勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

水の迷宮

 宿屋のお姉さんに冒険者ギルドの位置を聞いてから、宿を飛び出した。 
 冒険者ギルドに向かうだけで二桁の噴水を見た気がする。
 どんだけ噴水があるのだろうか。全て数えてみるのも良い暇つぶしになるかもしれない。
 冒険者ギルドの中はリーン王国と大差ない。流石に噴水は設置していないか。
 少し期待してしまっていた……

「なんか依頼受けるか」

「うむ」

 相変わらず、よそ者に向けられる視線は何処の冒険者ギルドでもビシビシ伝わってくる。
 もう慣れているので大して気にせずに掲示板の前に行き、依頼の紙を見る。
 やはり、と言うべきか、噴水の掃除の依頼がちらほらと見える。
 流石にあれほどの噴水の数では依頼を出さないと厳しい様だ。

「ソラよ、楽しそうな依頼があるぞ」

「どれどれ、って一番上は見えないぞ。持ち上げてくれ」

 ポチが指さすのは一番上に貼られてある依頼で背伸びをしたところで見えない位置だ。
 持ち上げてもらいその依頼の内容を見てみる。

「何々……迷宮の行方不明者捜索。報酬全て。ランクは問わない、見つけてくれるなら。
 なるほど、非常に興味深い……」

 報酬全てとかランクを問わない当たり色々と怪しい気もするが、
 此処には迷宮があるのか。それは非常に興味がある。

「今日は依頼受けるの止めてその迷宮とやらに行ってみないか?」

「む、それは良いな」

 迷宮と言えば思い浮かぶ奴がいるのだが、それとは恐らく無関係だろう。
 迷宮、ダンジョン。これほど冒険心を擽る言葉はあるだろうか。
 
「あ、お兄さん」

「おう?おお!ちびっ子じゃねえか」

 誰かに迷宮の場所を聞こうと辺りを見渡すとそこには
 先ほど宿を教えてくれた外見の割には物凄く優しいお兄さんがいた。

「迷宮ってどこにあるか知ってる?」

「おう、知ってるぞ。門の場所は分かるな。
 門から出て右の川の中だ」

「え?かわのなか?」

 一体このお兄さんは何を行って居るのだろうか。
 川の中。確かにそう言った……川の中、川の中かぁ……

「ああ、そうだぞ。川の中って言ってもちゃんとした道があるから安心しろ
 濡れるなんて事は一切ないからな」

「なんだ、良かった」

 てっきり潜って迷宮に入っていくのかと思った。
 ちゃんとした道があると言うのならば安心だ。

「ありがと!行ってくるね!!」

「おう、気を付けるんだぞ!」

「はーい」

 このお兄さんやはり滅茶苦茶優しい。絶対良いパパになるぞ。
 お兄さんに言われた通り門から出て右の川の方に向かう。
 良く見ると、川の中に階段が設置されており、深く続いている。
 
「これはどうやって入れば良いのだ?」

「ん~どうだろ。お兄さんは濡れないって言ってたから実はこの水自体偽物だったり」

「なる程、入ってみるか」

「そうだね」

 どのみち濡れたとしても加護があるため何の問題もない。
 勢いよく川にぴょん!とジャンプすると、水に触れる事なく、
 スルリとすり抜けて階段に足が付いた。

「おお、なんかすごいな」

 新鮮な体験をしてテンションが上がり、そのまま階段を下りて行く。
 どうやら周りの水は本物の様で、魚が泳いでいる姿を確認できる。
 結構深く階段は続いており、地下に入りやっと迷宮が見えてきた。
 迷宮、と言ってもただの洞窟の入口が見えただけだが。
 その周りは広場になっており、武装した人々や出店がある。

「おお、楽しそうだね」

「ふむ、早く入ってみるぞ」

「だな」

 ワクワクしながら迷宮に入ろうとしたのが、武装した兵士に声を掛けられてしまった。

「見た所初めての人達だね」

「ああ」

「この迷宮は基本的には弱い魔物しか出てこないけど、一つだけ危険な場所があるんだ。
 入口から直ぐに右の所に看板が設置してある入口があるのだけど、
 そこだけは絶対に入らない方が良いよ」

「わかった」

 警告してくれた兵士に頭を下げてポチの後を追う。
 
「絶対に入らない方が良いってさ」

「入るぞ」

「だよな」

 絶対に入るなよ。って言われると絶対に入りたくなってしまうのだ。
 それはポチも共通らしい。
 入口の階段を少しおり、例の右の入り口を発見した。
 
「えーとなになに」

 看板には、行方不明者多数。危険。と書かれていた。
 どうやら此処があの依頼にも出ていた迷宮の場所らしい。

「よし、行くぞ」

「お、おう」

 ポチにぐいぐいと引っ張られ心の準備も出来ないまま危険地帯に入ってしまった。

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