勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

狂人の最期

 真っ赤に染まった視界が直ぐにクリアなっていく。
 してやられたと失態を口にしようとしたのだが、予想外の結果に目を見開いた。
 目の前に広がるのは下卑た笑みを浮かべている狂人。
 だが、その表情はまるで時間が止まっているかのようにピクリとも動いていなかった。
 周りの冒険者や受付嬢も凍ったように固まっている。

『すまん、また死んでしまったな。発動が遅れた』

「ああ、やっぱりポチの仕業だったか」

 こんな異常な状態をつくることが出来るのはポチぐらいしか――いや、実際見たことはないが、
 知り合いに4人ぐらいしかいない。そして今一番身近にいるのはポチだけだ。
 時を止めると言う世界の理から外れた技を使った様だ。
 少し発動が遅れてしまったらしく一度死んでしまった為、一瞬視界が真っ赤に染まってしまったのだろう。
 その考えに至った瞬間、焦りが生じ急いで周りを見渡す。

「……無事か」

 周りの人々には被害はいってなかった様で無事だ。
 この事からこの狂人のスキルは指定が出来ると言う事が分かった。
 発動者を中心に波の様に広がっていくと言う事も一瞬頭をよぎったのだが、その可能性は低い。
 後者だとこの狂人と屋根で民間人を破裂させた時、まっさきに俺とポチがやらていたはずだ。

『さて、仕組みも聞いた訳だしもう生かしておく必要はないだろ?
 こんなゴミに二回も殺されたんだ、そろそろ我慢の限界だぞ』

「確かに聞いたが、まだ色々と聞きたい事が沢山あるんだが……」

 新魔王軍とは一体なんなのか。破壊の魔王という事は他にも魔王が居ることを指している。
 そいつらの情報も集めたいと思っていたのだが。
 まぁ、でも確かに二回も殺されたという事に関して怒りを覚えている。

『別に此奴から聞き出さなくても良いだろ、
 他にも魔王とやらが居るのならば此奴が死ねば何かしらのアクションを起こすだろう
 その時に聞きだせばよい――此奴は駄目だ、我とソラを殺したんだからな。
 絶対に許さないっ』

 怒りを露にし時が止まっている狂人の片耳を鋭い爪で切り落とす。
 時が止まっているのにも関わらずそこからは鮮血が語ぼれ出している。
 確かにポチが言う様に他の魔王を誘き出すには良い餌になるかも知れない。

『餌か、良い事を思いついたぞ。こいつの記憶の中に居る関りが深い者を探す』

「ほほお、なるほど、なかなか良い趣味してるな」

 ポチの考えはこうだ。まず精霊の力とやらを使い狂人の記憶に焼き付いている
 関係の深い者たちを探し、そいつらの脳内にこいつの苦しむ声を送ると言うものだ。
 精霊って本当になんでもできるな、凄すぎだろ。羨ましい。
 苦しむ声を出させるには当然此奴の時止めは解除しなくてはいけないし、
 声を受信する側の時も解除しなくてはいけない。
 中々高度な事だと思うのだが、それをしれっとやってのけるのがポチさんだ。

『把握した。この国以外の時状態は通常に戻してある。
 後は此奴をたっぷりと痛み付けて殺すだけだ。ただ、殺されるかも知れないから
 我とソラに少しの間だけ外部の攻撃を無力化する結果を張った』

「本当にポチなんでも出来るよな……凄すぎ」

『これぐらい簡単な事だ。時を重ねればきっとソラも出来るようになるぞ』

「……」

 ポチが本気で言っている事が伝わってきて思わず苦笑する。
 例え何百年生きようが流石にポチのようにはなれないと思う。
 本気で目指すならまず精霊を食べなくてはいけないからな。

『解除するぞ、一応逃げられないように両足を潰しておく』

「どうぞ」

 今回は俺は一切手を出さないと決めている。
 その理由は簡単だ。ポチの怒りをしっかりと此処で発散させておかなければ
 後々被害を被るのは此方なのだ。此処は思う存分に発散してもらおう。
 俺も此奴に対する怒りの感情はあるが、ポチ程ではない。

『我に全て任せるとはな、どうなっても知らないぞ』

「やっちゃえポチ!」

『ふっ!』

 ポチの後ろ脚に力が込められるのを感じ、次の瞬間、
 グチャグチャと何かが潰れる音とバキバキと言う音が聞こえてきた。
 聞くだけで震えあがってしまう程の生々しい音だった。
 そして――

「あ、れぇ?え?どうなって――あぁああああぁ痛いですぅうううあああああああっ!!」

 時間が流れ始めた狂人は目を白黒させ何が起こっているのか把握できずに
 激痛に襲われた様で盛大に叫び声をあげた。ポチに抑えれていなければ
 今頃痛みのあまりのたうちまわっていたことだろう。

『次』

 それからポチは無慈悲にジワジワと痛めつけて行った。
 痛み付けると言う表現よりも体の一部を徐々に潰して行ったと表現した方が正しい。
 最初はうるさかった叫び声は後半になるにつれ小さくなっていき、
 最期には「死に、たく……ないです」と言葉を漏らして命を散らした。
 最後の最期には素直になるなら最初から悪さを働かなければ良かったのだ。

 狂人の命が散った冒険者ギルドは血のむせ返るような臭いと沈黙だけがあった。

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コメント

  • ノベルバユーザー220907

    更新楽しみにしてます!大変そうですが頑張ってください!

    0
  • たく

    更新よろしくお願いします

    2
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