勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

敵地の前でお食事

 目的地に向かう途中、アサフさんに色々とお話を聞いた所、
 久しぶりにリーン王国に帰ってきて冒険者ギルドに顔を出したら
 ユリさんが興奮しているのを見つけ何があったのかと気になり話に入って来たらしい。
 今日は特にやることも無かったので丁度良い暇つぶしになるようだ。

 俺としては有難迷惑な話なのだが……こうなってしまった以上は、
 全力で今を楽しんでみよう。それによく考えてみれば
 Sランクと言う最高の監視役がいるのだから実力を示すにはとても良い。
 山賊がどれ程の強さなのか分からないが、警戒する必要はないだろう。

「あそこの山の中ですね」

 テクテクと歩くこと数時間、目的地の山が見えて来たようでアサフさんが指を指して教えてくれた。
 なんの変哲もない普通の山にしか見えないのだが、
 あそこの中には凶悪な山賊たちがうじゃうじゃいると言う。
 何人もの冒険者が餌食になっていると言う情報があった為、多少の強さは期待できる。

「それにしても、どうしてソラ君は冒険者になったんだい?
 僕がその位の歳だった時は家でゴロゴロしていたよ」

「ん~なんでだろう。夢があるからなー」

 別に冒険者に夢などを見ていないのだが、子どもらしい回答をしておく。
 本当は身分証を作る為に冒険者ギルドに登録してお金を稼ぐ為だ。

「夢か、いいね!でも、無理は絶対に駄目ですよ。
 死んでしまったら夢も何も無くなりますからね」

「うん、分かってるよ!」

 一度死を体験してそれは痛い程分かっている。
 何もかもが消えるのはもう嫌だ。だから俺は強くなる。
 もう何も失わない様に誰も悲しませない様に。

「ちなみに、ソラ君はどの程度戦えますか?」

「最近戦ってなかったから分からないけど、山賊位なら問題ないと思う。多分……」

 山賊?そんなの苦戦するまでもない……とか言ってボコボコにされたらどうしよう。
 一応保険を掛けて置こう。

「何かあったらアサフさん助けてね!」

「ええ、勿論。ソラ君に何かあったらユリさんに何されるか分からないですからね」

 どうやらアサフさんもあのお説教お姉さんの恐ろしさをしっている様だ。
 Sランクの人でも恐怖心を抱くとは……本当に逆らってはいけない人物なのだろう。

「あははは……あの人本当に怖い」

「ん、ソラ君もユリさんの名前知っているんだね」

「うん、この前教えてもらった……お説教の後に」

「ああ……それは……大変だったね」

 やはりこの人もあの説教を体験している様だ。
 これから戦うと言うのに全く緊張感のない会話をしていると森の目の前までたどり着いていた。
 近付いてみてもごく普通の森だ。中からは魔物や虫の鳴き声が聞こえて来る。
 草葉が擦れる音、風の音……本当に山賊などいるのだろうか。

「ん~どうしようか」

「?何か問題でもあったの?」

 目的地が目の前だと言うのにも関わらず、何か悩んでいる様子だ。
 Sランクにしか分からない問題でも発生しているのだろうか。
 何も問題点を見つけられずに困っていると――

――グゥウゥウウ

 と、アサフさんの腹の虫が鳴った。
 問題解決――どうやらお腹が空いている様だ。時間も丁度昼頃だ。

「お腹空いたね。此処で何か食べよ!」

 昔、雑誌か何かで、相手のお腹が鳴った時の対処方が書かれていたのを思い出した。
 聞いていない振りや笑ったりするのは相手からしてみれば恥ずかしいらしく、
 此方もお腹が空いた事をアピールするのが良いらしい。

「ははは、そうですね。此処で済ませてしまいしょうか」

「でも、何も持って来てないよ?」

「大丈夫です。僕が今此処で作って見せます」

「おぉ、楽しみ!」

 敵地の目の前だが、そんな事は関係ない。腹が減ってはなんとやらだ。
 アサフさんは時空を歪ませそこに手を突っ込んで色々なものを取り出した。
 肉やら野菜やら……鍋やら包丁やら……この人は本気で作るつもりだ。

「ソラ君はそこで座っていてくださいね」

「はい」

 普段からこういった事をしているのだろう。手慣れた動きで薪を集めて火を付けて
 食材を切って鍋に入れて――本格的に料理をしている。
 俺はそんな光景をボケ~と座りながら見ていると――

「ん?」

 ベロリと右の頬が何か湿ったモノが触れてきた。
 何かと思い右を向いてみると、そこには巨大な獣の口があった。
 今の子供の身体なら軽く一口で食べられてしまうほどの大きさだ。
 一瞬、驚いたが巨大な獣は何時も近くにいて見慣れているので直ぐに冷静になり
 その獣の事を観察する。

 ポチには到底叶わないがモフモフの毛が生えている白いゴリラがそこには居た。
 ゴリラと言っても身体だけで顔は何故か狼の様なものだ。
 今まで見た事も無い魔物だ。
 大きな瞳でこちらの事をジーとみてくる。敵意があればとっくに食べられている為、
 このゴリラ擬きさんは何らかの敵意ではない興味をこちらに抱いている様だ。

「こんにちは」

 取り敢えず挨拶をしてみる
 すると、何故かその場に犬の様に伏せ、巨大な顔が真横に座り込んだ。
 そして俺は何も迷う事は無く本能のままにそのモフモフの顔をナデナデし始める――

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