天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

告白

 俺は街を走り回っていた。恵瑠(える)の姿を必死に探す。すると恵瑠えるをようやく見つけた。

「あ、おーい! 恵瑠える! 探したぞ!」

「神愛君?」

 俺は声をかけた。恵瑠えるは陰になっている場所にぽつんと立っていた。俺は駆け寄り恵瑠えるの前に立つ。

「ようやく見つけた。危ないだろうが一人になったら」

「ごめんね、神愛君。心配かけて」

「まったくだ、黙って行くんじゃねえよ。走るなら山だろ山」

「はは、そうだったね……」

 なぜかお馴染みとなっていた合言葉を持ち出し冗談っぽく言う。それで恵瑠えるも笑ってくれた。

 だがどこか暗い雰囲気は変わらない。

 それもそうか。恵瑠えるはさっきまで泣いていたし、辛いものを抱えていて俺から逃げ出したんだ。

 俺はちらりと恵瑠えるの横顔を盗み見る。

 やはり恵瑠えるの表情は重苦しい。それは俺が本当のことを知らないかららしい。それを聞いても答えてくれないし、俺にはどうすることも出来ない。

 くそ。どうすりゃいい。どうすればこの暗い雰囲気を変えられるんだ。

 無言の空気がなんだか気まずく感じる。

 そんな時だった。

「ねえ神愛君。この先に噴水がある広場があるんだけど、付いて来てくれないかな?」

「ん? ああ、別にいいけど……」

 恵瑠えるの方から話しかけてきたのだ。それも広場に行こうだなんて。

 恵瑠えるも気まずいと感じていたのだろうか? 

 いいや、恵瑠えるの表情はまだ固いままだ。むしろさっきよりも思い詰めているように見える。声だって明るい感じはしなかった。

 それでもせっかく恵瑠えるから誘ってくれたんだ、俺はどういうことか戸惑いながらも付いていくことにした。

 恵瑠えるの後を歩いていくと広場はすぐだった。建物に挟まれた小さな広場で夕日の光と影で半々に分かれている。恵瑠えるの言っていた通り中央には小さいながらも噴水が置いてあり水柱を上げていた。その光がオレンジ色の光を受けて輝いている。

 俺の前を恵瑠えるがまっすぐと進み、俺は広場を見渡しながら噴水へと近づいていった。

「誰もいねえな」

「うん。ここは町はずれで、もともと人が少ない上にそのほとんども今は誕生祭で中心部に行っているからね。ここにはボクと神愛君の二人だけ」

「そっか」

「うん……」

 恵瑠えるが立ち止まる。それで俺も立ち止まった。恵瑠えるは背中を向けて立っている。そのまま噴水を見つめていた。

 なんだろうか、ここに来たのはなにか理由があるからだと思ったのだが。しかし恵瑠えるはなかなか話さない。これではさっきまでの気まずい空気と同じだ。

 だけど、俺は静かに待った。恵瑠えるの心の準備が整うのを。

「ねえ、神愛君」

 それで、しばらくしてから恵瑠えるは話し出した。

「なにがあっても、受け入れられるって言える?」

「?」

 小首を傾げる。突然のことに戸惑いそうになるが、恵瑠えるの声は真剣だった。

「たとえなにがあっても、ボクたちは友達だって、そう言える?」

 それで恵瑠えるも本気なんだって分かった。恵瑠えるの質問は俺の覚悟を聞いている。

 だから、俺も真剣な声で答えた。

「ああ、言えるさ」

 躊躇うことなんかなにもない。恵瑠えるはなにかを隠している。それに思い悩んでいる。きっとそれはとても大変なことなんだろう。

 でも、それがなんだって俺が恵瑠えるから離れるなんてことはしない。

 恵瑠えるは、俺の友達だ。

 なにがあっても。

「……分かった」

 俺の覚悟が伝わったのか恵瑠えるは頷いた。そして俺に振り返る。

 白い髪が夕日に照らされている。可愛らしい瞳は俺をまっすぐ見つめていた。

「じゃあ、神愛君には教えてあげる」

 そう言って恵瑠えるは両手を合わせ胸の前に置いた。まるで祈るように目を閉じる。

 すると、突然体が浮かび始めたのだ。

恵瑠える?」

「これが――」

 恵瑠えるの体が浮かぶ。ゆっくりと三メートルほど持ち上がった。驚いた。でも、これからなにが起きるのか、それに気を取られてしまう。

 恵瑠えるは目を瞑ったままで、静かに宙に浮いていた。

 そして、覚悟を決めたように言うのだ。

「本当のボクなんだ」

 恵瑠えるは言った。あれほど躊躇っていたことを、怯えていたことを、ついに俺に明かしてくれた。

 これが恵瑠えるが隠してきたこと。

 恵瑠えるが怯えていた、真実だった。

 彼女の体に光が集まり包まれていく。学生服が白衣のドレスへと変わった。

 恵瑠えるのリボンが弾け髪が解ける。長い髪が広がり、さらに体が大きくなっていった。恵瑠えるの身に起きる変化は続き、そして――

 背中から、純白の羽が広がったのだ。

「――――」

 言葉を失った。

 そこには、天羽てんはがいた。

 空中に浮かぶのは八枚の羽を持つ大人の女性。背中まで届く白い髪が小さく靡き、背は俺と同じくらい。スッとした体つきに発達した大きな胸。
 
 白のワンピースのような服に身を包み、その女性は浮いていた。

 彼女が目を開ける。澄んだ青い瞳。それが俺をまっすぐに見つめていた。

「私の名前はウリエル。四大天羽てんはの一人にして、天羽てんはをやめた天羽てんは

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品