が変わった。さきほどまでの山のような偉大だが静かな存在感じゃない。自ら動いていく気配を感じる。
どうやら今ので本気になったようだな。
だが上等だ。手加減なんて許さない。こいつは全力で、倒さないと気が済まない。
メタトロンが大通りを一歩一歩近づいてくる。距離がまだ遠い。徐々に近づいてくる様は勝負のカウントダウンだ。
俺は睨んで近づいてくるメタトロンを見ていたが、そこでメタトロンの姿が消えた。
「な!?」
直後、腕を振りかぶった状態で俺の前に現れた。
「く!」
そのままメタトロンが殴りかかってきた。突然の攻撃に防御もとれず直撃する。
今度は俺が吹き飛ぶ番だった。まともに攻撃を受けた俺はそのまま吹き飛んでいき背後にある教皇宮殿にぶつかった。
 それでも止まらず俺の体は教皇宮殿を貫通しその後のビル、さらにもう一つのビルも貫通していった。その次の建物に背中からぶつかりようやく停止する。
『主!?』
ミルフィアが心配そうに俺の顔をのぞき込んでくる。今のミルフィアは黄金の粒子が形作った半透明で上半身しか映っていない。
「くっ」
壁にめり込んだ腕を引き離す。表情が歪む。ふざけた話だ、今のが通常攻撃だっていうのかよ。
そこへ再びメタトロンが空間転移で現れた。壁に埋もれている俺を建物ごと蹴り上げる。
「があ!」
ビルは跡形もなく吹き飛び残骸と一緒に宙に放り出される。そこへさらに拳をたたき込まれた。上に飛んだ体が今度は地面と平行に飛んでいく。
メタトロンは空間転移で俺の進行先で待ち構えており、今度はアッパーで上空に殴られた。俺は雲を突き抜けるがそこでも待ち構えていたメタトロンに両手で組んだ拳を振り下ろされる。
「があああああ!」
もうどっちが上か下なんて次元じゃない。気づいた時には場所が違うんだ。街の中かと思っていたらすでに空の上。そして今は街の地面に突き刺さろうとしている。
圧倒的な力と空間すら超越した連続攻撃。
その最後。トドメを刺すべくメタトロンは地面に先回りし、両手で俺を挟み撃ちしてきた。
 隙間がない。左右から逃げ場のない手のひらに挟まれ体が押しつぶされる。
そこにはなにもない、空が広がるのみだ。建物の屋上が遠い。街を見下ろす高さの宙に足を置く。
すると、そこから黄金の波紋が広がった。空間をうねらせ、歪曲し、触れた建物すら変形させては過ぎ去っていく。一歩を踏み出すごとに、それは鼓動のように起こった。
俺は今、空を歩いている。白衣のロングコートを身に纏い、背後には聖霊となったミルフィアを引き連れて。
黄金が、俺たちを包んでいる。
けれど、俺の心に平穏なんてなかった。高揚も、興奮も、体の底からわき上がる力に歓喜すらしない。
あるのは怒りと悲しみ、それだけだ。
今でもあの瞬間が鮮明に思い出される。
恵瑠の胸に、剣が突き刺さった瞬間を。
『恵瑠……うそだろ……』
その光景に、俺は視界が暗転した気分だった。時間が停止して、心まで動きを止めたようだった。
抱きしめても、返事がこない。
『許さない。お前は絶対に許さないッ』
多大な悲しみと、反する怒りが胸の中で暴れてる。
その元凶へ、俺は歩み寄った。
教皇エノク。その神託物、メタトロン。街を俯瞰(ふかん)するほどの巨体と他を圧倒する力を持つ、世界最大の神託物。
俺はメタトロンの胸元で立ち止まる。そしてやつの顔を見上げた。彫刻の顔がそこにはある。巨大な体はそれだけで威圧感を放ち背後に浮かぶ光輪は神聖な存在であることを見ただけで感じさせる。
強い。なにより大きい。見た目だけでなくその存在感が。
けれど。
今の俺に、感心する余裕なんてなかった。
関係ない。そんなもの、まるで!
「こいよ」
俺はメタトロンを睨み上げる。胸の内にある怒りをぶつけた。
メタトロンは静かに立っている。俺を見下ろし微動だにしない。
けれど、その手が動いた。腕を振り上げ拳を握り込む。
くる。やつが動くだけで遠近感がおかしくなりそうだ。またやつが動くだけで大気が暴れている。強風が生まれ髪とコートの袖が激しく揺れた。
もうすぐでメタトロンの拳がとんでくる。あの質量で向かってくる攻撃だ、直撃すれば即死どころかオーバーキルの一撃だ。
それがやってくる。けれど、そんな時でされ俺の頭の中にあるのは恵瑠の言葉だった。
恵瑠は笑っていた。俺が助けに来てくれたことが嬉しくて。
そして言ってくれたんだ。
今まで辛い時間を過ごしてきて、多くの人に憎まれて。それでもなお、言ってくれたんだ。
『生きててよかった!』
恵瑠が浮かべた笑顔を。そこにあった喜びを。
俺は、思い出していたんだ。
俺は右手を握り込んだ。拳を作り、そこに黄金の光が集まった。
ついにメタトロンが拳を打ち出す。その一撃で城すら粉砕する巨人の攻撃が迫る。目の前を覆うメタトロンの拳は壁と変わらない。
対して。
迎え撃つは、黄金に輝く神拳。
二つの拳がぶつかった。
衝突に爆風が生まれる。周囲へ広がっていく衝撃波は建物の窓をぶち破る。
「うおおおおお!」
押し寄せる力に魂で叫んだ。心が暴れてる。こいつを、絶対に許すなと!
直後、メタトロンの体が吹き飛んだ!
全長百メートルもある巨体が数キロメートルも飛んでいき大地に倒れ込む。地震を思わせる轟音を響かせて、最大の神託物、メタトロンが倒れた。
宙に立っているのは、俺とミルフィアだ。
メタトロンの上体が起き上がる。俺を見ると体が一瞬で光となり姿を消すと、すぐに同じ場所に、立っている姿勢で現れた。
メタトロンがゆっくりと歩いてくる。街の建物がジオラマみたいだ。
 それにメタトロンの雰囲気が変わった。さきほどまでの山のような偉大だが静かな存在感じゃない。自ら動いていく気配を感じる。
どうやら今ので本気になったようだな。
だが上等だ。手加減なんて許さない。こいつは全力で、倒さないと気が済まない。
メタトロンが大通りを一歩一歩近づいてくる。距離がまだ遠い。徐々に近づいてくる様は勝負のカウントダウンだ。
俺は睨んで近づいてくるメタトロンを見ていたが、そこでメタトロンの姿が消えた。
「な!?」
直後、腕を振りかぶった状態で俺の前に現れた。
「く!」
そのままメタトロンが殴りかかってきた。突然の攻撃に防御もとれず直撃する。
今度は俺が吹き飛ぶ番だった。まともに攻撃を受けた俺はそのまま吹き飛んでいき背後にある教皇宮殿にぶつかった。
 それでも止まらず俺の体は教皇宮殿を貫通しその後のビル、さらにもう一つのビルも貫通していった。その次の建物に背中からぶつかりようやく停止する。
『主!?』
ミルフィアが心配そうに俺の顔をのぞき込んでくる。今のミルフィアは黄金の粒子が形作った半透明で上半身しか映っていない。
「くっ」
壁にめり込んだ腕を引き離す。表情が歪む。ふざけた話だ、今のが通常攻撃だっていうのかよ。
そこへ再びメタトロンが空間転移で現れた。壁に埋もれている俺を建物ごと蹴り上げる。
「があ!」
ビルは跡形もなく吹き飛び残骸と一緒に宙に放り出される。そこへさらに拳をたたき込まれた。上に飛んだ体が今度は地面と平行に飛んでいく。
メタトロンは空間転移で俺の進行先で待ち構えており、今度はアッパーで上空に殴られた。俺は雲を突き抜けるがそこでも待ち構えていたメタトロンに両手で組んだ拳を振り下ろされる。
「があああああ!」
もうどっちが上か下なんて次元じゃない。気づいた時には場所が違うんだ。街の中かと思っていたらすでに空の上。そして今は街の地面に突き刺さろうとしている。
圧倒的な力と空間すら超越した連続攻撃。
その最後。トドメを刺すべくメタトロンは地面に先回りし、両手で俺を挟み撃ちしてきた。
 隙間がない。左右から逃げ場のない手のひらに挟まれ体が押しつぶされる。
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