勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

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 何回も何回も至近距離まで近づいて失敗し、離れて……の繰り返しをしている内に、
 色々と分かってきたことがある。まず、この化け物は基本的に動きは遅いが、
 攻撃する際にだけ覚醒し、素早い動きをする。攻撃力は大したことないのだが、
 当たってしまうと恐らくかなりの状態異常を受けるのだろう。

 ポチの加護、ヘリムの力によって何発か喰らっているがなんともないのだが、
 ポチ曰く、当たると面倒らしい。
 確かに、そうでもないとこんな攻撃力の低い相手に王国の騎士兼Sランク冒険者の
 お父さんやその仲間たちがやられるはずがない。

 そのほかに、こいつは見た目以上に硬いということだ。
 切れ味の良い短剣のため、特に感じることはなかったが
 一度距離を話すために化け物の事を壁代わりに蹴ってみると、驚くほど丈夫だったのだ。
 蹴った此方の方が怪我をしそうだった。
 人ではないが、見た目で判断するのは相手が何であれダメなんだと再び学習した。

 徐々に身体も温まってきた頃だ。あとは俺が如何にこの場を楽しみ興奮するかどうか。
 そもそも成功するかどうか分からない……わからないが成功させなければ進めないし
 諦めることはポチが許してくれない為どうにかして成功させなければなれないのだ。

 必死になって何度も何度も突っ込み、意識を集中させる。
 今大事なのはこの魔物を如何に素早く処理するかだ。
 徐々に動きが洗練されていき、今までよりも素早く動く。
 こいつから四肢、頭、心臓を切り離す。それだけだ。

 言葉では簡単だが、行動に移すとなると物凄く難しい。
 お父さんはよくここまで進めたな。素直にすごいと思う。
 その人はスキルを使わずに今の俺よりも強いということだ。
 向こうの世界でかなり頑張ったと思ったのだが、まだまだ足りなかったようだ。
 これからもっともっと強くなれなれば。

 ヤミたちを二度と悲しませない為に、もっと強くならないといけない。
 ならなければまだ会う資格はないのかもしれない。
 また悲しませてしまうかもしれないから。
 強くなるには強者と戦う必要がある。強者――それは今、目の前にいるこいつだ。
 こいつを倒せばもっと強い奴が待っている。

 早く――早く倒してそいつと戦ってみたい。
 もしかしたら俺では倒せない相手なのかもしれない。
 圧倒的な力でねじ伏せられ何度も何度も殺されるかもしれない。
 だが、その相手を倒せた時、それは非常に心地よい、達成感があるのだろう。

 それは、楽しみだ。ああ、本当に楽しい世界だ。
 もっと、戦って戦って戦って――強くなる。

「まずはお前だ」

 此奴を倒さなければ何も始まらない。
 だから早く殺されてくれ。温まっていた身体が冷たくなり、無気力な状態だ。
 頭の中は此奴を殺すことで埋め尽くされている。

「ほう……」

 ポチがそんな声を漏らしていたが気にする余裕はない。
 身体が勝手に動きだし――まるで身体強化を使っているかのような感覚に陥る。
 身体が軽い。距離を詰めてまるで流れ作業の様に頭、四肢、心臓を切り離す。
 一瞬だ。相手に何も感じさせない。

 化け物の体は液体となり、壁に染み込んでいった。

「もっとだ」

「そうか、なら進むが良い。沢山いるぞ」

 それからはもう、自分でも何が何なのか理解できなかった。
 目の前に化け物が現れたと思えば、次の瞬間には液体と化していた。
 それが何回も続き、気が付けば俺は巨大な扉の前まで来ていた。

「ん、あれ」

「む、戻ったか」

「あ、ああ、多分……状況説明頼む」

「突然、ソラの額に髑髏が現れたと思えば急に雰囲気が変わり、
 次々と敵を倒して行き、ここまで来たんだ。正直、我でも追いつくのが精一杯だったぞ」

 恐らくリミッター解除は成功していたのだろう。
 だが、途中で意識を手放してしまったようで記憶があいまいになっていた。
 ポチ曰く、俺が頑張ったらしい。

「どうせならこの先も行ってほしかったなぁ……俺」

「ふっ、それでは目的が果たせなかったかも知れないだろ」

「ああ、そういえばそっか」

 本来の目的、それは手紙を書いたお父さんに文句を言ったり一発殴ったりすることだった。
 リミッター解除状態だったら一発殴っただけでお父さんが豆腐の様に崩れてしまうかもしれない。
 危ない危ない。ナイス解除だ俺!

「じゃあ行くぞ?準備は良いか?」

「ああ、良い……が、ここから先は我も戦いに参戦するからな」

「うん、分かった」

 流石に俺の後処理だけでは暇すぎて仕方がないのだろう。
 この扉の先には一体どれほどの強者がいるのだろうか。
 それにポチの目的であるお父さんはまだそこに存在しているのだろうか。
 いろいろとワクワクしながら扉をゆっくりを開けた――

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