勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

二度目

 突き進んでも視界に映りこむのは血みどろの現実。まだ狂人の手が行き届いていない場所は
 武器を手に勇敢に戦う民間人と冒険者で黒装束の相手をしている。
 黒装束だけを攻撃する様に相棒に言い聞かせて止まることなく進み続ける。
 周囲の目が此方に向くがその視線に敵意は含まれてはいなかった。街中で獣が暴れている姿をみたら
 普通恐怖や敵意を抱くが、今はそんな感情を抱くほどの余裕はなく、誰であれ救世主に見えている。

『やつの気配が多すぎる……』 

 ボソリと零すように言葉が漏れた。先ほどからポチがイライラとしている理由の一つでもある。
 気味の悪いことにこの周囲には無数のあの狂人ブローメド=ジャスゼッタイの気配があるのだ。
 端から端までビッシリとだ。下にも上にも。気配を探れば直ぐに奴の下に辿る付けると思っていたのだが、
 そう簡単にはいかないようだ。周りの残像の様な気配に邪魔され本体に辿り続けずいる。

 ならばせめて視界の良い場所へと考えたポチは石煉瓦造りの屋根に飛び跳ね上から探すことにした。
 改めて思うのだが、思考が伝わってくるというのはなかなか便利なものだ。
 
「一応冒険者ギルドに行って情報収集でもしてみるか?
 まぁ、それどころではないと思うのだが」

 このまま闇雲に探してもキリがない。
 ならば一番情報が集まっている可能性が多い冒険者ギルドに行くのが得策だろう。
 それに腕の立つもの立ちがいる場所を求めあの狂人がノソノソとやってきているかもしれない。
 行く価値はあると思う。

『そうだな、行ってみるとするか』

 目的地が決まれば進む足も自然と早くなる。屋根と部屋を飛び跳ね歩いてきた道を戻り、
 冒険者ギルドの中に転がり込む。

「おやおやァ?何事かと思えば貴方たちでしたかァ……ぁ?
 さっき破壊したハズですが?なんでいきているのでしょう?
 おかしいですねェおかしいですねェ!!良いですゥ!良いですよォ
 これで終わりじゃァ美しいだけで楽しくはなかったところですからねェ!!」

 鉄臭さが鼻を刺激する。血の海に立つ真っ赤に染まった黒装束に身を包む狂人の姿。
 その周囲には無残にも体に穴が開き倒れこんでいる冒険者たち。
 腕の立つ冒険者たちだったのだろうか、周りにいる冒険者たちの顔は歪み怯え切っている。
 そして、俺とポチが転がり込んできた瞬間、それは狂人が腰を曲げる寸前の時だった。
 我ながらヒーローの様な登場だと思う。

 周囲を見渡し受付嬢の無事を確認する。流石に顔見知りの死体を見るのは心が痛む。
  
「さぁ、さァ!私を楽しませてくださいねェ!!貴方はとても美しく壊れていきそうですゥ……
 ハァハァ、此処に居る方々は貴方の後にしましょうねェ。楽しいことは先にやりたいのですゥ!!
 あああァアア、想像するだけで興奮が止まりませんンン!」

「本当に狂ってる」

「えェ、そうですね、そうでしょうねェ!!貴方にも美しいと思うことはあるでしょゥゥ?
 それが私の場合がかなり特殊なんですねェ……」

「……」

 思わず言葉を失ってしまう。彼は自分で狂っているという自覚はあるのだ。
 狂人だとわかっているのにも関わらずその悪行に手を染める。
 無関係の人々を苦しめ、美を求めるその姿は非常に腹立たしい。
 まだ話が成立するだけマシなのだろうが、危険であることには変わりない。

『そろそろ良いか』

 先ほどまで抑えていた彼に対する殺意が一気に解放され冒険者ギルドを飲み込んでいく。
 空間が歪むほど強烈な殺気、加護で守られていなければきっと俺も危なかっただろう。
 周囲の冒険者たちが心臓を押さえ彼方此方から水分を漏らし泡を吹き倒れこむ。
 
「ぉぉおお……ァ、な、んて、なん、ていう……あぁ、美し――」

 ポチの本気の殺気に耐えている狂人の言葉を遮るようにして飛び掛かり、
 鋭い爪と爪の間に首を挟めそのまま地面に押し付ける。
 少しでも力を込めれば殺せるという脅しかける。

「お前のあの力は何だ」

 ポチは俺の代わりに体となり、俺はポチの代わりに口となり行動をする。
 現状、これが一番効率が良く戦闘面でも優れている。

「ひえェ、凶暴な獣ですねェ!全く躾が出来てませんよォ!イケナイナイケナイ――うっ」

 ポチの脅しが全く聞いていないようで相変わらずの口調でペラペラと口を動かす。
 それに腹を果てたポチが更に力を籠め、爪が食い込み出血する。
 この脅しが本気だと分かったのか少し悩むような表情をして口を開ける。

「簡単なことですよォ、私は倒した分だけ分身が作れるんですゥ。
 その分身に透明化のスキルを掛けて攻撃スキルもセットするわけですョオ、
 あとは簡単合図に合わせてドーンッ!!ねェ簡単でしょうゥ!!」

 思っていた以上に簡単に種明かしをしてきた。この内容を信じるかどうかはまだ決められないが、
 真実だとしたら相当胸糞悪いことだ。この国を覆いつくすほどの気配。
 彼の説明だとそれらは透明化している分身。その分身たちは殺した分だけ作ることが可能。
 つまり、少なくともこの狂人はこの国を覆い隠すほどの命を刈り取っているということだ。

 本当にふざけた野郎だ。

「それは本当か?」

「えェ、本当ですともォ。貴方と戦うのは楽しそうですがァ、恐らく私は勝てないでしょうからねェ、
 この獣の動き全く分かりませんでしたァ……なので今回はあきらめましょうゥ
 この状況は非常に不味い少しでも期限を取った方が良いと判断したましたァ……」

 性格はどうしようもない糞だが、合理的な判断はしっかりと出来る様だ。
 
「私はまだ死にたくないのでねェ、此処で去るとしましょうかァ」

「逃がすと思うのか?」

「えェ、合図というのは別に言葉でも良いんですよォ?」

「――っ!?」

 男の下卑た笑みが頭に焼き付く。しまったと思った時にはすでに遅く、
 次の瞬間、再び俺の目の前真っ赤に染まった――

「勇者になれなかった俺は異世界で」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

  • 最強マン

    ソラって魔法耐性があるから精神汚染は効かないんじゃなかったっけ

    0
  • おうる

    待ってました!!

    1
コメントを書く