勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

ぶどうジュース

 陸に上げ、命を絶ったオーンの魔石と二本の角を剥ぎ取り、今回の任務の大半は終わった。
 後はこれらを冒険者ギルドに持って行って依頼を完了するだけだ。
 苦戦を強いられたと言うわけではないが、珍しく俺はやり切ったという顔をしていた。
 あの気分が高揚した中、水中にいる魔物を地上に上げた時はとても気分が良かった。
 
 水中の中なら天敵は居ない。そう思い込んでいたであろうオーンに奇襲を掛け、
 まずは動きを鈍らせるために水中でザクザクと切り裂き、弱ったところで陸に上げてやった。
 自分は強いと思い込んでいる奴をボコボコにするのは気分が良い。
 るんるんと戦利品を持って冒険者ギルドに向かう。
 スキル等は全て解除しているが、それでも気分が高まっており身体が軽かった。
 やはり、全力で戦うというのは身体にも良いし、良い気分転換にもなる。

「依頼完了したよ」

 何時もの受付嬢さんは何やら別の冒険者と取り込み中の様なので、
 隣の受付嬢に依頼完了の手続きをしてもらうことにした。
 何処の受付嬢も本当に見た目は良い人ばかりだ。
 心の中ではどんなことを考えているのか全く分からないのが怖いところだ。

 オーンの角と魔石をお金に換えてもらい、報酬金と合わせて大体金貨が二つだ。
 魔物一体でこれだけの金額が貰えるなんて楽な仕事だ。
 違う受付嬢ではあるが、先の件の事はどうなっているのかと尋ねると、
 特に慌てる様子もなく、冷静にまだ確認できていないということを伝えてきた。

 それを聞いた俺は心の中では遅いなぁと愚痴を言っていたが、
 当然、そんな事口にする訳はなく、大人しくまた明日来ますねと伝え一度宿に戻った。

「ぷは~良いベッドだぁ」

 部屋に入りまっすぐにベッドにダイブした。
 ふかふかのベッドが身体を包み込みその場から逃がさんばかりに眠気を送り込んでくる。
 
「おやすみぃ……」

 特にやることは無いため、今日はこのまま睡魔に呑まれても問題は無い。
 夕飯前に起きればよい。そんな考えて俺は眠りに落ちて行った。
 
・・・・

 軽い眠りから覚めたのだが、まだポチは気持ちよさそうに夢の中に居るので
 夕飯は少し遅めにしようと考え、別の行動に出た。
 一応少しだけ外に出るという旨を手紙に残して宿を出て冒険者ギルドに向かった。
 決して依頼を受ける訳ではない。掲示板の前には行かずまっすぐ酒場の方に向かう。

 何処の冒険者ギルドでも同じようなものだ。時間問わずわいわいと盛り上がっている。
 暴力事件が滅多に起きないのは冒険者だからこそなのだろう。
 子どもが酒場に足を踏み入れたというのに特に声を掛けられる事は無く
 カウンターに辿り着き、少し大きめの椅子に上る。

「おう、珍しい客だな」

「美味しいジュースちょうだい」
 
 酒場のマスターにジュースを頼む。どんな種類のジュースがあるのか分からない為、
 おいしいジュースにしておいた。流石にお酒は頼まない。
 中身は成人していても見た目は子供であり、たまに精神が子供側に引っ張られることがあるのだから
 お酒なんか飲んだりしたら大変なことになりそうだ。
 身長が伸びなくなったりするのは勘弁してほしい。
 只でさえ伸びにくくなっているのだから。

「ちょっと待ってな」

 子供相手だからと言って相手にされないなんてことは無く、
 愛想のよい笑顔を浮かべてジュースを作ってくれている。
 
「ほら、出来たぞ。一銅貨だ」

「はい、ありがと」

 丁度ポケットに入っていた一銅貨を手渡しジュースを受け取る。
 紫色をして粒々とした果実の様なモノが入っており匂いはとても甘くブドウに近い感じだ。
 一口、流し込んでみると口の中にブドウの香りが――あっ、これぶどうだ。

「どうだ?」

「おいしい!」

「そうかそうか、良かった。此処で酒以外頼むやつ滅多にいないからよ、
 ちょっと試してみたかったんだ。ありがとな」

「ん」

 酒場には当然、酒を飲みに来る目的の人が集まる場所だ。
 そこでジュースを頼むのは酒を飲みすぎたり酒が苦手だが付き添いで来た人ぐらいだろう。
 それにしても試しでこれを飲まされていたのか……美味しいから良いんだけど……ん~

「ねぇ」

「なんだ?」

 ぶどうジュースを片手にしながらここに来た本来の目的である情報収集を開始する。
 
「何かここ数年で大きな変化が起きたとか知らない?」

 ヤミたちの手がかりが何もない以上、このようにして何でもいいから情報を集めるしかないのだ。
 最も、エリルスに聞けば一発で分かるのだが、それでは再開した際の感動が薄れるのだ。
 せっかくここまで来たのだから、最後までやり通す。
 マスターはそうだな、と言いながら髭に手をやり考える素振りを見せた。

「最近新たな勇者が召喚されたのは知ってるか?」

「うん、知ってるよ」

「実はなその前にも勇者ってのが召喚されていたんだが、
 そいつらが今、行方不明なんだってよ」

「行方不明……なんで?」

 マスターの口から飛び出したのは俺が良く知る者たちの事だった。
 
「さぁな、本当に突然だ。何の前触れもなければ目撃した奴もいない。
 王国側も全く知らないの一点張りだ」

「そうなんだ……」

 こういった不可解な出来事って誰が関係しているか知っているか?
 人間でも無ければ魔物でもない――そうだ、くそったれの神様だよ。

「勇者になれなかった俺は異世界で」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く