天下界の無信仰者(イレギュラー)
いいえ、分かり合っているはずですよ
「侵入者を追え! イレギュラーを捕らえろ!」
ヤコブの号令が放たれる。一斉に騎士たちがヨハネ目掛け走り出す。数は全部で五十人はいるか。階段を埋め尽くす騎士の群衆は津波のようだ。一人では抑えきれない。
普通の者ならば。
けれど、
「ここは通しません」
ここにいるのは元聖騎士第三位特殊部隊。第一線を退いた身なれどその信仰心に曇りはない。
ヨハネは両手で僧衣を捲ると腰へと手を伸ばした。そこにあるのは二丁の拳銃だ。ブラックメタルの光沢を輝かせ二つの銃口が押し寄せる騎士へと向かう。
伝統を受け継ぐ聖騎士隊の装備は甲冑と刀剣だ。兜で顔を隠し戦場を歩く姿は幾世を超えて不変の輝きがある。
対して特殊部隊は現代兵器を惜しむことなく使用する合理主義者だ。学園襲撃然り。鉄の意思と戒律で任務をこなす。信仰心を燃料に擦り切れるまで回る歯車だ。
ヨハネは発砲する。二丁の銃口はそれぞれが意思を持っているかのように別々の標的へと狙いを定める。
直後、撃たれた騎士は吹き飛んだ。
拳銃ではあり得ない衝撃だ。まるでハンマーで叩かれる薪のように人が飛んでいく。盾を構えていようがお構いなし。問答無用で吹き飛ばす暴力だ。
神化が違う。ヨハネの信仰心は聖騎士隊の者らをはるかに超えている。ヨハネの放つ銃弾も神化の影響によって強化され彼らを弾き飛ばしているのだ。
 神化の影響は信仰者の手から離れた時点から弱まっていくがそれで強力。銃弾は肉体をえぐってはいない。
 もしかしたらその衝撃に骨が折れた者もいるかもしれないが全員生きている。ヨハネの目的は殺すことではなく足止めなのだから。
気づけば階段周辺は横に倒れる騎士で埋め尽くされていた。階段の通りだけが開け、階下は絨毯のように騎士が打倒されている。
五十人もの聖騎士がたった一人に敗退した。
唯一残っているのは、階段途中に立つヤコブだけだ。
「感は取り戻せたか?」
「さて、どうでしょうね」
ヤコブの質問にヨハネは肩を竦める。両手はぶらんと下がっておりヤコブも無防備に立っている。
「お前が裏切ったのは信仰心が弱まったからだと思っていた。だが、違うようだ」
「兄さん。人助けにもいろいろあるんですよ」
「国を守れずどうやって人を守るつもりだッ?」
「目の前の人を救わずなにが守れるんですかッ?」
互いに睨み合う。意見は交わらない。同じ守るという意思でも根底が違うのだ。大きな視野で見るか、自分の視点で見るか。二人は見ている地点が違う。であれば守るべきものも違ってくるのは当然だ。
「どうあっても分かり合うことはなさそうだな」
「いいえ、分かり合っているはずですよ。少なくとも、私はそのつもりです」
「……そうだったな」
言うとヤコブは静かに剣を抜いた。それに合わせヨハネも銃口を構える。
ヤコブはヨハネを知っている。ヨハネもヤコブを知っている。互いに理解しているのだ。だからこそ和解はない。話し合いは不可能。
残されたのは互いの力をぶつけ合うのみ。それでどちらの信仰心が強いか分かる。これ以上ないほど明確に。
空気は緊迫に。視線は圧迫を。ここは一髪触発の戦場だ。守るため、退けない理由のために。
二人の信仰者は戦った。
「いくぞヨハネ!」
ヤコブは盾を構えた。大きさはマンホールほど。ホタテ貝を思わせる盾を左腕に付けており、それを前にして突進していく。右手には片手剣を握り締め突きの体勢だ。
すかさずヨハネも発砲する。銃弾一つで三十キログラムを超える甲冑一式を着た騎士が吹き飛ぶ高威力だ。攻め込むヤコブに集中砲火を浴びせる。これが他の騎士ならひとたまりもない。
だが、過剰掃射すら思わせる過酷な射線上でなおヤコブは無傷のままだった。
足は止まらない。突撃は止まらない。いくつもの銃弾を受けているがなんら足止めにもなっていない。
そもそも、着弾の衝撃すら発生していないのだ。風船でもぶつけているかのように無反動。
ヤコブの神化は防御という一点において極まっている。物理耐性×3を誇るこの盾は無敵の盾だ。
 そのすさまじさは見ての通り、ヨハネの銃弾すらシャボン玉の中を走っているに等しい。
ヨハネはすぐに足元へと照準を変える。盾の及ばない場所なら有効となる。
瞬間ヤコブは跳んだ。ヨハネの頭上を軽々と上回る。ヨハネは発砲するがヤコブは体を屈め盾でカバーしていた。
ヨハネは横へとすぐさま退避する。ヤコブは着地と同時に剣を振り下ろし地面を粉砕させた。爆弾でも爆発したかのように地面が砕け散る。もし受けていれば無事では済まなかった。
二人は正面入り口前に立つ。階段上という地形的有利はすでにない。さらに間合いが近い、ヤコブの剣が届く距離!
こうなっては拳銃が不利だ。間合いの距離は広いが標準は点でしかない。反対に刃物は距離は狭いが標準は線、範囲が広い。なにより防ぐ盾がない。
ヤコブが一閃した。ヨハネのこめかみを狙う正確な一撃が迫る。鍛え上げた肉体と信仰心による高速の剣撃、勝負ありだ。
それを、ヨハネは防いだ。
「ぬ!?」
ヤコブの眉が曲がった。本来ならこれで終わりのはず。しかしヨハネは立っている。
ヤコブの剣を、二丁の銃身で受け止めていた。それだけではない、今度は銃身で殴りつけてくる。
 二つの鈍器としてグリップの底や突きを繰り出す。
ヤコブは再び盾を構える。これでは間合いが逆転だ、剣が振れない。それを狙ってのことだろう、ヨハネの容赦ない打撃が続く。
 離れようとするヤコブを離さず猛烈に。さらに間合いが開けば蹴りも加える。
洗練された動きだ。隙あれば射撃するしたたかさ。ガン・カタと呼ばれる銃器による近接格闘術がヨハネの戦法だった。
左ひじの打突を盾に打ち込み右の銃身で殴りつける。負けじとヤコブが振るう剣を回って躱すと、その勢いのまま回し蹴りを放つ。
 盾によって威力は打ち消されるも足場にして後退しすぐさに射撃する。それをヤコブは盾を小さく動かしながら全弾弾き落した。
猛烈な攻防が続くが戦いは終わらない。ヤコブはすぐに駆け出しヨハネを突くとヨハネはそれを回って躱し射撃する。
 蝶のように舞い蜂のように刺す武闘だ。それを盾で防ぐとさらに剣を振る。その繰り返し。
 ヨハネは盾のない場所を撃ち、ヤコブもそれをすぐに防ぐ。攻防はすさまじい速度で行われ互いに回る戦いは一種のダンスにも見える。
 ヨハネの射撃音がリズムとなってスピードが上がっていく。
するとヤコブの姿が一瞬にして消えた。
「ん!?」
ヨハネは目を見開くがすぐに背後へと振り向いた。後ろに出現したヤコブが振るう剣を受け止める。
 二人は押し合いになるがヤコブは再び姿を消した。すぐに別の場所へと現れると剣撃を見舞ってくる。
「くっ!」
ヨハネは間一髪で躱すが表情が歪む。これでは間合いなどないに等しい。
超越者による空間転移、それによる奇襲攻撃だ。これでは防戦一方になるしかない。
ヤコブの号令が放たれる。一斉に騎士たちがヨハネ目掛け走り出す。数は全部で五十人はいるか。階段を埋め尽くす騎士の群衆は津波のようだ。一人では抑えきれない。
普通の者ならば。
けれど、
「ここは通しません」
ここにいるのは元聖騎士第三位特殊部隊。第一線を退いた身なれどその信仰心に曇りはない。
ヨハネは両手で僧衣を捲ると腰へと手を伸ばした。そこにあるのは二丁の拳銃だ。ブラックメタルの光沢を輝かせ二つの銃口が押し寄せる騎士へと向かう。
伝統を受け継ぐ聖騎士隊の装備は甲冑と刀剣だ。兜で顔を隠し戦場を歩く姿は幾世を超えて不変の輝きがある。
対して特殊部隊は現代兵器を惜しむことなく使用する合理主義者だ。学園襲撃然り。鉄の意思と戒律で任務をこなす。信仰心を燃料に擦り切れるまで回る歯車だ。
ヨハネは発砲する。二丁の銃口はそれぞれが意思を持っているかのように別々の標的へと狙いを定める。
直後、撃たれた騎士は吹き飛んだ。
拳銃ではあり得ない衝撃だ。まるでハンマーで叩かれる薪のように人が飛んでいく。盾を構えていようがお構いなし。問答無用で吹き飛ばす暴力だ。
神化が違う。ヨハネの信仰心は聖騎士隊の者らをはるかに超えている。ヨハネの放つ銃弾も神化の影響によって強化され彼らを弾き飛ばしているのだ。
 神化の影響は信仰者の手から離れた時点から弱まっていくがそれで強力。銃弾は肉体をえぐってはいない。
 もしかしたらその衝撃に骨が折れた者もいるかもしれないが全員生きている。ヨハネの目的は殺すことではなく足止めなのだから。
気づけば階段周辺は横に倒れる騎士で埋め尽くされていた。階段の通りだけが開け、階下は絨毯のように騎士が打倒されている。
五十人もの聖騎士がたった一人に敗退した。
唯一残っているのは、階段途中に立つヤコブだけだ。
「感は取り戻せたか?」
「さて、どうでしょうね」
ヤコブの質問にヨハネは肩を竦める。両手はぶらんと下がっておりヤコブも無防備に立っている。
「お前が裏切ったのは信仰心が弱まったからだと思っていた。だが、違うようだ」
「兄さん。人助けにもいろいろあるんですよ」
「国を守れずどうやって人を守るつもりだッ?」
「目の前の人を救わずなにが守れるんですかッ?」
互いに睨み合う。意見は交わらない。同じ守るという意思でも根底が違うのだ。大きな視野で見るか、自分の視点で見るか。二人は見ている地点が違う。であれば守るべきものも違ってくるのは当然だ。
「どうあっても分かり合うことはなさそうだな」
「いいえ、分かり合っているはずですよ。少なくとも、私はそのつもりです」
「……そうだったな」
言うとヤコブは静かに剣を抜いた。それに合わせヨハネも銃口を構える。
ヤコブはヨハネを知っている。ヨハネもヤコブを知っている。互いに理解しているのだ。だからこそ和解はない。話し合いは不可能。
残されたのは互いの力をぶつけ合うのみ。それでどちらの信仰心が強いか分かる。これ以上ないほど明確に。
空気は緊迫に。視線は圧迫を。ここは一髪触発の戦場だ。守るため、退けない理由のために。
二人の信仰者は戦った。
「いくぞヨハネ!」
ヤコブは盾を構えた。大きさはマンホールほど。ホタテ貝を思わせる盾を左腕に付けており、それを前にして突進していく。右手には片手剣を握り締め突きの体勢だ。
すかさずヨハネも発砲する。銃弾一つで三十キログラムを超える甲冑一式を着た騎士が吹き飛ぶ高威力だ。攻め込むヤコブに集中砲火を浴びせる。これが他の騎士ならひとたまりもない。
だが、過剰掃射すら思わせる過酷な射線上でなおヤコブは無傷のままだった。
足は止まらない。突撃は止まらない。いくつもの銃弾を受けているがなんら足止めにもなっていない。
そもそも、着弾の衝撃すら発生していないのだ。風船でもぶつけているかのように無反動。
ヤコブの神化は防御という一点において極まっている。物理耐性×3を誇るこの盾は無敵の盾だ。
 そのすさまじさは見ての通り、ヨハネの銃弾すらシャボン玉の中を走っているに等しい。
ヨハネはすぐに足元へと照準を変える。盾の及ばない場所なら有効となる。
瞬間ヤコブは跳んだ。ヨハネの頭上を軽々と上回る。ヨハネは発砲するがヤコブは体を屈め盾でカバーしていた。
ヨハネは横へとすぐさま退避する。ヤコブは着地と同時に剣を振り下ろし地面を粉砕させた。爆弾でも爆発したかのように地面が砕け散る。もし受けていれば無事では済まなかった。
二人は正面入り口前に立つ。階段上という地形的有利はすでにない。さらに間合いが近い、ヤコブの剣が届く距離!
こうなっては拳銃が不利だ。間合いの距離は広いが標準は点でしかない。反対に刃物は距離は狭いが標準は線、範囲が広い。なにより防ぐ盾がない。
ヤコブが一閃した。ヨハネのこめかみを狙う正確な一撃が迫る。鍛え上げた肉体と信仰心による高速の剣撃、勝負ありだ。
それを、ヨハネは防いだ。
「ぬ!?」
ヤコブの眉が曲がった。本来ならこれで終わりのはず。しかしヨハネは立っている。
ヤコブの剣を、二丁の銃身で受け止めていた。それだけではない、今度は銃身で殴りつけてくる。
 二つの鈍器としてグリップの底や突きを繰り出す。
ヤコブは再び盾を構える。これでは間合いが逆転だ、剣が振れない。それを狙ってのことだろう、ヨハネの容赦ない打撃が続く。
 離れようとするヤコブを離さず猛烈に。さらに間合いが開けば蹴りも加える。
洗練された動きだ。隙あれば射撃するしたたかさ。ガン・カタと呼ばれる銃器による近接格闘術がヨハネの戦法だった。
左ひじの打突を盾に打ち込み右の銃身で殴りつける。負けじとヤコブが振るう剣を回って躱すと、その勢いのまま回し蹴りを放つ。
 盾によって威力は打ち消されるも足場にして後退しすぐさに射撃する。それをヤコブは盾を小さく動かしながら全弾弾き落した。
猛烈な攻防が続くが戦いは終わらない。ヤコブはすぐに駆け出しヨハネを突くとヨハネはそれを回って躱し射撃する。
 蝶のように舞い蜂のように刺す武闘だ。それを盾で防ぐとさらに剣を振る。その繰り返し。
 ヨハネは盾のない場所を撃ち、ヤコブもそれをすぐに防ぐ。攻防はすさまじい速度で行われ互いに回る戦いは一種のダンスにも見える。
 ヨハネの射撃音がリズムとなってスピードが上がっていく。
するとヤコブの姿が一瞬にして消えた。
「ん!?」
ヨハネは目を見開くがすぐに背後へと振り向いた。後ろに出現したヤコブが振るう剣を受け止める。
 二人は押し合いになるがヤコブは再び姿を消した。すぐに別の場所へと現れると剣撃を見舞ってくる。
「くっ!」
ヨハネは間一髪で躱すが表情が歪む。これでは間合いなどないに等しい。
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