勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

怪しい店

 大した話はしなかったのだが、シズカはそれでも約束通りに一杯ご馳走してくれた。
 彼女が紹介してくれる食べ物は全て美味しく、冒険よりも美食家の方が向いているのではないか
 そうとまで思ってしまうほど食べたものは間違いなかった。
 勇者である彼女と共に行動しているお蔭で他の兵士から声を掛けられる事はなく
 割と快適に食事を済ませる事が出来た。

 彼女はまだ聞き込みの仕事が残っていると言って再び商店街の人混みの中に消えて行った。
 その背中を見ながらこの世界に慣れてきたのだな~と思いながらポチに手を引かれ宿に帰っていく。

「ふぃ~お腹いっぱい。結構美味しかった」

「そうだな、悪くはなかった」

 ポチさんもお気に入りの様だ。これで明日のご飯は決まりだ。
 予定としては少し早起きしていくつかの店を回って服を買い、
 お腹が空けば今日紹介された店でモグモグと。
 簡単な予定だが服選びにはかなりの時間を費やすことになるだろう。

 その日の夜は昨日の様な事は一切なく、普通に同じベットでぐっすりと仲良く眠った。
 翌朝、目を覚ましささっと朝の身支度を済ませる。今日でこの宿とはお別れなので
 出来るだけ綺麗な状態にしてから出て行く。別にそんな事する必要はないのだが、
 色々とお世話になってしまったのでそれぐらいはしていく。

「さて、何処から行くのだ?」

 外に出て早速ポチがそう尋ねてきた。
 何処の店に行く――など具体的な予定は一切立てていない。
 何と言っても今日一日を服選びに使う予定なのだ。そんな予定立てていなくても問題ない。

「時間はたっぷりあるんだ。気になる店があれば寄れば良いさ」

「ふむ……それは、楽しそうだな」

 楽しみにしてもらえて何よりだ。
 朝は人が少ない為非常に歩きやすいのだが、ここでも手をがっしりと握られたままだ。
 テクテクと歩いていき、ポチが何やら気になる店があった様で足を止めた。

「その店に行っても良いか?」

「ん、ああ問題ないぞ」

 わざわざ一言いわなくても良いのに……その店の中に入るとそこは
 見るから女物の服しか置いていない店だ。
 男である俺からしてみれば色々と目のやり所に困るのだが、
 子供なのでそんな事は気にしない様にしよう。

「ソラよ、これなんかはどうだ?」

「ん、おお」

 ポチが持ってきたのは黒いワンピースに薔薇が装飾されたものだった。
 スタイルの良いポチが着れば間違いなく似合うだろう。
 そもそもポチならばどんなスタイルにだって慣れるのだから似合って当然じゃないか。
 なんだかずるいな。

「良いと思うぞ、なんだか大人っぽく見える感じだ」

「ふむ、そうか。ならこれを買うか」

 意外とあっさりと服を決めるポチ。
 この勢いで行くとそんなに時間は掛からないのではないのだろうか。
 今ある手持ちは全てポチの服代にするつもりなのでまだまだ買える。
 次の店を探しに商店街を歩き数分後、気になる店があった様で再び足を止めた。

「少し怪しいが行っても良いか?」

「ああ、全然構わないぞ!俺とポチなら何があっても平気だ」

「ふっ、そうだな」

 どんなに怪しい店に入ろうが、今なら何にでも勝てる。
 そんな自信から堂々と店の中に入っていくのだが――

「うわぁ……」

 思わずそんな声を出してしまった。
 店内は見るからに怪しい物ばかりで埋め尽くされていた。

「いきなり入ってきてそれは失礼だな」

「うわっ!」

 店員の顔も怪し――物凄くやせ細っており骸骨の様だ。
 店員も商品も怪しい店……明らかに服など買うところではない様だ。

「此処は何だ?」

 ナイス質問だ。ポチ!

「此処は呪いの品を扱ってる場所さ」

「呪い……」

 完全に目的地ではない様だがポチは興味津々の様でジックリと怪しい品を見ていた。
 俺も恐る恐る見てみるのだが、どれも趣味が悪く到底手を出すことなど出来なかった。

「値段が書いていない様だが?」

「ああ、うちは金は取らない。その品をふさわしい奴にあげるんだ」

「ほう、そうなのか。ではこれを譲ってほしい」

 ポチがそう言って手に持ったのは真っ赤な骸骨が付いた指輪だった。
 そんな不気味な物のどこが良いのだろうかと疑問に思ったのだが、
 よくよく考えれば此処は呪いの品を扱っている場所なのだから
 表面ではなく内部に何か秘めているのだろう。

「駄目だ。あんたみたいな女には渡せねぇ」

「何故だ?女だから無理だと言うのか?」

「女だからって訳じゃねえが、あんたはそいつを護ってやらなければいけないんだ。
 そんな奴にそれは似合わねえ――それに俺は相手のステータスを覗けるんだ。
 あんたは全く強くねぇ、呪いを発動したら逆にやられるぞ」

 この怪しいお兄さん怪しいようで意外と真剣に考えてくれている様だ。
 色々と言われているが当然、ポチはそんな事関係なしにグイグイと攻め込んでいく。

「我が弱い?確かにそうかもしれないが、この呪い如きに負けるはずが無い」

「はぁ、困ったな……ばっちゃん!!ちょっと来てくれ」

 中々諦めないポチにため息を吐いてばあちゃんを呼んだ。
 カウンターの奥からしわしわの優しそうな御婆ちゃんが現れた。
 この怪しい男とは全く違う。

「なんだい」

「この女がなかなか引き下がってくれねぇんだよ。
 こういう時はどうすれば良いんだ?ばっちゃん」

「……あんた、どうしてこの女性に譲れないんだい?」

「どうしてって、そりゃあ、女が強くないし子どもだっているんだぞ?」

「はぁ……何もわかってないよ」

 どうやらこの御婆ちゃんはポチの本当の実力を見抜けている様だ。
 先ほどから警戒心がビシビリと伝わってくる。

「あんた、それ持っていきなさい」

「ええ!!なんでだよばっちゃん!ボケたのか??」

「ステータスで判断するなと言っただろうに……気配を感じてみ、そうすればあんたにも分かる」

「気配って――ああ、こりゃ凄い……」

 ステータスからは実力が読み取れなくても気配を感じ取れば分かるようだ。
 流石はポチ。気配だけで商品を貰ってしまった。

「すまなかった。それはあんたに相応しい……だけど使い方は絶対に間違うなよ!」

「ああ、分かっている」

 この怪しいお兄さん絶対に良い人だ。
 恰好をまともにして仕事場を変えれば成功するであろう。
 そんな事を思いながら店を出た。

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