天下界の無信仰者(イレギュラー)
入浴
それから。
「はあ~、マジかよ」
俺は大浴場にある脱衣所で服を着替えていた。当然というかもちろん男湯のだ。服を脱ぎ腰にタオルを巻き付ける。
「せっかく楽しみにしていたラッキースケベチャンスゾーンがまさか俺を苦しめにくるとはな。どうなってんだクソ、青春の一つを無駄にしたぞ」
俺は憂鬱な気持ちのまま浴場の扉を開ける。
「おお」
でかい。
色は全体的に白く、装飾が施された浴場には巨大な浴槽があった。二十人くらいは入れるんじゃないか? そばには女性の像なんかあったり、持ち上げている壺からお湯が流れていた。しかも今は俺しかいない。
「これだけでかい風呂を一人占めって、これはこれで贅沢って感じだよな」
とりあえず体をかんたんに洗ってから風呂に入る。いい温度だ、肩まで浸かると全身から疲れが抜けていくように気持ちがいい。
「はあ~……いい~……」
なんかホッとする。嫌なことも忘れそうだ。
と、俺がお湯に浸かっている時だった。
壁の向こう側からぼんやりと声が聞こえてきたのだ。
「へえ、大きいじゃない」
「そうですね、立派な浴場だと思います」
「やったー、お風呂お風呂~」
「私たち以外は誰もいないのね」
この声はミルフィアたちか? しかし壁越しだからかうまく聞き取れん。
俺はすぐさま壁に近づき耳を当てた。
おいおいおい、これはチャンス到来なんじゃねえのか? エロい話しろエロい話! 俺は念じるようにして壁に耳を押し付けていた。
*
一方そのころ。
ミルフィア加豪、恵瑠と天和は隣のお風呂に入っていた。
女湯には彼女たち以外だれもいない。まさに貸切状態だ。
「いえーい!」
大きなお風呂に興奮マックスの恵瑠が走って行く。幼児体型ということもあり傍から見れば小学生だ。タオルで巻かれた体も平面的で起伏はない。
断じて!
「恵瑠、走っては危険です。はしゃぎ過ぎですよ」
「楽しそうね」
そんな恵瑠をミルフィアが注意し天和が呟いていた。二人はスレンダーな体で控え目な胸のふくらみがタオルを押し上げている。カップは二人ともBくらいか。年相応の女の子らしい体だ。
そんな三人と比べ、もっとも発育がいいのが、
「ま、サン・ジアイ大聖堂でお風呂なんて慈愛連立の信者なら興奮するんじゃない? 少しは大目に見てあげたらどう、ミルフィア」
加豪だった。
高身長の体はそれだけでモデル体型だ。加えて胸まで大きい。制服の上からでも見て取れた胸のふくらみがタオル一枚となっていることでよけいに大きく見える。
「まあ、それはそうなのですが……」
「真面目なのがミルフィアのいいところだと思うけどさ、こんな大きなお風呂に入るんだから少しは気をほぐしなさいよ。さ、早く入りましょう」
「ええ」
「一番乗りだー」
体を洗ってから恵瑠がタオルを脱ぎ捨てお風呂に入る。続いて三人もタオルを脱いでから入った。
「それにしても大きなお風呂よね、まるでプールみたい」
「そうですね。それに内装も芸術的で癒されます」
「ボク泳いじゃうぞ~」
「恵瑠、行儀が悪いですよ」
「恵瑠ー、あんまりミルフィアを怒らせちゃダメよ」
「はーい」
「……私はどっちでもいいけど」
四人ともそれぞれお風呂でリフレッシュ。はめを外しすぎた時もあったがみな楽しんでいた。
右から恵瑠、ミルフィア、加豪、天和と並んで静かにお風呂に浸かる。そこで恵瑠が気づいたかのように加豪に近づいてきた。
「へえ~」
「ちょ、なによ恵瑠。あんまりジロジロ見ないでよ」
恵瑠は加豪の隣に座るとまじまじと加豪の胸を見ていた。それで加豪も両腕で自分の胸を隠す。
「加豪さんって胸大きいですよね、牛乳ですか?」
「またそれ?」
恵瑠の中では大きくなるイコール牛乳で固定されたらしい。
「自然とこうなっただけよ。特になにもしてないわ」
「へえ~」
まるで羨むように見てくる恵瑠に加豪はあっけらかんに言う。
二人がそんなやり取りをしていると、離れた場所にいるミルフィアが無言で二人を見つめていた。そして視線を加豪から自分の胸へと向けてみる。触ってみる。
「くっ」
ミルフィアは拳を作っていた。
「それに胸が大きいと動きづらくて嫌なのよね~」
加豪は腕を回し肩が凝るジェスチャーをする。
「…………」
ミルフィアは加豪をじーと見つめていた。
「へえ~、自然とそうなるんですか」
恵瑠は加豪(かごう)の言うことを聞くと今度はミルフィアのところに近づいてきた。
「ねえねえミルフィアさん、やっぱり女の子は胸が大きい方がいいんですかね?」
恵瑠がミルフィアを見上げてくる。それでミルフィアは答えるが、なぜか姿勢を正しまるで教師のようにまっすぐ座っていた。
「恵瑠、そんなことはありません。女性の魅力は胸ではなく中身、優しさですッ」
なんか語り始めた。
「いいですか、そもそも胸の大きさとは個性であり、大きいことが絶対的な価値基準ではないのです。断じて! 個性に良し悪しはありません。それを大きいというだけで賛美するのは間違いです。断じて! 大きい人もいれば小さい人もいる。それでいいのです。それがいいのです。分かりますね、恵瑠?」
やたらしたり顔で話してくるミルフィア。
「でもミルフィアさんは普通か小さいですよね?」
「…………」
恵瑠が見上げてくる。
ミルフィアは数秒固まっていたが、「んん」と咳払いをすると再び姿勢を正した。
「いいですか、胸の大きさは関係ないんです。分かりますね?」
「でも小さいですよね?」
「分かりますね?」
「小さいですよね?」
「分かりますね?」
「小さいですよね?」
「もういいです……」
ミルフィアは俯いた。鬱向いた。
「ええ、そうです。私の胸は『今は』『まだ』ちいさいです。ですがきっと、主はこの控え目な胸を好いてくれるはずです。私はそれでいいのです」
「でも神愛君が巨乳好きだったらどうするんです?」
「そんなことはありません。そんなことはないはずです、きっと、たぶん……」
ミルフィアは弱気な声で自分を励ましていた。
「ねえねえミルフィアさん」
「恵瑠、お願いですから今はそっとしておいてください」
ミルフィアはどんよりした気分だ。恵瑠はそっとしておくことにして天和に近づいていく。
それで天和にも同じことを聞いてみた。
「天和さん天和さん、天和さんは胸が大きい方がいいと思いますか?」
「どうでもいい」
天和はお湯に浸かりながら目を瞑っている。
「え、そうなんですか?」
てっきり大きい方がいいと思っていた恵瑠が意外そうに驚いている。
「胸が大きいからって得られるものなんてなにもないし。もしあってもそれは大切なものじゃない、他の胸にすぐ消えていくわ」
天和は抑揚のない声でそう言った。
その時である。
俯いていたミルフィアが顔を上げると、立ち上がり近寄ってきた。そして天和の隣にスッと座る。
「胸の大きさなんてどうでもいいことだわ」
「そうです(便乗)!」
「はあ~、マジかよ」
俺は大浴場にある脱衣所で服を着替えていた。当然というかもちろん男湯のだ。服を脱ぎ腰にタオルを巻き付ける。
「せっかく楽しみにしていたラッキースケベチャンスゾーンがまさか俺を苦しめにくるとはな。どうなってんだクソ、青春の一つを無駄にしたぞ」
俺は憂鬱な気持ちのまま浴場の扉を開ける。
「おお」
でかい。
色は全体的に白く、装飾が施された浴場には巨大な浴槽があった。二十人くらいは入れるんじゃないか? そばには女性の像なんかあったり、持ち上げている壺からお湯が流れていた。しかも今は俺しかいない。
「これだけでかい風呂を一人占めって、これはこれで贅沢って感じだよな」
とりあえず体をかんたんに洗ってから風呂に入る。いい温度だ、肩まで浸かると全身から疲れが抜けていくように気持ちがいい。
「はあ~……いい~……」
なんかホッとする。嫌なことも忘れそうだ。
と、俺がお湯に浸かっている時だった。
壁の向こう側からぼんやりと声が聞こえてきたのだ。
「へえ、大きいじゃない」
「そうですね、立派な浴場だと思います」
「やったー、お風呂お風呂~」
「私たち以外は誰もいないのね」
この声はミルフィアたちか? しかし壁越しだからかうまく聞き取れん。
俺はすぐさま壁に近づき耳を当てた。
おいおいおい、これはチャンス到来なんじゃねえのか? エロい話しろエロい話! 俺は念じるようにして壁に耳を押し付けていた。
*
一方そのころ。
ミルフィア加豪、恵瑠と天和は隣のお風呂に入っていた。
女湯には彼女たち以外だれもいない。まさに貸切状態だ。
「いえーい!」
大きなお風呂に興奮マックスの恵瑠が走って行く。幼児体型ということもあり傍から見れば小学生だ。タオルで巻かれた体も平面的で起伏はない。
断じて!
「恵瑠、走っては危険です。はしゃぎ過ぎですよ」
「楽しそうね」
そんな恵瑠をミルフィアが注意し天和が呟いていた。二人はスレンダーな体で控え目な胸のふくらみがタオルを押し上げている。カップは二人ともBくらいか。年相応の女の子らしい体だ。
そんな三人と比べ、もっとも発育がいいのが、
「ま、サン・ジアイ大聖堂でお風呂なんて慈愛連立の信者なら興奮するんじゃない? 少しは大目に見てあげたらどう、ミルフィア」
加豪だった。
高身長の体はそれだけでモデル体型だ。加えて胸まで大きい。制服の上からでも見て取れた胸のふくらみがタオル一枚となっていることでよけいに大きく見える。
「まあ、それはそうなのですが……」
「真面目なのがミルフィアのいいところだと思うけどさ、こんな大きなお風呂に入るんだから少しは気をほぐしなさいよ。さ、早く入りましょう」
「ええ」
「一番乗りだー」
体を洗ってから恵瑠がタオルを脱ぎ捨てお風呂に入る。続いて三人もタオルを脱いでから入った。
「それにしても大きなお風呂よね、まるでプールみたい」
「そうですね。それに内装も芸術的で癒されます」
「ボク泳いじゃうぞ~」
「恵瑠、行儀が悪いですよ」
「恵瑠ー、あんまりミルフィアを怒らせちゃダメよ」
「はーい」
「……私はどっちでもいいけど」
四人ともそれぞれお風呂でリフレッシュ。はめを外しすぎた時もあったがみな楽しんでいた。
右から恵瑠、ミルフィア、加豪、天和と並んで静かにお風呂に浸かる。そこで恵瑠が気づいたかのように加豪に近づいてきた。
「へえ~」
「ちょ、なによ恵瑠。あんまりジロジロ見ないでよ」
恵瑠は加豪の隣に座るとまじまじと加豪の胸を見ていた。それで加豪も両腕で自分の胸を隠す。
「加豪さんって胸大きいですよね、牛乳ですか?」
「またそれ?」
恵瑠の中では大きくなるイコール牛乳で固定されたらしい。
「自然とこうなっただけよ。特になにもしてないわ」
「へえ~」
まるで羨むように見てくる恵瑠に加豪はあっけらかんに言う。
二人がそんなやり取りをしていると、離れた場所にいるミルフィアが無言で二人を見つめていた。そして視線を加豪から自分の胸へと向けてみる。触ってみる。
「くっ」
ミルフィアは拳を作っていた。
「それに胸が大きいと動きづらくて嫌なのよね~」
加豪は腕を回し肩が凝るジェスチャーをする。
「…………」
ミルフィアは加豪をじーと見つめていた。
「へえ~、自然とそうなるんですか」
恵瑠は加豪(かごう)の言うことを聞くと今度はミルフィアのところに近づいてきた。
「ねえねえミルフィアさん、やっぱり女の子は胸が大きい方がいいんですかね?」
恵瑠がミルフィアを見上げてくる。それでミルフィアは答えるが、なぜか姿勢を正しまるで教師のようにまっすぐ座っていた。
「恵瑠、そんなことはありません。女性の魅力は胸ではなく中身、優しさですッ」
なんか語り始めた。
「いいですか、そもそも胸の大きさとは個性であり、大きいことが絶対的な価値基準ではないのです。断じて! 個性に良し悪しはありません。それを大きいというだけで賛美するのは間違いです。断じて! 大きい人もいれば小さい人もいる。それでいいのです。それがいいのです。分かりますね、恵瑠?」
やたらしたり顔で話してくるミルフィア。
「でもミルフィアさんは普通か小さいですよね?」
「…………」
恵瑠が見上げてくる。
ミルフィアは数秒固まっていたが、「んん」と咳払いをすると再び姿勢を正した。
「いいですか、胸の大きさは関係ないんです。分かりますね?」
「でも小さいですよね?」
「分かりますね?」
「小さいですよね?」
「分かりますね?」
「小さいですよね?」
「もういいです……」
ミルフィアは俯いた。鬱向いた。
「ええ、そうです。私の胸は『今は』『まだ』ちいさいです。ですがきっと、主はこの控え目な胸を好いてくれるはずです。私はそれでいいのです」
「でも神愛君が巨乳好きだったらどうするんです?」
「そんなことはありません。そんなことはないはずです、きっと、たぶん……」
ミルフィアは弱気な声で自分を励ましていた。
「ねえねえミルフィアさん」
「恵瑠、お願いですから今はそっとしておいてください」
ミルフィアはどんよりした気分だ。恵瑠はそっとしておくことにして天和に近づいていく。
それで天和にも同じことを聞いてみた。
「天和さん天和さん、天和さんは胸が大きい方がいいと思いますか?」
「どうでもいい」
天和はお湯に浸かりながら目を瞑っている。
「え、そうなんですか?」
てっきり大きい方がいいと思っていた恵瑠が意外そうに驚いている。
「胸が大きいからって得られるものなんてなにもないし。もしあってもそれは大切なものじゃない、他の胸にすぐ消えていくわ」
天和は抑揚のない声でそう言った。
その時である。
俯いていたミルフィアが顔を上げると、立ち上がり近寄ってきた。そして天和の隣にスッと座る。
「胸の大きさなんてどうでもいいことだわ」
「そうです(便乗)!」
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