天下界の無信仰者(イレギュラー)
覚悟
純白の羽が広がる。二つの翼はこの場を覆うほど巨大だった。白髪の老年の男性で、白衣を着ており手には一冊の本があった。
 きれいな装飾に宝石まで埋め込まれた、それだけで奇跡と呼べる神器の品。あらゆる叡智が秘められていることを見ただけで感じ取ってしまうほど、背後にいる天羽もそうだが、その天羽が持つ本はすさまじかった。
ペトロは片手を前に出すと倒れていた騎士たちが姿を消し一瞬で彼の背後に現れた。
「空間転移、やっぱり超越者級。神愛君、気を付けてください!」
「ああ、油断なんてしてねえよ」
この強大な神託物、それは信仰心が大きいっていうなによりの証拠だ。それだけ神化も強いし神に近い存在ってことだ。なにが出来ても不思議じゃない。
ペトロは上段の構えで剣を持ち、天羽は本を開いた。風に吹かれているように勢いよくページが捲られ、ある場所で止まると天羽は厳かな声で唱え始めた。
 それによりペテロの全身が白銀の光に包まれていく。
俺とペトロが睨み合う。俺は黄金、ペトロは白銀のオーラを発し大地を震わせる。すでに俺たちの戦意は神化によって質量すら持つほどに濃密なものになっていた。
 大気は風を巻き起こし、無言のにらみ合いの中周囲だけが暴れていく。普通なら立っているのも難しいくらいだ。
その最中、ついにペトロが動いた。
「ふん!」
一瞬姿が消えたかと思うとペトロは踏み込んでいた。前に出した右足が地面を砕く。そして神の力を宿した剣が振り下ろされた。
それは世界有数の信仰者が繰り出す至高の一撃。生涯を信仰に費やした、純真なる力。それはこの天下界にとって最良にして最強の力になる。
ペテロの攻撃に俺の王金調律も瞬時に動きを妨害する。黄金のオーラが壁となった。しかし剣は止まらない。怒涛の勢いで黄金を叩き潰してきた。
頭上から迫り来るペテロの剣、俺は思いっきり拳を振り上げた。
「うおおおお!」
剣と俺の右アッパーが衝突する。衝撃に地面はへこみ爆風が建物の壁に亀裂を入れた。
黄金と白銀がぶつかり合う。俺たちの波動が押し付け合うように、互いのオーラが激しい勢いで衝突している。
「ぐっ」
重い。妨害は働いているはずだが一向に力が弱まらない。むしろ増しているかのように俺を押し潰しにきている。まるで巨大な岩でも持ち上げようとするように、このままじゃ押し切られる!
「こんなところでッ」
だけど、俺は負けられない。今も俺の後ろには恵瑠がいる。
守ると誓った、絶対に!
「諦めてたまるかよぉお!」
俺は叫んだ。黄金の輝きが一際強くなる。
無限の強化が俺を強くする。その強化速度さえ。だんだん強くなっていくのが、爆発的な勢いで力が増していく!
「これは?」
「うをおおおおお!」
拳に黄金が集う。一点に力が収束されて、俺は剣は弾き返した。
「ぬう!」
俺が拳を振り抜いた余波でペトロの体が勢いよく押された。地面に足をついたまま引きずられていた。ペテロは表情を歪め、痛めたか剣を持っている方の肩に片手を当てていた。
 周囲はたった一撃をぶつけ合っただけなのにぼろぼろだ。壁には亀裂が入り地面にはヒビが入っている。
「これほどとはな」
ペトロが苦い表情で俺を見つめている。その後剣を鞘に戻すと神託物である天羽も消えていった。
 本当に戦うのは今の一撃だけのようだ。俺も王金調律を解いた。
戦いは終わった。しかしペテロは納得できていないのか、厳しい口調で聞いてくる。
「少年。いや、宮司神愛。聞かせろ、お前は真実を知ったはずだ。にも関わらず、なぜその娘を守る。再びこの時代で襲いかかってくる危険性がある、野放しには出来ん。なのになぜ助ける?」
表情は多少歪んでいるものの鋭い視線は変わらない。
かつて数々の街を燃やし、人々を恐怖させた審判の天羽、ウリエル。それが現代でも猛威を振るえば再び多くの街が壊滅するだろう。
だけど。
「ハッ、なぜ守る? なぜ助ける? 慈愛連立が聞いて呆れるぜ。人助けはてめえらの専売特許じゃなかったのかよ?」
「…………」
確かにそうかもしれない。こいつらの言っていることは分かるし、危険なものに蓋をしたいというのも理解できる。
でも、譲れないんだ。
「分からないって言うなら何度でも教えてやる」
たとえ世界で唯一のわがままだとしても。
「こいつは俺のダチだ、だから守る! 理由なんてそれだけだ!」
みんなが言うだろう、恵瑠は危険だと。捕まえるべきだと。人類の敵であるこいつを守ろうなんて言うやつなんて本来ならいるはずがない。
だけど、俺はレギュラーだ。あるはずがないもの。世界のすべてがこいつを見捨てても、俺だけはこいつを守り抜く。
「世界を危険に晒してもか?」
「知るか。うるせえ。関係ねえ! 俺は俺の守りたいもの守るんだよ。それに世界に対して恩も義理もないんでね」
「そうか」
ペトロは納得したのかそう言うと手を軽く横に振った。すると背後で倒れている騎士が一人また一人と消えていった。
「ならばお前は守るといい。我々は世界を守るために戦う。人類と天羽の戦い、どう転ぼうが熾烈な争いになろうだろう」
人類と天羽の戦い。
それは二千年前に起きた惨劇の再開だ。世界で最初に起きた奇跡が再び始まろうとしている。
「お前の存在は想定外だが、たった一つの誤差程度、この戦いはどうにもならんぞ、イレギュラー」
「舐めるなよ」
この戦い、もしかしたら世界規模にだってなるかもしれない。すでに国単位の戦いが始まっている。たった一人が足掻いたところでどうなるものじゃない。
普通なら。
でも、俺に諦める気なんてなかった。
「てめえらこそ、俺のダチに手を出しといてタダで済むと思うなよ」
「ふん」
俺は覚悟を宿した目でペトロを見つめていた。
そしてペトロの背後にいる騎士が全員別の場所へと消えていった。最後にペトロも消えていく。
残されたのは戦いの傷跡、そして俺と恵瑠の二人だけだった。
「ふう」
気が抜ける、どっと疲れた。
俺は背後に振り返る。そこには恵瑠がいた。心配そうに俺を見つめており近づいてくる。
「神愛君大丈夫ですか?」
「まあな、疲れたけど怪我はねえよ」
俺はやれやれと両肩を持ち上げる。
「それと、あいつらの言ってたことは気にすんな。言葉の最後に諸説ありますって付けとけ」
ペトロもそうだが他の騎士も恵瑠にひどいことを言っていた。居場所がないとか邪魔だとか。人間と仲良くなりたいと願っている恵瑠(える)にはショックだろう。
「神愛君……。ボク、ボクは……」
それはこいつの表情を見れば分かる。目を伏せた顔はどう見ても愉快じゃない。
「…………」
なんて声をかければいいのか、俺は少しだけ言葉を見失っていた。
その時だ、突然恵瑠が小走りで抱きついてきたのだ。
「恵瑠?」
「神愛君」
恵瑠(える)の小さな体が俺を抱き締める。顔を俺の腹に当て、小さな手が俺の服を握り締める。離さないように、力強く。
そして、恵瑠は言った。
「ずっと、一緒にいれくれますよね?」
その声は真剣だった。なにより不安そうだった。
かつての過ちに人からは嫌われ、償おうとして天羽からも追放された。
孤独の堕天羽。恵瑠はこの世界で唯一の異端者だ。
俺と、同じだったんだ。
「当然だろ」
「神愛君?」
俺は両腕を恵瑠の背中に回した。小さく震えているこいつを包んでやる。
「これで安心できるっていうなら、いつでもこうしててやるよ」
「…………うん」
恵瑠はさらに顔を埋めた。俺はこいつが安心するまでこうしていた。
慈愛連立で起こった神官長派と教皇派の争い。それは二千年前から続く人類と天羽の戦いだった。
この戦いでどれだけの被害が出るのか分からない。これから先、どうなるかも分からない。
だけど、腕の中にいるこいつだけはなにがあっても守ってみせる。
俺は決意を新たに、恵瑠の背中に力を込めていった。
 きれいな装飾に宝石まで埋め込まれた、それだけで奇跡と呼べる神器の品。あらゆる叡智が秘められていることを見ただけで感じ取ってしまうほど、背後にいる天羽もそうだが、その天羽が持つ本はすさまじかった。
ペトロは片手を前に出すと倒れていた騎士たちが姿を消し一瞬で彼の背後に現れた。
「空間転移、やっぱり超越者級。神愛君、気を付けてください!」
「ああ、油断なんてしてねえよ」
この強大な神託物、それは信仰心が大きいっていうなによりの証拠だ。それだけ神化も強いし神に近い存在ってことだ。なにが出来ても不思議じゃない。
ペトロは上段の構えで剣を持ち、天羽は本を開いた。風に吹かれているように勢いよくページが捲られ、ある場所で止まると天羽は厳かな声で唱え始めた。
 それによりペテロの全身が白銀の光に包まれていく。
俺とペトロが睨み合う。俺は黄金、ペトロは白銀のオーラを発し大地を震わせる。すでに俺たちの戦意は神化によって質量すら持つほどに濃密なものになっていた。
 大気は風を巻き起こし、無言のにらみ合いの中周囲だけが暴れていく。普通なら立っているのも難しいくらいだ。
その最中、ついにペトロが動いた。
「ふん!」
一瞬姿が消えたかと思うとペトロは踏み込んでいた。前に出した右足が地面を砕く。そして神の力を宿した剣が振り下ろされた。
それは世界有数の信仰者が繰り出す至高の一撃。生涯を信仰に費やした、純真なる力。それはこの天下界にとって最良にして最強の力になる。
ペテロの攻撃に俺の王金調律も瞬時に動きを妨害する。黄金のオーラが壁となった。しかし剣は止まらない。怒涛の勢いで黄金を叩き潰してきた。
頭上から迫り来るペテロの剣、俺は思いっきり拳を振り上げた。
「うおおおお!」
剣と俺の右アッパーが衝突する。衝撃に地面はへこみ爆風が建物の壁に亀裂を入れた。
黄金と白銀がぶつかり合う。俺たちの波動が押し付け合うように、互いのオーラが激しい勢いで衝突している。
「ぐっ」
重い。妨害は働いているはずだが一向に力が弱まらない。むしろ増しているかのように俺を押し潰しにきている。まるで巨大な岩でも持ち上げようとするように、このままじゃ押し切られる!
「こんなところでッ」
だけど、俺は負けられない。今も俺の後ろには恵瑠がいる。
守ると誓った、絶対に!
「諦めてたまるかよぉお!」
俺は叫んだ。黄金の輝きが一際強くなる。
無限の強化が俺を強くする。その強化速度さえ。だんだん強くなっていくのが、爆発的な勢いで力が増していく!
「これは?」
「うをおおおおお!」
拳に黄金が集う。一点に力が収束されて、俺は剣は弾き返した。
「ぬう!」
俺が拳を振り抜いた余波でペトロの体が勢いよく押された。地面に足をついたまま引きずられていた。ペテロは表情を歪め、痛めたか剣を持っている方の肩に片手を当てていた。
 周囲はたった一撃をぶつけ合っただけなのにぼろぼろだ。壁には亀裂が入り地面にはヒビが入っている。
「これほどとはな」
ペトロが苦い表情で俺を見つめている。その後剣を鞘に戻すと神託物である天羽も消えていった。
 本当に戦うのは今の一撃だけのようだ。俺も王金調律を解いた。
戦いは終わった。しかしペテロは納得できていないのか、厳しい口調で聞いてくる。
「少年。いや、宮司神愛。聞かせろ、お前は真実を知ったはずだ。にも関わらず、なぜその娘を守る。再びこの時代で襲いかかってくる危険性がある、野放しには出来ん。なのになぜ助ける?」
表情は多少歪んでいるものの鋭い視線は変わらない。
かつて数々の街を燃やし、人々を恐怖させた審判の天羽、ウリエル。それが現代でも猛威を振るえば再び多くの街が壊滅するだろう。
だけど。
「ハッ、なぜ守る? なぜ助ける? 慈愛連立が聞いて呆れるぜ。人助けはてめえらの専売特許じゃなかったのかよ?」
「…………」
確かにそうかもしれない。こいつらの言っていることは分かるし、危険なものに蓋をしたいというのも理解できる。
でも、譲れないんだ。
「分からないって言うなら何度でも教えてやる」
たとえ世界で唯一のわがままだとしても。
「こいつは俺のダチだ、だから守る! 理由なんてそれだけだ!」
みんなが言うだろう、恵瑠は危険だと。捕まえるべきだと。人類の敵であるこいつを守ろうなんて言うやつなんて本来ならいるはずがない。
だけど、俺はレギュラーだ。あるはずがないもの。世界のすべてがこいつを見捨てても、俺だけはこいつを守り抜く。
「世界を危険に晒してもか?」
「知るか。うるせえ。関係ねえ! 俺は俺の守りたいもの守るんだよ。それに世界に対して恩も義理もないんでね」
「そうか」
ペトロは納得したのかそう言うと手を軽く横に振った。すると背後で倒れている騎士が一人また一人と消えていった。
「ならばお前は守るといい。我々は世界を守るために戦う。人類と天羽の戦い、どう転ぼうが熾烈な争いになろうだろう」
人類と天羽の戦い。
それは二千年前に起きた惨劇の再開だ。世界で最初に起きた奇跡が再び始まろうとしている。
「お前の存在は想定外だが、たった一つの誤差程度、この戦いはどうにもならんぞ、イレギュラー」
「舐めるなよ」
この戦い、もしかしたら世界規模にだってなるかもしれない。すでに国単位の戦いが始まっている。たった一人が足掻いたところでどうなるものじゃない。
普通なら。
でも、俺に諦める気なんてなかった。
「てめえらこそ、俺のダチに手を出しといてタダで済むと思うなよ」
「ふん」
俺は覚悟を宿した目でペトロを見つめていた。
そしてペトロの背後にいる騎士が全員別の場所へと消えていった。最後にペトロも消えていく。
残されたのは戦いの傷跡、そして俺と恵瑠の二人だけだった。
「ふう」
気が抜ける、どっと疲れた。
俺は背後に振り返る。そこには恵瑠がいた。心配そうに俺を見つめており近づいてくる。
「神愛君大丈夫ですか?」
「まあな、疲れたけど怪我はねえよ」
俺はやれやれと両肩を持ち上げる。
「それと、あいつらの言ってたことは気にすんな。言葉の最後に諸説ありますって付けとけ」
ペトロもそうだが他の騎士も恵瑠にひどいことを言っていた。居場所がないとか邪魔だとか。人間と仲良くなりたいと願っている恵瑠(える)にはショックだろう。
「神愛君……。ボク、ボクは……」
それはこいつの表情を見れば分かる。目を伏せた顔はどう見ても愉快じゃない。
「…………」
なんて声をかければいいのか、俺は少しだけ言葉を見失っていた。
その時だ、突然恵瑠が小走りで抱きついてきたのだ。
「恵瑠?」
「神愛君」
恵瑠(える)の小さな体が俺を抱き締める。顔を俺の腹に当て、小さな手が俺の服を握り締める。離さないように、力強く。
そして、恵瑠は言った。
「ずっと、一緒にいれくれますよね?」
その声は真剣だった。なにより不安そうだった。
かつての過ちに人からは嫌われ、償おうとして天羽からも追放された。
孤独の堕天羽。恵瑠はこの世界で唯一の異端者だ。
俺と、同じだったんだ。
「当然だろ」
「神愛君?」
俺は両腕を恵瑠の背中に回した。小さく震えているこいつを包んでやる。
「これで安心できるっていうなら、いつでもこうしててやるよ」
「…………うん」
恵瑠はさらに顔を埋めた。俺はこいつが安心するまでこうしていた。
慈愛連立で起こった神官長派と教皇派の争い。それは二千年前から続く人類と天羽の戦いだった。
この戦いでどれだけの被害が出るのか分からない。これから先、どうなるかも分からない。
だけど、腕の中にいるこいつだけはなにがあっても守ってみせる。
俺は決意を新たに、恵瑠の背中に力を込めていった。
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