勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

夕方

 散々な目にあわされやっと寝付けたのは既に日が上るり始めた頃だった。
 疲労に押しつぶされて一瞬で意識が闇に呑まれていき、気が付いたのは
 既に綺麗な夕日が上っている時間帯だった。
 久々にこの時間帯に起きるのだが、そんな懐かしい体験に浸っている余裕はない。
 それよりも大変な体験をしてしまっているからだ。

「やっと起きたか」

 背後から聞こえるその声に思わず身体をビクリを震わせてしまう。
 昨夜の事を思い出すとどうしてもビクビクとしてしまうのだ。
 乱暴な初体験で一生忘れられない記憶になるだろう。
 もう俺の身体は汚れてしまったよ、ごめんよヘリム、約束果たせそうにないや……

 そう思ったりもするのだが、実を言うとこれで良かったとも思っている。
 どうせ自分から行くことは絶対に無いと断言できる為、
 ポチが行ったように強引に出ないと恐らく一生卒業は出来なかっただろう。
 ヘリムにはしっかりと土下座でもして謝ろう。

「……おはよう」

 現在、俺はポチに抱き枕の様に扱われており、逃げようにも身体に足が巻き付いている為
 身動きが一切取れない状況にある。ポチに背を向ける形で寝ている為、表情を確認することは出来ないが、
 昨日、あれだけ俺の事をいじめたのだ、機嫌がなおってないと困る。
 声色からして何時も通りのポチだったので取り敢えずは一安心。

「すまなかったな、色々と制御できなくて……我の事嫌いになったか?」

 昨日のポチからは想像もできない程、弱々しい声を出してそう呟いた。
 昨日の衝撃が強すぎて思わず驚いてしまう。
 嫌いになったかどうかで言われれば、別にポチに対する好感度は動いてはいない。
 良くなる訳でもなく悪くなるわけでもない。
 ただ、少しだけポチが恐ろしく感じただけだ。

「大丈夫、あれは俺が悪かったよ」

 昨日は色々と学ぶ一日だった。大きく学んだのはユイさんとポチさんを
 怒らしてはいけない事だ。本当に、この世界で生き残りたいならあの二人には逆らわない事だ。
 ポチが怒った原因も少し理不尽な気がするが、俺の不注意が招いた結果だ。
 これからはユリさんや他の異性と関わる時は気を付けよう。

「そうか、なら良かった。我は後悔はしていないからな、これでソラは完全に我のものだ
 親友の一線を越えたのだ、もう離しはしないぞ」

「よ、よろしくおねがいします……」

 元からポチと離れる気など無かったのだが、確かにあんなことをされてしまえば
 もう離れる事はできないだろう。離れたとしたら何を言い振らされるか分からない。
 出来ればこのことはヘリムにしか伝えたくないので他の皆には内緒だ。
 そのためにもこれからはポチから目を離すわけにはいかない。

「さて、ソラよ今日はどうする気だ?」

 俺も大して恥ずかしがっては居ないのだが、昨日あんな事をしたのにも関わらず
 普通に話せるポチさんは凄いや。いや、別にこれが普通の反応なのか?

「ん~もっと早く起きる予定だったんだけどなぁ……
 今から服買に行ってもゆっくりできなさそうだからそれはまた明日にしよう。
 今日はこのままゆっくりするか?」

 流石に夕方から服選びをしてしまうと真夜中になってしまうので、
 あまりゆっくりと選べないため今日はやめておこう。

「うむ、それが良いだろうな。今日は朝から騒がしいからな」

「ん、そうなの?」

 窓から外の様子を見ようとするのだが、
 ポチにガッチリホールドされている為それは叶わなかった。

「ポチ、そろそろはなしてくれ。あと俺の服を返してくれ」

「む、分かったぞ」

 そう言ってやっと解放された俺は思いっきり背を伸ばす。
 その間にポチは昨日勝手に持って行った俺の執事服を持って来てくれた。
 しかも数着持って来ている。

「全部新しくしておいた。もう汚すなよ」

「……はい、わかりました」

 態々また新しい執事服をつくってくれた様だ。
 たかが匂いが付いているだけで、と思うかもしれないが、
 ポチにとってそれはたまらなく嫌だと言う事は身に染みて伝わっている。

 ささっと着替えて窓から外の様子を見てみると賑わっては居るのだが、
 よく見てみると兵士の数がいつも以上に増えており客たちに話しかけたりしている。
 更に見てみると、そこには顔見知りの真の勇者さんの姿もあった。

「何か物騒になってきたなぁ」

 兵士は何時もの軽装備ではなくガッチリとした鎧を装備しており、
 武器も槍だけではなく幾つか装備されている。
 恐らく昨日の騒ぎの影響だろう。
 俺にとってはとても良い事だったのだが、国からしてみればアレは大参事だったのだろう。

「ん~どうしようかな」

 最近まともに食事をしていないため、何か買いに行こうかと思っていたのだが、
 話しかけられたりするのは面倒だ。

「どうしたんだ?」

「なんか食べたいな、って思ったんだけど何か面倒そうだな~って」

「そうか、なら行くぞ。何があっても我が護ってやる」

 あら、頼もしい。
 服が無いポチは適当に昨日作ってあげたコートを着て外に行く準備を始めた。

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