勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

悪意

 部屋を出て向かったのは再び冒険者ギルド。
 今回の目的は情報収集ではなく、例の依頼――迷宮の依頼の件だ。
 依頼自体は完了しているものの、受付嬢が確認を済ませてからまた後で来るように、と言われていた為だ。
 【迷宮の行方不明者捜索。報酬全て】非常に興味がそそられる報酬内容だ。
 全てとは一体なにを指しているのか。心が躍る。

 冒険者ギルドに足を踏み入れ、人型のポチと一緒にまっすぐ受付嬢の下に向かう。
 
「どうも」

「昨日は大変失礼いたしました。確かに行方不明者多数が発見されました。
 私もこの目で見たので間違いはありません。一体何があったのか詳しく知りたいところですが、
 そのことは行方不明者である彼らの方が良く知っていることでしょう――此方が今回の報酬です」

 ペコリと頭を下げて謝る受付嬢、別に謝ることはないのにと思いつつ、
 そのまま話を聞いていると無事確認できたらしく報酬の話になった。
 事情をきかれるとばかり思っていたのだが、面倒なことはすべて行方不明者たちがやってくれるらしい。
 非常に助かる。最後に受付嬢は一枚の紙を差し出してきた。
 
 何か今日の受付嬢さんは物凄く暗い顔をしている様な気がする。
 いやなことでもあったのだろうか。

「ん~?」

 その紙にはズラズラと文字が並んでおり、最後には見覚えのある名前と拇印が押されていた。
 簡単に言うと、今回の依頼を達成してくれた方に私のすべてを捧げる byレディア
 と書かれていた。正直に言おう、くそいらねぇし、がっかりだ。
 絶望感を現しつつも受け取らないというのもアレなので少し格好つけることにした。
 好感度を上げておくことによって後々の自分に何かしらの形で帰ってくるかもしれない。

「それじゃあ、レディアにこう伝えておいて、
 『この権利を使って君出す指示は、お父さんと共に毎日を大切にして生きること』
 ってね、おねがいね~」

「は!?はぁ……」

 少しだけ表情が戻った気がするが、その場に長居するわけにはいない。
 断られたら非常に面倒なことになるからだ。急いで冒険者ギルドから飛び出し、
 ある程度距離を取って裏路地に入り込む。何故人目のつかない薄暗い場所に行くのか。
 その理由は簡単だ。このどうしようもないイライラをぶつけるためだ。

「あああああああ!なんだよあの糞みたいな報酬!!!
 な~にが私の全てを捧げるだよ!いらんわ!!」

「そうだな、確かにいらないな、食料にもならん――少し不味いことになった」

 裏路地で愚痴をこぼし、ポチに共感を得ようとしていたのだが、
 ポチが不吉な言葉を吐くと同時に周りの雰囲気が一気に豹変をするのを身をもって感じた。
 人の姿から本来の獣の姿に戻ったポチは脱げた衣服を急いで飲み込み、
 無言で頭だけを動かし上に乗れと合図を出してきた。
 有無言わずに無駄な動きを一切せずにポチに跨る。 

 異様な雰囲気だ。先ほどまで裏路地に居ても聞こえてきた商店街の賑やかな音が消えている。
 一体何が起こっているというのか、何が起こると言うのだろうか。
 呼吸の音がやけに大きく聞こえる。久々の痺れるような空気に思わず緊張してしまい、
 それを紛らわせる為に力を抜き、完全にポチに委ねた――その時だった。

「「きゃああああああ!」」

 その静寂を破ったのは女性か、男性か、分からないが大勢の人物の悲痛の叫び声だった。
 そしてそれが合図の様に次々と悲鳴が共鳴していく。

『飛ぶ、一応魔力をつなげて置くがよい』

 魔力を繋げる。即ち騎乗を使えということだ。
 言われた通りにポチと魔力を繋げる。これでポチとは一心同体。
 何があっても振り落とされることはないだろう。
 ポチが地面を力強く蹴り上げると軽々と体は宙を舞い、近くの屋根にふわりと着地する。
 
「――っ」

 屋根から見た地上はまさに戦地だった。それも絶句するほどの――
 黒装束に身を包み不気味な仮面をしている謎の集団が次々と民間人に切りかかっているのだ。
 中には武器を手に勇敢に戦う者の姿も見えたがそれは数の暴力によって沈められていく。
 
 何が、起こっている。

 裏路地に入るときは確かに普通の商店街だった。
 それがほんの数分で何故こんなことになっているのだ。
 一体あいつらは何者で何のために――

『なにか来るぞ』

 時空が歪み、巨大な口の中から黒装束が現れた。
 唯一他の奴らと違う点は仮面で顔を隠していない点だ。
 真っ赤な髪にメラメラと燃え盛る炎の様な瞳、暴虐的なまでに大きな口。
 
「おやぁオヤァ!こんな所でコンニチハ!なんて奇遇ですねェ!!
 どうです、ドウデスカァ!この最高の舞台、ああ、あああああ、なんて心地の良い悲鳴、
 もっともっと泣き叫んでくださいよォ!」

 突然現れたソレは【悪意】そのものだった。
 本当に心の底からこの惨状を楽しんでいる様な狂人だ。
 こいつは明らかに異常で危険だ。近くにいるだけでおかしくなりそうなほどだ。

「なーに怖い顔しているんですゥ?こんなに素晴らしいというのに!
 一体なにが不満なんですかァ!ああ、美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい!!
 もっともっと壊せ!もっと殺せ!もっと泣き叫べ!もっともっともっともっと――!!!」

「お前は何なんだ?」

「ああ、あァ、申し遅れました、私は『新魔王軍』破壊の魔王 ブローメド=ジャスゼッタイ
 この世界を破壊に導く存在です――以後お見知りおきよ……ってどうせみんな死ぬんですけどぉ!
 サン――ハイ!!!!!!」

 狂人がそう言ってお辞儀の様な行動をすると悲鳴がプツリと止まった。
 人が――民間人がまるで膨れ上がった風船のようにパァンと次々と破裂していくのが見えた。 

「お前――っ!!」

 突如現れた悪意の塊、新魔王軍との戦闘が幕を開けた――

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