勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

勇者と裏路地にて

 支度を済ませて部屋から出る前にがっしりと手を繋がれたまま外に向かう。
 何時もはぐれない様に手を繋いでくれていたのだが、今回のはそれとは違い、
 ものすごく力強く絶対に離さないと言った意思が伝わってくる。

 外に出て少し商店街を歩いただけで早速兵士たちに声を掛けられてしまった。
 別に此方が怪しいとかそういった訳では無く、この兵士たちは目に入った人に
 片っ端から話を聞いている様だ。此処最近リーン王国や付近では大災害になりかねない
 出来事ばかり起こっているので兵士たちが必死になるのも仕方がない事だ。

 勇者を召喚する以上はそういった事が起きることぐらい予想しておけば良いのに、
 と思うのだが、流石に魔王や大魔王が直接やってくるとは想像すらできないか。

「そこの二人、少し良いか?」

「我らは旅の者だ。貴様らが求めている情報は何も持っていない」

 そう言ってキッパリと兵士たちを突き放して再び歩きだすのだが、
 流石にそう簡単には見逃してくれない。兵士はポチの肩を掴み足を止めさせる。
 だが、そんな事されて黙っているポチではない。

「――っ!!」

 肩に触れた兵士が声にならない叫び声を上げて膝から崩れ落ちてしまった。

「女性に気安く触れるな」

 そう言ってその場を立ち去ろうとするのだが、
 当然周りの兵士たちに取り囲まれる事態に発展する。
 ……ポチさんやい、ついに性別が決まったのか。

「貴様、何をした!――取り囲め!!」

 面倒事に巻き込まれたくないから今日はゆっくりしてようと思ったのに……
 結局こうなってしまった。6人の兵士が素早く集まり俺たちを取り囲む。
 全員の表情は真剣で既に武器を抜きこちらに剣先を向けている。

「今すぐ武器を捨て、手を頭の後ろで組め!」

 此処は大人しくしたがって早い所解放されようと大人しく兵士の言葉に従うつもりだったのだが、
 ポチに手を繋がれているため手を組むことが出来ずにいた。
 俺の手が握られている状態と言う事は当然ポチは従うつもりなど一切なく、
 面倒臭そうな表情で兵士の顔を見ていた。

「何をしている!早くしろ――っ!!」

 一向に従う素振りを見せない此方に苛立った兵士が声を荒げる。
 このままでは本当に斬りかかられてしまうのではないかと思うほど兵士は興奮気味だ。
 仕事が忙しいのは分かるけどそうカッカしないで欲しい。

「何してるの?」

 これからポチはどうやってこの状況から抜け出すのだろうか
 そう思っていると天使の様な助けの声が転がり込んできた。
 兵士たちの視線が一瞬声の主の方に向き、それにつられて俺もそちらを向く。
 するとそこには、見知った顔の真の勇者が立っていたのだ。

「シズカ様!怪しい者達を捕らえようと――」

「その人達は私の知り合いだから怪しくない。此処はもう良いから他の所行って」

「はっ、そうだったのですか――撤収するぞ!」

 流石は真の勇者だ。たった一言で兵士たちが全員退いて行った。

「助かった」

 折角助けて貰ったと言うのにポチはその一言だけ言い残してその場を去ろうとしていたが、
 彼女は急いで俺たちの前に立って行く手を塞いできた。

「何だ?」

「少し話しをしたい。そこの裏路地に来て」

「黙れ。ソラはお腹が空いているのだ。邪魔をするなら――」

「後でたっぷりご馳走する」

「なら、良いだろう」

 あっさりと意見を変えてしまったポチさん。そこには俺の意思など関係ない様だ。
 連れていかれるがままに裏路地に入り適当な場所に腰を下ろす。

「話しとは何だ?」

「実は明日、神?と面会があるらしい……面倒だし何だか嫌な予感がする」

「!」

 神との面会、俺はその言葉に反応し素早く魔眼を発動させて
 彼女のステータスを覗いた。

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ミズノ シズカ

Lv10
体力:15,000
魔力:20,000
攻撃力:400
防御力:1,500
素早さ:550
運:70

言語理解Lv1
少しの言語なら理解でき、読み書き出来る。

剣術Lv5
剣を振り回せる。

眠りを妨げる者は――スリープヒンダァマッサークルLvMAX
邪魔する者は――。

眠たいネムタイLvMAX
常に眠たい代わりに魔力が常時回復していく。

真の勇者LvMAX
勇者の中の勇者。強いですよ。

すごい育ってますね~流石真の勇者です。
そのうち抜かされちゃったりしちゃったり???
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 魔眼さんが何やら言って居るが、今はそんな事を気にしている暇はない。
 俺はステータスを端から端までじっくりと確認して胸を撫で下ろす。
 どうやらまだ大丈夫の様だ。

「何が不安なのだ?」

「わからない、だけど嫌な予感がする」

「そうか、なら気を付けるが良い」

 彼女の嫌な予感と言うのは恐らく当たるだろう。
 彼女たち真の勇者の真の意思があるのは今日で最後。
 勇者が神との面会をする――それが意味する事は嫌でも分かっている。

「シズカさん」

「ん?」

「もし、どうしようもなくなって自分たちじゃどうにもできなくなって
 本当に辛くなったら『魔王を倒すのは私だ!』って声にだして言い聞かせてね」

「どうして?」

 同じ故郷の好だ。これぐらいしてやっても良いだろう。
 俺が伝えたのは簡単に言うと暗号の様なものだ。
 周りからも怪しまれずに勇者として当然の発言。
 大勢の前でそう言っても別に不思議ではないだろう。

「その言葉には魔法が込められているんだ!諦めずに何度もそう言えば
 必ず助けが来るよ!だから他の二人にも伝えてあげて!」

 もう一度ぐらい助けてやっても良いだろう。
 それにもしあの糞神が関わっているのならば――全力で邪魔をしてやりたい。

「うん、わかったよ」

「それと、嫌な予感は大体当たるからね。
 状態異常耐性系のスキル覚えて置いた方が良いよ!
 Lv1程度なら数時間もかからないで覚えられるからね」

「そうなんだ、随分と詳しいね。早速やってみるとするよ」

 状態異常耐性Lv1でも無いよりはあった方がマシだ。
 少しでも救える可能性を上げたい。

「そろそろ良いか?ソラが可哀想だ。さぁ、飯をご馳走しろ」

 なにもしてないポチだが発言はしっかりと覚えている様だ。

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