勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

娘さん

 手紙を読んでいくうちに受付嬢の顔はみるみるうちにかわっていく。
 俺たちは手紙を書いた主の事を全く知らなかったのだが、
 王国の騎士らしいので知ってる人からしてみればこの手紙は物凄い重要なものなのだろう。
 見ているこっちが引いてしまうほどの形相で手紙に食いついている。

「こ、この手紙は何処で……」

「んとね、迷宮の行方不明者多数って看板が立ってる所。少し進んだらあったよ」

 あの迷宮の性格な名所が分からないため、あやふやな言葉で説明するしかない。
 それにこの方が子供らしくて良いのではないだろうか。
 
「め、迷宮ですね。ちょっとここで待っていてください!」

 そういって大急ぎでカウンターの奥に姿を消した。
 その行動を見た周りから更に視線が集まるが気にしない気にしない。

「まだか?」

「ん、ここで待ってろって言われたからもう少し待っておくれ」

「そうか、退屈だ」

 恐らくだが、ギルド長に手紙の事を話してたりしているのだろう。
 この後、詳しく話を聞かれそうな気もするが、少しぐらいなら協力してあげよう。
 と言ってもポチが機嫌を損ねない程度だ。
 そんなことを考えていると先ほどの受付嬢が息を切らしながら戻ってきた。

「え、っと。今、人を呼んだので、もう、少し待っていてください」

「わかったー」

 今回はポチも聞こえていたらしく、少し不満気な顔をしていた。
 そんなポチに近付いて手を握ってみる。

「む、どうしたんだ?」

「ん~これから人が来るらしいから、説明とかは任せたよ。
 俺はあくまで弟って設定でね」

「面倒だな……まぁ任せておけ」

 正直に言うと先ほどまで姉弟設定を忘れていたのだ……
 受付嬢に手紙を渡すのもポチがやった方がよかったかもしれない。
 本当に子どもの姿というのは不便だ……良い時もかなり多いけど……
 掲示板を眺めたり酒場で飲んでいる冒険者を眺めたりとしている内に
 ドタドタと騒がしく一人の騎士が冒険者ギルドに走り込んできた。

「レディアさん、此方です」

 その声にレディアと呼ばれた女性は物凄い形相でカウンターに向かい、
 その勢いのままドンと手を叩きつけた。

「さっきの話、本当なの?!」

「は、はい、本当です。これが手紙です」

 その勢いに受付嬢さんも動揺してしまっている。
 手紙を乱暴に取り目を血走らせて文字を追っていく。
 正直に言って魔物より怖いかもしれない。
 手紙を読んでいるとなると、俺たちは彼女の事を待っていたのだろう。

「……これを持ってきた人は?」

「あちらの子供です」

 二人の事を離れた位置で見ていたら急に指をさされてしまった。
 まったく、人に指をさしちゃいけません。と習わなかったのか。
 
「は?あの小っちゃい子が?冗談でしょう?」

「いえ、確かにあの子が手紙を持って私に渡してきました」

「はぁ……もしかしてあの隣にいるお姉さ――ってめっちゃ綺麗ね」

「ああ、多分ですけど、あのお姉さんがあの子どもに任せたんですね」

 かなり大きめの声でそう言っているため、すべて聞こえている。
 さらりとポチの事を褒めたり、俺の事を小っちゃいと言ったり……忙しい人だな。 
 そんな忙しい人が此方に寄ってきた。

「これ、貴女が持ってきてくれたんですって?」

「ああ、そうだ」

 ここはすべてポチに任せて俺は知らないふりをしよう。
 身体をポチの後ろに隠して怯えていますよとアピールをしてみたり。

「そうですか、では、どうやってあそこから出てきたんですか?」

「普通にだ」

「……普通に出られるような場所じゃないでしょ!
 貴女の様なひょろひょろの女性が普通に出られるぐらいなら!
 私のお父さんだって――っ……すいません、取り乱しました……」

 ああ、この人手紙に書いてあった娘さんか。

 確かにポチからしてみれば普通に魔法を使って出たのだが、
 この世界でその普通は通用しない。
 急に声を荒げたのだが、彼女に悪気があるわけではない。
 王国の騎士である父親、それにたくさんの人々があそこから戻ることはなかったのだ。
 それなのに見た目は普通の女性であるポチが普通にと言ってしまい、
 少し感情的になってしまったのだろう。

「あそこは一度入ったら絶対に出られない場所なんですよ……
 私の友人も父と一緒に入ったきり帰ってこなかったです」

「ふむ、正確には外側からの協力が必要だったな」

 お?ポチが珍しく気を利かせているぞ。

「え?」

「我は外側から内部にロープを投げ入れてソラを救出した」

「ろ、ロープですか?そんな簡単な方法で……」

 そういえば、なんでこんなに簡単な方法を試していないのだろうか。
 俺の様な馬鹿野郎でも思いついた方法なのだが……

「情報は与えた。我とソラはこれから用事があるんだ。
 此処までにしてもらおうか」

「え、ちょ、ちょっと待ちなさい!」

 ポチは彼女を無視して掲示板の前に行き、目的の依頼の紙を手に取った。
 そして、ワーワー喚いている彼女の横を素通りしてカウンターに向かい、
 先ほどと同じ受付嬢に依頼の紙を差し出した。
 勿論、俺はそのあとをテクテクと歩いていくだけだ。

「こ、これは……本気ですか?」

「そうだ」

 きっとポチの心の中では、本気で殴らないと気が済まない。とでも思っているのだろう。
 手紙一つ、それも俺たち宛てに書いたわけでもないのに、大変なことになってますよ。
 王国騎士さん。天国で会おうとか書いてあったけど、これから貴方の身体は地獄行きです。

「そうですか……何があっても自己責任ですからね」

「ああ」

「は!?貴女正気なの!?貴女の様な顔だけ良い女が私の依頼を達成出来る訳ないじゃない!
 それに貴女にはその小っちゃい子どもが――」

 後ろからわきゃーわきゃーと言って来ていたのだが、急にポチが殺気を彼女に向けた。
 その凄まじい殺気に思わず周りの人々も唾を飲み込む。

「次、我のソラを小さいと言ったら殺す」

 そう一言だけ言い、静まり返った冒険者ギルドを後にした。

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