勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

二人の犠牲者

「では、ジアさん、ルルさん、ソナさんは此処で待機していて下さい」

 水の迷宮に入った直ぐの所に、空いた穴の前でレディアはそう三人に言った。
 ジアというのは怖そうなお兄さんの事で、ルルとソナはこの双子の女の子の名前だ。
 薄茶色の瞳をした方がルル、赤っぽい瞳をしているのがソナだ。
 此処に来る道中、軽く自己紹介をしていた。

 ここからは危険で本当に帰ってこれるのかわからない為、
 レディアは覚悟を決めるために何度も深呼吸をしていたのだが
 ジアが武器の素振りを始め、気がそれてしまった。

「レディアさん、俺も中に入るぜ」

 彼の口からそう飛び出し、レディアは思わず目を見開きジアの元へ駆け寄ってしまった。
 一瞬怒鳴りそうになったが、直ぐに冷静を取りもどし落ち着いた様子で声を出す。

「ジアさん、何を言っているのですか?此処からは本当に危険で――」

「ああ、十分知っている。だからこそ俺も行くと言っている。
 あのちびっこがこの中に入っているというならそれは俺の責任だ。
 それに、そんな危険な所に女性を一人で行かせる訳にはいかないだろ?」

 彼もこの水の都にかなり長い間居るため、ここから先がどれほど危険なのかは重々理解している。
 そんな危険を知っていたのにも関わらずソラ達に注意することが出来なかった。
 それが彼にとって凄く心残りなのだ。

(もし、俺が注意していればあのちびっこは此処に入らなかったかもしれない)

 だが、現実は何時も――いや、彼らは何時も非常だ。たとえジアが注意したところで
 ポチとソラの二人はそんなの聞く耳すら持たなかっただろう。
 どのみちあの二人はこの先に行く運命だったのだ。
 だが、そんな莫迦二人組の事を詳しくしらない彼はそう後悔しているのであった。

「駄目です!貴方は此処でこの二人を護っていてください!」

 魔物で現れず幾ら安全な場所とはいえ、完全に安全とは言えない。
 この世界にも腐った人間たちは山ほどいるのだから。
 そんなことは起きないだろうが、保険だ。

「え~私たちは大丈夫だよ?」

「問題ない、レディアが思っている以上に私たちは強い」

「なっ!」

「ほらな、こう言ってる事だし、な?」

 双子の少女が言っていることは間違いではないのだが、
 彼女らの実力を知らないレディアからしてみれば子どもの発言だ。

「ほら、見て、私たちのペットだよ」

「ひっ!」

「おおう、これは……なんというか珍しいな!」

 全く信用していないレディアの姿を見て双子の少女は時空を歪め
 ペットと称した化け物を取り出した。
 それは骸。骸骨に白髪の紙が生え下半身は零体化しているものだった。
 そんな禍々しいモノをだされ、レディアは思わず小さな悲鳴を上げ、
 ジアも若干引いてきた。
 そんな二人とは裏腹に少女たちはその骸骨の頭を撫でている。

「ジアが行かないなら、私たちが行っちゃうよ?」

「っ!わ、わかりました!ジアさんの同行を許可します」

 この少女たちなら本当に行きかねないと判断したレディアはジアの同行を許可した。
 許可された彼は大きくガッツポーズを決めていた。
 
「では、ルルさんとソナさんは今から二時間後にこのロープを投げ入れてください。
 もし、それから一時間経っても反応がない場合は直ぐに冒険者ギルドに帰り
 そのことを伝えてください」

 本当ならば数分後にはロープを引き上げてほしいところだ。
 もし、ロープを使って魔物が地上に出てきてしまっては大変なことになる。
 一時間でも非常に危険だが、これが妥協時間だ。

「わかった」

「待て、取り敢えず一回入ってみて出られるかどうか確かめてみれば良いんじゃないか?」
 
「そ、そうですね!そうしましょうか!」

 迷宮の中に入った二人はまず、散らかった荷物を見て驚愕していた。
 荷物の数がこれだけあるということは被害者はこれの倍はいると見積もって良い。
 そしてすぐに背後からロープが飛んできた。

「来たな」

「はい」

 二人は緊張しながらそのロープを伝って出口に向かって歩き――

「で、出れました」

「おお、本当だったようだな!」

 本当に出られたことに一安心したのもつかぬ間、二人は再び迷宮の中に入り込んだ。
 荷物をよけながら進み、奥へと進んでいく。
 何処からか風が吹き込むような音が聞こえ、ジットリとしている。
 壁には灯りである松明が掛けられているがその光りもぼんやりとだ。
 非常に薄気味悪い場所だ。できれば長時間は居たくない所だ。

「何もいませんね……」

「警戒は怠るなよ」

「はい」

 レディアは手紙に書いてあった魔物を警戒しているのだが、
 進んでも進んでもそれらが現れることはない。
 だが――半分ほど来た時にそいつらは出現した。

「来ます!」

 壁から何体もの気味が悪い魔物が現れた。
 二人は直ぐに剣を抜き構える。

「ジアさん、こいつらは頭、四肢、心臓を一瞬で切り離さないと復活します!」

「そ、そんなにか!?流石に無理があるぞ!」

「ええ、わかってます、だから手分けをしましょうか」

「そういうのはもっと早めに言ってくれ!!!」

「ええ、すいません。私は右手右足、あた――」

「いや、俺は頭と心臓、そして左の手足をやる」

 一瞬無理だと思ったジアだったが、良い案を思いついたようで一人でかなりの部位を
 切り離すと宣言した。流石に無理だと言おうとしたレディアだったが、
 彼は既に戦闘態勢に入っており、ここで余計なことを言うのは失敗につながる可能性があると
 ぐっと抑えた。

「では、行きますよ!」

「ああ!」

 目の前の魔物に突撃し、まず先に剣が届いたのはジアの方だった。
 右側の首から胸郭に向け切り裂き、腹部まで来たところで一旦左にずらした。
 これで頭、心臓、左腕は切り離された。そして左足を大腿の付け根から切断した。
 最後に念のため、切り離れた頭を踏みつぶし、心臓を一突きした。

 その間にレディアの剣も届き、右肩から剣をいれ、直ぐに腕を切り落とし、
 最後に足を切り落とした。
 すると、魔物は復活することなく消滅していった。

「で、出来ましたね」

「ああ、だが……これだけの量どうやって対処するかだな」

 レディアはともかく、ジアは先ほどかなりの力を使った為、
 これがあと何十回も続くと流石に無理がある。

「……やれるところまでやりましょう。もし厳しい状況になったら私を囮にし――」

「危ない!」

 彼女の後ろから迫っていた魔物が襲い掛かろうとした瞬間、
 ジアは飛び出し代わりに攻撃を受けてしまった。
 一瞬にして状態異常に掛かってしまい立っているとも困難になり倒れ込んでしまった。

「ジアさん!!」

「くっ……俺の事は置いて――」

「そんな出来ま――」

 そんな彼女も押し寄せる魔物の波に呑まれて行った――

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