勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

オーン

 姿を現したと思ったら直ぐに水中の中に戻ってしまったオーン。
 川の水が濁っている為、どこを泳いでいるか探すのは困難だ。

「さて、どうやって戦おうか」

「ん?ポチならちょちょいのちょいで倒せるんじゃないのか?」

 てっきり今回もポチがサクッと終わらしてくれると思っていたのだが、
 何やら悩んでいる様子だ。一体何を悩んでいるのか。気になった俺は心を読み取ったのだが、
 汚い水に触れたくないという物凄く下らない事だった。
 加護の影響で例え空からスライムが降ってこようとも汚れないと言うのに。
 
「分かったよ。じゃあ俺が戦うよ」

「うむ、頑張るんだぞ」

 先ほどまでスキルが封印されて窮屈で仕方がなく、むかむかとしていた。
 だが、あのくそったれな迷宮を抜けその縛りから解放された俺は最高に良い気分だ。
 今ならたとえどんな相手だろうとも楽しく戦える気がする。

「我が肉体よ真の力を解放したまえ――身体強化《リインフォースメント・ボディ》」

 突然、歓迎するかのように突風が吹き、身体を撫であげる。
 まるで俺の気分を代わりに現してくれた様な、大気までもが高揚している。
 これから命のやり取りをするというのに心はワクワクとしており
 全身に力が漲り久しぶりの感覚に思わず口角を上げて笑みを浮かべてしまう。

 短剣を片手に濁りきっている川に視線をずらす。
 目的であるオーンの姿は見えない――が、何の問題も無い。
 土が湿った様な臭いが鼻につき、呼吸をするたびに嫌気がさす。
 一応人間である俺でもこうなっているということは一応オオカミであるポチは
 もっと辛い場所なのだろう。そう考えるとこの泥水に触れたくないのも納得できる。
 
「我の眼は全てを見通す――魔眼《フルヴュー・アイズ》!!」

 一瞬だけ眼が熱くなり視野が一気に広がる。
 今ならば大気中にあるチリでも目視できそうだがそんなことして誰が得するのか。
 魔眼を発動した訳はただ一つ、いまだ濁った川から上がってこないオーンのステータスを確認する為だ。
 どれだけ水が濁っていようと関係ない。そこに魔物が居るのならばその方向を見るだけで良いのだ。
 川に視線を向けステータスと唱えると頭の中にオーンの能力値が現れる。

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オーン

Lv102
240,000/240,000
0/0
スキル
毒水LvMAX
触れている液体を一瞬にして猛毒と化す。

生まれながら魔力を持っていない魔物ですね。
常時発動しているスキルがありますが、魔力を必要としませんね。
かなり厄介ですが問題は無いでしょう。
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 只の汚い水だと思っていたのだが、それは大間違いだったらしい。
 毒、それも猛毒だ。何も知らないで討伐しようとしたら間違いなくやられていた。
 そんなことを思いつつ、この依頼の紙を思い出してみた。
 そこには、ランクは問わないと書かれていたのだが、
 こんなの最低でもAランクは必要ではないのだろうか。

 この依頼を受けるのは触れた液体を猛毒にするという知識があるのが前提なのだろうか。
 だが、たとえ知識があったとしてもオーンの24万の体力をどうやって削るのか。
 低ランクでは到底無理だろう。まぁ俺たちは例外だが。
 そのことを踏まえると報酬の高さも納得の相手だ。

 通常なら水に触れないようにして戦うのだろう。
 だが、この高揚した気分。そんな詰まらない戦い方をするのには勿体ない。
 短剣を力強く握りしめて猛毒など恐れずに泥水の中にダイブした。
 水泳など昔に授業で一二回やった程度だが、
 腕の角度を決めて飛びそのまま角度を維持して斜めに落ちていく。

 加護により水に身体が包まれるが一切濡れないという不思議な感覚だ。
 一気に身体が冷えるのを感じるが支障が出る程ではない。
 こんな泥水の中で目を開けるのは抵抗がある為、気配を頼りにオーンを位置を確認し
 一気に潜水して距離を縮め渾身の一撃で短剣を突き刺す。
 鱗の抵抗は一切受けずにすんなりと刃が通る。

――GAAAAA

 とでも鳴いているのだろうか。水中の為聞き取りにくい。
 予期していなかった苦痛に身体をねじらせ俺を振り落とそうとしている。
 だが、それは無意味であり逆にオーン自身を傷つけることになるのだ。
 どんなに硬い物でも切り裂いてしまう程の短剣が突き刺さっているオーン。
 そしてその短剣を持ったまま押し続ける俺。

 オーンが暴れることにより俺の身体は動き回り――その結果、身体は切り裂かれて行く。
 このまま勝手に自滅するのも時間の問題だと思った為、急いで次の行動に出た。
 突然、風が吹いているのを感じた。空気が体内に流れ込んでくる。
 川の流れる音、草が風に撫でられる音。それらを感じてから俺は目を開けた。

 そこは水中ではなく地上だった。そう、俺は転移を使いダイブする前の場所にオーンごと飛ばしたのだ。
 特異とするフィールドから出され、身体はボロボロになっている彼はもう虫の息だ。
 
「安らかに眠れ」

 最後に止めの一撃を――。
 血しぶきが上がると共にオーンの命は尽きた。
 
「見事だ」

「ん、どうも」

 

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